第12話 九能四家死産事件

「あ、僕は……」

「君のことは知っているよ。陣内探偵事務所に住んでいる陣内想推くんだろう」


 既に想推の身元も判明しているようだ。


「なんで僕のことを……」

「そうだな、君が九能家について調べているのと同じで僕も君について調べていたんだ」

「僕を調べる……?」


 何故自分が調べられる立場にあるのか、疑問に思う想推。


「僕はね、16年前に起きた『九能四家死産事件』に納得できてないんだ。あ、君は九能家がいくつかの分家に分かれていることは知っているかな?」

「はい。九能の巫女の子供たちがそれぞれ九つの家系に分かれたんですよね」

「そう。そして今君が調査している九能家は『九能四家』と呼ばれている。九能の巫女の四番目の子供が起こした家系だからだ。ちなみに僕は『九能七家』の子孫で現当主だ」

「それで、『九能四家死産事件』とは……?」


 想推にそう尋ねられると、歌非人は事件の内容とそれに対する他の九能家の反応について話し始めた。

 九能四家死産事件とは、16年前に九能四家の夫婦の子供が死産してしまった事件である。九能四家の長男として生まれる予定だった子供が死産してしまったということで、夫婦は精神的なショックを受け、それ以降必要時以外に外に出ることがなくなってしまったという。

 他の分家の人間はその報せを聞いて同情をする声もあったが、歌非人のように訝しむ人間も少なからずいたようだ。

 だが、結局大半が死産という結果に納得していた。

 歌非人を含む何人かは本当に死産してしまったのかを調べ始めたが、決定的な証拠を見つけることができなかった。


「実は事件が起きたその後に僕は独自で九能四家を調査していたんだ。だが彼らは死産届を出した形跡がなかった」

「死産届?」

「子供が死産してしまった場合はそういう届け出を出す必要があるんだ。だが事件が起きてから数日間彼らの周りを調査していても、それを提出していた形跡がない」

「なら、それが証拠になるのでは……?」

「僕もそう考えていたが、できなかった。九能四家は今でも地元でそこそこの力があるから、役所や警察などにも口出ししないようにさせているらしい。僕の調査結果など門前払いにされてしまったよ」


 その出来事があったことで、歌非人の疑問は確信に変わった。


「その後もしばらく調査を続けていたんだけど、結局決定的な証拠を掴むことができなかった。そんな時に現れたのが君だ。最初はなんで九能家について調べているのか疑問だったが、君について調査しているうちに面白いことに気づいた」

「面白いこと……?」

「君があの時の事件で捨てられた子供ではないか、ということだよ。君が陣内探偵事務所に拾われた時期と九能四家の第一子が死産した時期が一致している。それに君の顔を見たとき、僕が知っている九能四家の当主にそっくりだと思った。それらの要素が、僕に君が九能四家の子供であるという思惑を働かせた。だから君が現れたのは僕にとっては幸運なことだったんだ」

「……一つ聞いていいですか。なんでそこまで九能四家の事件に首を突っ込むんですか? 言っては何ですが、あなたにとっては無関係な事件のはずです」

「僕は今の九能家の在り方が好きじゃないんだ」


 そう言いながら歌非人は懐から一枚の写真を取り出した。


「この子は僕の娘で、詩衣歌っていうんだ。今はまだ六歳。だが次期当主としていずれは九能七家を背負っていく存在になる。しかし今の在り方では、この子にとって悪影響だ。今九能家が没落したと言われているのは封建的な主義がまかり通っているからだと思っている。こういうところを変えていかないといつまで経っても九能家はよくならないだろう」


 歌非人が今の九能家を再興しようという気持ちが本気であることは、彼の言葉から充分に伝わった。


「君がいれば、『九能四家死産事件』の真相がわかりそうな気がするんだ。DNA鑑定でもすれば君が九能家の子供であるかどうかが判明するからね」

「それは確かに……」

「どうだろう、僕に協力してくれないかな?」


 仮にここで歌非人の提案を却下しても、次の手掛かりがあるわけではない。それならば彼に協力するのも悪くないだろう、と想推は判断した。


「……わかりました。あなたに協力します」

「それはよかった! では早速九能四家に行ってみようか」

「え、今からですか?」

「もうアポも取ってあるんだ。こういうことは早めに片を付けた方がいいからね」


 歌非人も想推と似て大胆に行動をする人物のようだ。


「……九能家って、強引な人しかいないのかな?」

「はは、もしかしたらそうかもしれないね……」


 知理の感想に、想推は苦笑いをするしかなかった。

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