第8話 調査開始

 事務所に戻った想推は、早速課題に取り組む意思を水野に伝えた。


「いろいろ迷ってましたけど、この課題をやることに決めました」

「……わかりました。ところで」


 水野は想推の隣にいた知理をじろじろと見ながら、


「ショートボブ、落ち着いた性格、探偵に興味がある……。なるほど、想推くんの好みは美幸ちゃんじゃなくて彼女と正反対のこういう子なのね」

「……何を言っているんですか、違いますよ。僕一人じゃ未熟だから手伝ってくれるって言ってくれたんです。それに美幸はバイトで忙しいらしいですよ」

「初めまして、識心知理です。想推くんから聞いた話だと、誰かが手伝っちゃダメって言われてないので、いいですよね」


 言葉の虚をつくような発言で水野を驚かす。


「まあ確かに言っていなかったわね」

「それじゃ……」

「ええ、二人でこの課題に取り組んでみなさい」


 許可が出たことを喜ぶ二人。


「それで想推くん、早速だけどこれを渡します」


 水野は机に置いてあったいくつかの資料が入った封筒を想推に渡した。


「これは?」

「今回の課題を解決するためのヒント、ってとこ。この課題を達成するには当時でないとわからないこともあるから、それを書き記してあるメモなどが入っているのよ」

「なるほど、ありがたく活用させてもらいます」

「それと、このカードも渡しておくわ。カードはあなた名義のクレジットカードになっているから、捜査時にお金が必要になったら使いなさい」

「つまり、調査時にお金の心配はいらないってことですね。これも有り難く使わせてもらいます」


 知理の言葉とは裏腹に、想推はあまり乗り気ではなかった。


「でも先生は当時お金を湯水のごとく使っていたわけじゃありませんよね。なら僕も可能な限り使わないようにします」

「それはご自由にどうぞ」


 想推の言葉に微笑する水野。


「じゃあ早速今日から調査を始めない? 時間はたくさんあった方がいいでしょ」

「そうだね。じゃあまずはもらった資料を見ようか」


 こうして想推と知理の調査が始まった。


 まずは何から調査をするか、を決めるところから始める。

 そのためにはきっかけとなるものが必要だ。

 そこで先程水野からもらったヒントとなる資料を見ることにしたのだ。


 封筒をあけると、そこにはいくつかのメモと写真と地図が入っていた。

 一つ目のメモを見てみると、そこには陣内が想推を見つけた場所とその座標、想推の両親が彼を捨てに外出した時間から陣内が発見するまでの時間が書かれていた。


「……」


 想推はそのメモをじっくりと眺める。


「言っておくけど、ヒントは最低限のものしか用意していないらしいわよ。そこから後は自分の力で解き明かしてみてね」


 水野が補足する。


「大丈夫です。じゃあ早速行こうか」

「行くってどこに?」

「僕が発見された場所だよ。ご丁寧に座標まで書かれているから、その地点まで行く」

「でも、結構遠いよ?」

「最悪泊まりになるかもしれない。知理さんは大丈夫?」

「……大丈夫だと思う」


 自分から手伝うといったため、否定はしづらかった。


「じゃあ行こうか」


 想推は素早く準備をし、事務所から出て行った。


「想推くん、意外と強引かも?」


 新たな一面を見た知理が呟いた。




 電車に二時間程乗り、そこから歩きで目的地である想推の発見場所にたどり着いた。


「ここら辺だ。座標と写真を見ても間違いないと思う」

「それで、ここからどうするの?」


 知理の疑問に、想推が答える。


「このメモを見てみると、僕の両親が僕を捨てるために家から出た時間と実際に僕を捨てた時間が書かれている。それを見ると、どうやら両親の家からこの場所まで一時間ほどらしい。ということは、この場所から一時間以内にある家を全て調べれば、僕の実家が特定できるかもしれない」

「……まさかとは思うけど、今からそれを調べるって言うんじゃあ」

「もちろん、そのつもりだよ。東西南北すべての一時間以内にある家を調べる」

「うう、まあそうだよね。探偵は足を使って調べなきゃだよね」


 苦い表情をしていた知理も観念した様子だ。

 想推は地図を開き、印をつけた。


「縮尺から想定すると、だいたいこの当たりまでが一時間以内だと思う。まずはこの地点に行って、次第にこの場所まで近づくようにしよう」


 こうして途方もない時間がかかるであろう調査が始まった。

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