第6話 課題

 放課後、とある空き教室にて。


「それじゃ、早速今日から行ってみたら?」


 昼休みの約束について、美幸が提案する。


「あー、実は今日先生から学校から帰ったら話があるって言われてるんだ。だから明日以降でもいいかな?」

「私は全然大丈夫。でもその先生はスケジュール大丈夫なのかな」

「多分大丈夫だと思う。最近はそこまで忙しくないっていうし。それに明日終業式でそれ以降は夏休みだから、今日来るよりも一日中仕事を見られていいと思うんだけど」


 今の季節は7月の下旬。明日終業式を終えれば夏休みだ。


「そうだね、じゃあそれで」

「いいなー、私も行きたいなー」

「美幸はいつでも来られるでしょ」

「それがそうもいかないんだよ。明日っからバイトのシフトが多くて、しばらく休みなしなんだよね。まあ夏休み始まるし、書き入れ時なのはわかるんだけどさ」


 この三人の中でアルバイトをしているのは美幸だけだ。

 ちなみに誰一人部活動には入っていない。


「バイトが落ち着いたら、三人で遊びにいきたいねー」

「どこに? 夏だから海とかプールとか?」

「私、塩素がダメだからそこらには行けないよ。いつもプールの授業も休んでるし」


 そういえば、以前美幸は塩素がダメだったという話を聞いたことがあるな、と想推は思い返していた。


「まあそこら辺は後で考えるか。まずはこの数日を乗り越えないと……」

「大変だね、美幸は」

「そうなんだよ。あんたたちと遊ぶためにお姉さん頑張るよ!」

「お姉さんって、僕たち全員同い年じゃないか……」

「4月2日生まれの私が一番お姉さんなんですー。一日違ってたら一つ上の学年だったんだから」


 確かに、と二人は納得してしまった。


「じゃあとりあえず今日は解散で、また明日」

「じゃあねー!」


 二人と別れ、想推は帰路へ着いた。




 事務所に帰ってきた想推は、着替えを素早く終えて陣内の話を聞きに行った。


「先生、お話ってなんですか?」

「ああ、帰ってきたか」


 忙しそうに書類を見ていた陣内が想推に気付いた。


「お前、以前行く行くは私の後を継いで探偵になりたいと言っていたな」

「……はい」


 その言葉を言った時は半ば冗談交じりだったが、今では本気で探偵になりたいと思っている。


「真剣にそう思っているなら、今後私の仕事を手伝わせるのもやぶさかではない」

「え、それじゃ……」

「だが、その前に探偵としての資質があるかどうか、確認する必要がある」


 いつもとは違う真剣な目つきに、想推は怯む。


「確認とは?」

「明日から夏休みが始まるな。ちょうど私も明日から一週間ほど出張に行かなくてはならなくなった。そこでお前には私がいない一週間、ある課題に取り組んでもらいたい」

「ある課題……」

「それはお前の出生の秘密だ」


 その言葉は、想推だけではなく隣にいた水野も驚かせた。


「以前から言っていた通り、お前は私の実の子ではない。では一体誰の子どもなのか、知りたいと思わないか?」

「そ、そりゃ思いますよ。でもそんなのわかるんですか?」

「わかる。探偵なら、自分で調査して真相を解き明かすべきだ。だからお前に命じよう。この一週間で自身の出生の秘密を解き明かすんだ」


 陣内は机の引き出しを開け、いくつかの資料を取り出した。


「ここに、以前私が調査して判明したお前の出生の秘密がある。これをこの金庫に入れて……」


 資料を金庫に入れた陣内は、鍵をしっかりとかけ、それを想推に渡した。


「お前に預けよう」

「ぼ、僕に預けるんですか? それじゃ意味ない気が……」

「調査した結果謎が解けなかったり、そもそもやる気がないのなら、それで鍵を開けて確認してみるといい。だがその場合、二度と探偵を目指したいなんていう言葉を口にしないことだ」

「……」


 はっきりと言われた言葉に、黙ってしまう。

 確かに、探偵を目指していると言っているのに答えを見るのは、その資格がないということ他にならない。


「まあ無理にとは言わない。私としては、お前が探偵をやらなければならないと思っているわけではないから、別の道を行くのももちろん歓迎する。一晩考えて、明日学校から帰ってきたら水野にどうするか言ってくれ。私は朝からいないから、よろしくな。以上だ」


 そういって陣内は部屋から出て行った。

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