第11話 九能歌非人

 翌日、想推は早起きして再び九能家について調べるために図書館に向かった。

その途中、ばったりと美幸に出会う。


「あ、想推おはよう。今日も調査?」

「おはよう。昨日の続きだね。そういう美幸は今日もバイト?」

「そうなのよ。こう毎日朝から晩まで働かされるとたまったもんじゃないわ。でもその分お金はもらえるけどね」


 会話をしていると、二人の間にとある女性が割り込んできた。


「想推くん、おはよう。久しぶりね」

「あ、美晴さん。お久しぶりです」


 その女性は北條美晴。美幸の母親である。

 美幸の家庭は父親がおらず、母子家庭となっている。

 美晴曰く、美幸が産まれて間もなく父親と別れてしまったため、それ以降一人で親戚の力も頼らず美幸を育ててきたようだ。

 若くして子供を産んだ彼女は、その経験のためか人に尽くすことを生きがいとしており、幼少期の想推もよくお世話になっていた。

 具体的な年齢はわからないが、だいたい三十代半ばくらいだろうか。

 両親がいない想推は、似たような境遇の美幸にどこか親近感を抱いていたこともあって仲良くなったのかもしれない、と考えていた。


「美幸から聞いてるけど、何か調査をしてるんだって?

「ええ。僕の本当の両親について調査をしろって、先生から課題を出されて」

「……そう。大変かもしれないけど、頑張ってね。想推くんならきっとできると思うから」


 美晴はどこか悲しげに笑うと、想推と美幸を見送った。




 知理と合流し、再び例の図書館まで向かった二人は、昨日と同じように九能家について調べ始めた。

 しかし、昨日のような成果は特に得られなかった。


「もうこれ以上調べても新しい情報は出なさそうだね」


 中々進展しない調査にしびれを切らしたのか、知理がつぶやいた。


「そうだね。図書館での調査はもう限界か……」


 これからどうしようか、少し考える。


「……こうなったら直接九能家に行ってみようか」


 ふと想推が呟いた。


「え、いきなり本城に入り込むの?」

「このまま回りくどく調査するよりも、直接九能家に確認しに行った方がいいんじゃないかって思うんだ」

「でも、素直に話聞いてくれるかなあ。そもそも初対面の人間がいきなり『僕はこの家の息子かもしれないんです』なんて言いに来たって追い返されるのがオチだよ」

「……まあ一度行ってみよう。それでダメだったらその時に考える」


 行き当たりばったりな作戦を実行することに、知理は少し不満げだが、他に方法もないので大人しく従うことにしたようだ。


「そもそも、九能家の場所はわかるの?」

「以前聞き込みをしたときに九能家の情報を得た付近を探せば見つかると思う」

「……また肉体労働か」


 がっくりと項垂れる知理を尻目に、想推は図書館を出た。


 以前情報を得た付近の駅についた想推たちは、突然妙な男に声をかけられる。


「やあ、ちょっといいかな」

「なんですか?」

「最近、君たちここで何か嗅ぎまわっているみたいだね。例えば、『九能家について』とか」


 いきなり核心を突かれた想推たちは驚きの表情を隠せなかった。


「なんでそれを……」

「知理さん!」


 思わずこぼしてしまった知理の口を塞ごうとするが、間に合わない。


「やっぱりか」

「あなたは一体……」

「ああ、勘違いしないでほしい。僕は君たちの敵じゃない。むしろ味方だよ」


 そう言いながら男は懐から名刺を取り出した。


「初めまして、僕は九能歌非人かひとと申します」

「九能……!?」


 想推たちがこれから探すはずの九能家の人間が、何故か向こう側から接近してきたのだ。

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