第19話 復縁
「……そうね、すべて君の言う通りよ、想推くん」
「え、お母さんどうしたの」
「……美幸、実は」
想推はこれまでの話を簡潔に説明した。
「……嘘、ってことは私と想推って」
「うん、異母兄弟ってことになるね」
美幸は4月生まれで想推は10月生まれ。兄妹としては美幸が姉で想推が弟となる。
「そんな、そんなことって……」
話を聞いた美幸は顔を青ざめている。
「どうしたの、美幸。そんなに青ざめて」
「だってそれってさ、私が生まれたから想推には聖痕が現れなかったってことだよね。つまり私が生まれたせいで想推は本当の両親から捨てられたってことでしょ」
「いや、それは……」
想推が何かを言おうとする。
「想推はたまたま陣内先生に拾われたけど、もし拾われなかったらそのまま山の中で死んじゃってたかもしれないんでしょ。それでもし死んじゃってたら、私の……」
「待ってくれ! そんな仮定を話しても意味がないよ。現実は僕はしっかりと生きている。それでいいじゃないか」
自分のせいで想推の人生が変わってしまったことを重く受け止めている美幸。それに対し想推は美幸のせいではないと主張する。
「そうよ、美幸。悪いのは私なの。私が、きちんと貴幸と話していれば、こんなことにはならなかったかもしれない。もっと別の道があったかもしれない……」
泣きながら美晴が言う。
彼女もこれまでのことで後悔があるのだろう。
「美晴さん、美幸。僕はこの九能家の問題を終わらせたいと思っています。だから二人も協力してくれませんか?」
「協力って、何を……」
「これから九能家に向かいます。僕と一緒についてきてください」
想推の言葉に体がこわばる美晴。
「美晴さん、あなたにとってはかなり苦しいことかもしれない。でもお願いします」
想推は頭を下げた。
その様子をしばらく見ていた美晴は、
「……わかった、行きましょう」
と言った。
「……ありがとうございます。ではもう準備もしてあるので早速行きましょう」
北條宅から出ると、家の前に一台の車が止めてあった。
運転席には歌非人が座っている。
「歌非人さん、よろしくお願いします」
「よし、じゃあ行こうか!」
全員車に乗ったのを確認すると、まっすぐ九能家へと向かった。
九能家へのアポは歌非人が事前に取っていた。
よって前回とは違い、スムーズに案内される。
想推たちは応接室に案内され、貴幸たちが来るのを待った。
しばらくして貴幸が応接室に入ると、そこにいた美晴を見て驚愕した表情を浮かべる。
「え、君はもしかして……!」
「……久しぶり、です」
どう接したらいいのかわからないのか、ぎこちなく答える美晴。
「貴幸さん、今日は大事な話があってきました。あなたたちの今後を左右するかもしれない話です」
「どういうことだ……?」
「それは今から彼が話してくれます。想推くんよろしく」
歌非人が合図をすると、想推はこれまでの出来事を話し始めた。
それを聴いて、貴幸はもちろんその妻も驚愕していた。
「そんな、まさか……」
「貴幸さん、あなたは身に覚えはありませんか?」
「……あの時、君にそんなことがあったなんて。私に何も告げないまま君は退学してしまったから、事情を知らずにいた。まさかそんなに苦労していたなんて……」
「あなたには話せなかった。ちょうど私が妊娠したときにあなたに縁談の話があったから。もし私がそのことを話したら、縁談がぶち壊しになるかもしれない。そう思ったらもう一人で抱えるしかなかった……」
「美晴……」
泣きながら言う美晴に、貴幸は何も言うことができなかった。
「……事情を知ったところで、あなたたちにお話があります」
思い空気を断ち切るかのように想推が話を切り出す。
「僕は、このわだかまりをどうにかしたいと思っている。だから今から僕の言う通りにしてもらいたい」
「……どうするつもりなんだ?」
「まず、美幸と美晴さんを九能家の人間だと認めてください。特に美幸は正式に九能家の跡取りの資格があることにしたい。実際に跡取りになるかは別として、彼女にはその権利があるはずだから」
「他には?」
「貴方たち夫婦にはこのことをしっかりと他の九能家の人たちに伝えてもらいたい。それによって何かしらの処罰が下されるようになっても、それを受け入れてもらいます。それで過去に起きたことはすべて清算する。美晴さんと美幸もそれでいいですよね?」
過去に起きたことというのは、貴幸夫婦が想推を捨てたこと、知らなかったとはいえ美幸のことを認知しなかったこと、それによって美晴にこれまで苦労をかけたことなどである。
「皆少なからず僕に対して罪悪感があるなら、それでチャラにしてください」
これは、想推からの折衷案である。
皆何かしらの後悔や引け目がある。ならこの際それらを全部なかったことにし、また一から人間関係を構築しようという提案だ。
もちろん、それは簡単なことではない。
そんな簡単に過去のことを忘れることなどできないし、思い通りにいかないこともあるだろう。
だが何かしらのきっかけがないのなら、いつまでも現状から変わりはしない。
ここは強引にでも現状を変えるために想推は提案したのだ。
「九能家の問題については、歌非人さんがかけあってください」
「ま、乗りかかった舟だ。僕に任せてくれ」
「……美幸、君が今後九能家とどう関わるかは君次第だ。このまま一切関わらずに生きるのもいいし、九能四家の跡取りになるのもいい。これからは自分で決めるべき道だ。そして……」
想推は貴幸の妻、つまり自分の実の母親に向き合った。
「あなたには、美晴さんを許してほしい。もちろん簡単に割り切れることじゃないのはわかっています。ですがどうかお願いします」
想推は深々と頭を下げる。
「あなたは、私を許してくれるの……?」
その言葉は、実の息子を捨ててしまったという過ちを赦してくれるのか、という問いだ。
「……もちろん、何も思っていないわけではありません。でもあなたたちが僕の実の両親だと言われても、まだ実感がないのも事実です。だから赦すも何もありません」
「……ありがとう。私も、歩み寄ってみます」
そう言いながら彼女は泣きだした。
これで形式的ではあるが、想推と貴幸夫婦、そして北條親子の間にあった問題は一応の決着を見せた。
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