第4話 役割が欲しい

 ある日のリビング。

 俺は一冊の雑誌を読んでため息を吐く。


「はぁ……」


「どうしたの風流ふうりゅうくん。珍しくリビングにいるね。かまってほしいの?」


「んなわけないだろ。少々強引とはいえ、養って貰ってるのに何もしないのは悪いと思ってな。リビングの整頓だ」


「あらあら、とうとう専業主夫になる気になったのかな?」

「単なる罪悪感だ」

「だよねー」


 軽い口調で言っているが、れいは確かに残念そうな声音を含んでいた。


「俺はもともとちゃんと仕事をしていたわけで、ヒモ男になるつもりなんて無かったからな。やはり何かしらの役割は持っていないと不安になる」


 ヒモ男は普段どんな生活をしているのか、ネットで調べてみた結果、家事かギャンブルをして過ごしているらしい。あとは夢を追っているとのこと。

 しかし、ギャンブルという選択肢は俺にはない。家事一択となる。


 家事といっても種類は様々だ。料理は素人だし、洗濯は勝手にやる勇気がない。嶺のものならともかく、嶺の友達たちはそこまで仲良くない男に下着類をきれいに畳まれていたら嫌がるに違いない。

 一応俺は車の免許を持っているため、仕事場までの送迎は可能なのだが、脱走対策なのか付き添い監視がいなければ外出できないことになっている。

 となると、勝手にやっていても怒られなさそうなのが共用部屋の掃除である。


 シェアハウスは自分に与えられた空間は自分で掃除をするのが基本だ。ならばリビングや風呂、トイレといった共用スペースの管理は誰がするのか。風呂掃除は日替りだが、もうすでに俺がやっておいた。

 誰とも決まっていない共用部屋の管理人に俺が就任できれば、この家の居心地も向上するはずだ。


 そう思い、さっそくリビングの本棚を整理し始めたのだが、本棚の整理は思いの外、足止めされるものだ。

 例えば……。


「ホストの専門雑誌って……嶺のか?」


「違う違う。リビングにあるのは全部みんなが読む雑誌ばかりだから、誰のって物はないかな」


「ファッション雑誌とかならわかるが、ホストオンリーの雑誌を共用するのかよ」


「みんなホストクラブ大好きだったからね。カッコいい男の人を見てる時は仕事の疲れとかストレスを全部忘れられるんだよ。週4くらいのペースで4人で行ってたかなー」


「かなりの頻度だな。まさにホストの沼にハマった感じだが」


「でしょー? 4人で使ったお金を足したら高級車買えちゃうよ?」


「そんだけ払えるのがすごいよ。他の3人もいい仕事してるんだな」


「まぁ、仕事はストレスを溜めるものだからね、ホストに使ったお金は必要経費と割り切ってるかな。それにもう、私たちはそんな大金払わなくても、君1人を養うお金だけでストレスが全部吹っ飛ぶんだから」


 嶺に後ろから抱きつかれた。

 体を預けてくる。

 柔らか。

 いい匂い。

 あったかい。


「嶺」


「んー? なに?」


「重い。邪魔。整頓できないだろ。どけ」

「あれ、なんか酷くない? ボソッと小声で好きとか入ってなかった?」


「入ってないし、本当のことを言っただけだ。はやく手をどかせ」

「そんなんだから店一番不人気ホストですぐクビにされたんだよっ。風流くんの馬鹿!」

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