第7話 ダラけさせてくれない

 今日は休日。シェアハウスには俺の宿主が4人勢揃いであり、リビングには入りづらい。

 さらに片付け下手4人全員が現在進行形で活動しているということもあり、共用部屋の掃除も今日はお休みだ。

 宿主たちの休日は俺にとっても休日というわけである。


 今日は暗い自室でじめじめゴロゴロ生活だ。

 そう思った矢先に、太陽のような明るい声が俺の部屋に光をもたらす。


風流ふうりゅうくん!」


 扉を開けてやってきた声の主はもちろんれいである。

 今日の嶺は鬱陶しさが倍増している気がする。


「ん……なんだよ嶺。今日の俺は爬虫類みたいなじめじめ生活をすると決めてるんだよ。はやく閉めろ」


「哺乳類が何言ってるのよ」


「んで、用件は」


「今週の買い出し当番になったから、荷物持ちをしてほしいの」


「断ったら?」


「風流くんの部屋をMMマジックミラー号にします」

「おっと……ちょっと興味あるけどそれは嫌だなぁ」


 俺は布団から飛び起きる。

 やれるもんならやってみやがれ。そう返しても良かったが、嶺ならやりかねない。


「わかった。準備するから待っていてくれ」


 ***


 嶺の車に揺られて日本最大手のショッピングセンターへと向かう。

 買い出しに車を使い、わざわざ遠くのショッピングセンターに来るとは、さては節約術を知らないな。

 そう思っていたが、嶺は一階にある食材売り場を何も買わずにすり抜けた。


「あれ、嶺? 食材を買いに来たんじゃないのか?」


「食材なら家の近くの安いところで買うよ」


「ならここには何をしに来たんだ」


「デートだよ?」

「荷物持ちは?」

「うそ」

「ええぇ……」


 嶺はまったく悪びれることなく、さらに俺の指に自分の指を絡めてくる。

 俗に言う恋人繋ぎというやつだ。


「もう君は逃げられないんだから、諦めて私に惚れちゃいなよ」


 太陽のような笑みで言われた。

 よく嶺はそんな口のあたりが痒くなる発言が出来るものだと感心する。

 告白くらいは俺もしたことあるが、聞いてて恥ずかしくなるようなものではなく、無難な普通の告白だった。


 勇気を出して言ってくれたんだろうが……いや、嶺はこのくらいが平常運転か。


「……全力で抵抗する」

「あはは、いくよー!」


 それからゲームセンターへ行き


「風流くん。奥行きはボタン2.6秒、右に3.1秒、アームの回転0.8秒だよ。わかった?」

「できるか!」


 本屋へ行き


「何か欲しいシリーズがあったら大人買いするよ? 整頓の時間の暇つぶし用に」

「なんで俺が整頓中に本読んでるの知ってるんだ」

「こないだ読みながら寝落ちしてたから(ほんとは監視カメラだけど)」


 ご飯を食べ


「嶺」

「なに?」

「ご飯を撮ると見せかけて俺を撮るのやめてくれないか。食べづらい」

「あっはっはっ、もう撮らないから安心して食べていいよ」

「不安だ」


 服を選び


「風流くん。これから下着選びに行くからついてきて」

「普通はついてこないでじゃないのか」

「それはまだ友達感覚の男女だよ。する時どんな下着を着けてほしいのか、私は君の好みをしっかり聴いておきたい」

「する予定はないから1人で行け」


 その後はお土産を買い、なぜか電化製品コーナーで監視カメラを吟味して。


「やっぱり画質が良くないと……うーん」

「(女4人で暮らしてたわけだし、防犯用の監視カメラくらい買うか)」

「(風流くんをしっかり撮れないし)」


 そして車に帰ってきた。


「はあぁぁぁ……疲れた」


 結局、かなりの量の荷物を持つことになった。荷物持ちというのは本当だったらしい。


「でも楽しくなかった?」


 嶺が車のエンジンをかけ、こちらを一切見ずに言ってくる。

 言われてみれば、俺も普通に楽しんでいた気がする。


「楽しかったよ。誘ってくれてありがとう」

「私もありがとうだよ。君と買い物に行けてすごく幸せだったから」


 相変わらず口のあたりが痒くなるセリフをよく言えるものだ。

 そう思い、ふと嶺の横顔を見ると頬は真っ赤に、口角はかつてないほど吊り上がっていた。


「……ほんと、幸せそうだな」


「あ……!? さては顔を見たね? 家につくまでこっちを見ないこと! 見たら風流くんの部屋を逆MM号にするからね!」

「それは絶対に嫌なやつだな」


 結局、家に帰ってからも嶺の幸せ顔は直らなかった。

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