第18話 聖痕が現れなかった理由
想推が北條家のインターホンを鳴らす。
しばらく待って美晴が出迎えてくれた。
「あら、想推くんどうしたの。美幸はまだ帰ってきてないけど」
「いえ、実は美晴さんに少しお話があって」
「……そう。よかったら上がっていって」
リビングに案内された想推は、ソファに腰深く座る。
「それで、お話というのは?」
美晴がお茶を出しながら尋ねる。
「ありがとうございます。話というのは僕が最近調べている自分の出生についてなんです」
想推は机に資料を置きながらこれまで調べた結果を美晴に話した。
「……そうだったの。でも何で私にこんな話を?」
「これまでの調査によって僕が九能家の人間だということが判明したんですが、肝心の何故僕には聖痕が体になかったのかがわからなかったんです」
「でも、それは仕方ないんじゃない? 人間の体についてなんて未だに解明されていないこともあると言われているのに、そんな神のみぞ知るようなこと、わかるわけないと思うけど」
「ところが、新たに調査して新事実が発覚しました。これによると現代の知識で説明できるような理由があったんです」
「……」
美晴が真顔で想推を見つめる。
「この情報が、僕に謎を解くきっかけを与えてくれました」
想推は一つの資料を手に取り、美晴に見せる。
そこには想推の父親とされる九能貴幸の女性遍歴が記されていた。
「これは僕の父親とされる九能貴幸が過去に交際していた女性の一覧が記されています。とはいっても何人もの女性と付き合っていたわけではありません。しかしこの中にはどうしても見過ごせない名前があった」
「……」
「それはあなたの名前ですよ、美晴さん」
蛍光ペンを取り出し、資料に記されている美晴の名前に線を引く。
「まず聞きます。あなたは過去に九能貴幸という男性とお付き合いをしていたことはありましたか?」
「……ええ、していたわよ」
絞り出すように美晴が答える。
「それなら話は早い。ここで問題なのは二人が付き合っていたことではなく、付き合っていた期間に何が起こっていたのか、です」
美晴が目を閉じ、口を噤む。
「結論を言います。僕が九能家の第一子であるはずなのに聖痕が体に現れなかった理由、それは単純でした。つまり僕は第一子ではなかった。僕が生まれるより前に、九能貴幸には子供がいたんだ」
「……」
「それは九能貴幸とあなたの間にできた子供、つまり北條美幸のことです」
その言葉を聞いた美晴の表情は、明らかに正常ではなかった。
「貴幸は大学在学中にあなたと交際していた。そしてその間にあなたとの子供ができた。しかし何らかの理由であなたたちは別れてしまい、貴幸はその後別の女性と結婚し、子供を授かった。それが僕だったんです」
「……」
「だがこれまでの情報から推測すると、多分貴幸はあなたとの間に子供ができたのを知らなかったのではないですか? でなければ僕が生まれた時に聖痕が現れなかったからといって捨てることもなかったはずだ。恐らくあなたは子供ができたことを貴幸に話さずに別れ、その後一人で出産して育てた。あなたがある時期に突然大学を退学したことも調べてあります。そしてその時期が貴幸と別れた後であることも」
想推は頭の中で情報を整理しながら話し続ける。
「僕は以前あなたから美幸は一人で育てていることを聴いています。その他にも苦労話を聞く機会もありました。それを思い出したら、全てが一つに繋がったんです」
「……証拠はあるの? あなたの話が本当だという証拠が」
「もちろん。今見せますよ」
想推は知理に連絡する。
「知理さん、じゃあよろしく」
しばらくして知理が美幸を連れて訪れる。
「どうしたの知理、急に家に来たいなんて」
「ごめんね、美幸。大事なことだから」
「知理さんありがとう。そして美幸、待ってたよ」
「想推? なんで家にいるの」
想推はその問いには答えず、美幸に近寄る。
「美晴さん、これが証拠です。……ごめん美幸!」
そう言うなり、想推は美幸の首筋の髪の毛を分け、うなじを見せる。
そこには、九能家の第一子のみ与えられる聖痕があった。
「ちょっ、そこは……」
「……僕はずっと疑問に思ってました。昔から美幸は鬱陶しがっていたのに髪を切ろうとしなかったこと、切るならまだしも、髪を束ねることもしなかったし、プールの授業や海に入ろうとしなかった。それらには尤もらしい理由がついていたけど、実はそれは何かを隠すためのものだったら?」
「な、なにを言っているの想推」
何が何だかわからないといった様子の美幸。突然ここに連れてこられているのだから無理もない。
「要するに、この聖痕を他者に見られたくなかったんだ。普通の人からしたらこれは物珍しいものだし、噂にでもなれば九能家の人間が嗅ぎつけるかもしれない。そうなったら自分はともかく、娘に何が起こるかわからない。だから人目を避けるために髪の毛でこの聖痕を隠すよう美幸に指示していたんですね」
「……」
「これでもまだ違うというのなら、あなたと貴幸と美幸でDNA鑑定をしてもいい。そっちの方がよっぽどわかりやすいと思うので」
想推がそこまで言うと、観念したかのように美晴は膝から崩れ落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます