第9話 小さな成果
夜遅くまで調査したものの、結局一日目は満足のいく結果は出なかった。
終電もなくなってしまったので、仕方なく近くのホテルに泊まることにした。
想推としてはあまり使いたくなかったが、こういうときに借りたカードが役に立つものだ。
何時間も歩き続けていたため、二人の体は疲れ果てていた。
部屋に入ると、特に会話もなく二人はすぐに就寝した。
翌日、知理が目覚めると携帯に着信が入っていた。
着信先は想推からだ。
既に起きているので、先にロビーで待っているという。
急いで着替え、知理はロビーに向かった。
「もう起きたの? 昨日夜遅くまで歩いてたのに」
「時間は限られているからね。今日は反対側を調べたいと思ってるから、今のうちに移動しておきたいんだ。向こうに着く頃にはいい感じの時間になっているだろうし、そこから調査開始だ」
「……まさかとは思うけど、ここから歩きで行くの?」
「もちろん、お金はできるだけ使いたくないから。二時間くらい歩けばつくでしょ」
昨日も数時間歩き続けたというのに、今日はそれ以上歩き続けるつもりらしい。
まるで運動部の朝練だな、と知理は思った。
「こりゃしばらく筋肉痛かな……」
「そんな先のことは後で考えればいいよ。さあ調査だ」
本日もいつ終わるかわからない調査が始まった。
調査開始から数時間、ようやく想推たちは有力ともいえる情報を入手した。
それはとある民家に住んでいる女性から得た情報だ。
「すみません。十五年ほど前のこの時期から秋にかけて、この付近で妊娠をしていた女性を見かけませんでしたか?」
想推は今までこの質問をすべての人たちにしてきた。
聞かれた人たちからしたら、そんな昔のことを覚えているわけがないと思うだろう。
実際想推もそんな昔のことを詳細に覚えている人がいるとは思っていなかった。
それでもこの質問をしていたのには、わずかな希望があったからだ。
そして今回尋ねた女性は、その希望を叶えてくれる人物だった。
「……そういえば、確かちょうど十五年前にも同じようなことを聞かれたわねえ」
「本当ですか!?」
想推はこれを待っていた。
陣内が独自に調査をしていたとするならば、彼も同じように聞き込みをしていたに違いないと想推はふんでいた。
だから以前にも似たような質問を投げかけられたことがある人ならば、その記憶の断片を思い出してくれる可能性がある、と思ったのだ。
あまりにも希望的観測に過ぎない無謀な賭けともいえるこの思惑は、探偵として活動するならば失格と言われても文句は言えない。
まだまだ想推が未熟である何よりの証拠だった。
「ここから少し進んだところにある九能家の奥さんがいてねえ。もうすぐ生まれるんですって大喜びしていたのを覚えているわ。でも死産してしまったらしくてそれ以来姿を見かけることも少なくなって心配してたのよ」
「そうですか。その九能家というのは結構大きい家なんですか?」
「この辺りじゃ名家として知られているわね。でも昔そうだったっていうだけで、今は大した権力もないし、一般家庭よりは多少裕福な家庭、というのが現状ね」
「わかりました。ちなみに先程の話って他の方も知っていたりします?」
「まあ、ここら辺の人たちは九能さんの奥さんとは仲が良かったからねえ。たまに世間話をする間柄だったのよ。でも死産してからはほとんど外に出なくなったようで、よほどショックだったんだろうねえ」
「最後にもう一つ、その九能家の奥さん以外に妊娠していた方はいませんでしたか?」
「記憶にある限りはいなかったと思うけど」
そこまで聞いた想推は感謝を述べて会話を打ち切った。
「ようやくまともな情報が得られたね……」
調査で疲れ切った知理が呟く。
「そうだね。この九能家というのが気になるし、この家系について調べてみよう」
「それだったら、この地図を見るとここら辺に図書館があるみたいだから、そこで調べられるんじゃない? 昔は名の知れた家系だったらしいし、何か資料が残ってるかも」
「そうだね、行ってみよう」
「なら、バスで行くのはどうかな!? ほら、一分一秒でも時間が惜しいし、歩いて無駄にしたらもったいないでしょ!」
もう疲れ果てて歩きたくないためか、必死に想推を説得する知理。
「……知理さんも疲れてるようだし、そうするか」
「やった! じゃあバス停まで行こう」
これ以上想推に余計なことを考える時間を与えたくないので、知理が先導して図書館へと向かった。
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