第3話 反抗期になってみる

 私の名前は桐嶋嶺きりしまれい

 容姿端麗かつ文武両道のエリート女医。

 さらに私生活は学生時代の親友たちとシェアハウスで暮らし、推しホストとの同居を実現させた、まさしく完璧な人生を送っている。

 しかし、最近この完璧な人生に小さな亀裂が入ってしまった。


「ただいまー!」


 仕事を終え、愛しの我が家に帰る。

 玄関を開けるこの瞬間、私は一番安心する。

 さぁ、みんな、私は帰ってきたよ。お帰りって言っておくれ。


 しーん


「あれ? おーい。嶺だよー」


 しーん


 そういえば今日の私は夜勤明けじゃん!

 そりゃ誰もいないよね。みんな仕事に行ってるわけだし、誰も。

 誰も。

 ん? 誰もいない?

 そんなわけないじゃない。


「こらー! 風流ふうりゅうくーん!」


 階段を大きな音をたてて駆け上がり、ノックもしずに扉を勢いよく開く。


「うわっ……何だよ急に」

「なんで出迎えに来ないのー!」

「ええぇぇぇぇ……」


 回想終わり。


「という感じで、風流くんが反抗期になってしまったの。まといちゃんはどう思う?」

「少なくとも反抗期って歳じゃないと思います」


「そんな……反抗期じゃないとなると、本心で反抗してるってことになるじゃない」

「だからそう言ってるんです」


「死ぬ! 死ぬ! 私死ぬ! 風流くんが出迎えに来てくれない世界なんて、お帰りって言ってくれない世界なんて! 仕事のストレスで死んじゃう!」


「嶺さん、床でじたばたと暴れないでください。関係悪化の心当たりはないんですか?」


「ない!」

「いや、どう見ても部屋に無理やり連れ込んだのが原因ですよ!」


「だって風流くんは私のヒモ男なんだもん!私が養ってるんだもん! 野生のヒモ男をGETしたら好きに命令していいって薄い本でみたもん!」


「どこから知識を得てるんですか……」


「風流くんと仲直りしたいよおぉぉぉぉ……うわあぁぁぁん!」


「謝ればいいんですよ!」


 回想終わり。


「ということで、今から嶺さんが謝りに来ますから、優しく許してあげてください」


「あ、はい」

「それでは。お願いします」


 俺に頭を下げて、纏さんは戻っていった。

 纏さんも大変だなぁ。

 あんなでっかい子供みたいな友達を相手にして、家をシェアまでして、そうとう仲が良くなければ続けられないだろう。


 しかし、こうやって俺と嶺の関係改善を手伝っているあたり、纏さんはそこまで俺の存在を邪魔には思っていないのかもしれない。


「うう……ごめんね風流くん。もう部屋に連れ込まないから出迎えに来てください」


「……わかった」


 こうして俺の【ガン無視し続け、関係悪化で家出作戦】は中止となった。

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