第5話 出会い
「おはよー、想推」
登校中、想推は不意に声をかけられた。
振り向いてみると、そこには見知った顔があった。
「あ、美幸。おはよう」
彼女の名前は北條美幸。想推の同級生で幼馴染だ。
赤ん坊の頃からの付き合いで、現在の高校まで腐れ縁が続いている。
今日も雑談をしながら一緒に登校していた。
「そういえば想推に紹介したい子がいるんだけど、今日の昼休み空いてる?」
「紹介って、なんで?」
想推が尋ねると、美幸はにこやかに答えた。
「なんでも、その子探偵業務に興味があるんだって。だから探偵事務所で暮らしている想推から話をぜひ聞きたいって」
「なるほど。でも僕は探偵業務に関わっているわけじゃないし、あまり話すこともないけどな……」
「まあそれはそれでいいんじゃない? 実際の探偵の現状を教えるって意味では」
高校生の内から夢を壊すのも躊躇われるな、と想推は心の中で思った。
「まあ僕はいいけど……」
「じゃあ決まりね! 時間空けておいてねー」
そして昼休み。
件の探偵業務に興味があるという生徒と会うことになった。
「お待たせ。この子が今朝行ってた子だよ」
「は、初めまして……」
美幸の後ろにいた少女が小さな声で挨拶をする。
「識心知理です」
「あ、僕は陣内想推です。よろしく……」
「想推は苗字で呼ばれるのが好きじゃないみたいだから、名前で呼んであげてね、知理」
「そうなんですか?」
「いや、ちょっと意味が違って……」
どう説明したらいいか悩む想推。
「美幸からどこまで聞いているかわからないけど、僕は陣内先生に拾われた子だからさ。正式に陣内先生の子どもってわけじゃないんだ。だから気軽に名乗れないっていうか……」
ちなみに美幸は想推が陣内の実の子ではない事を知っている。家族ぐるみでの付き合いがあるので、美幸の母もその事実は知っていた。
とはいえ、想推と陣内は誰にでもそのことを話しているわけではない。信頼できる人間や身近な人間にのみ事情を話しているのだ。
今回の知理がそれに当てはまるかは疑問だが、美幸が紹介する人物なら信用に足りる、と想推は判断したのかもしれない。
「そんな言い訳して。本当は一人前の探偵になるまで陣内って苗字はなるべく使いたくないって言ってたじゃない」
「そ、それはまた別の話だよ!」
美幸に本心を暴露されて焦る。
「じゃあやっぱり君も探偵を目指しているんだ」
「うん。高校を卒業したら本格的に修行したいと思ってるよ」
「そうなんだ、すごいなあ。じゃあ改めてよろしくね、想推くん」
知理が手を差し出す。
想推は少し戸惑いながらも、その手を握った。
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