第4話 十五年後の世界
「おはようございます、先生」
十五年後、想推は高校生になっていた。
彼は陣内が本当の父親でない事は既に知っている。
中学生の時に、陣内から血縁関係がないことを告げられていた。
だが本当の両親についてやなぜ陣内に拾われて育てられるようになったのか、については詳しく説明されていない。
『赤ん坊の頃に山奥に捨てられていたのを陣内に発見され、育てられた』くらいの情報しかないのだ。
想推は小学生までは陣内のことを『父さん』と呼んでいたが、中学生になって事実を知らされると『先生』と呼ぶようになった。
これは二人の関係が悪化したからというわけではなく、想推が自主的にそう呼んでいるに過ぎない。
想推自身は、陣内に本当のことを聞かされたときも特に驚いたような素振りは見せなかった。薄々ではあるだろうが、気づいていたのだろう。
陣内の薫陶を受けてきたせいか、想推は小さいころから思考力が高かったり、察しがよい一面があった。常に陣内の仕事を近くで見ていて、それを自然に学んでいたからだ、と陣内は語っている。
陣内も想推に『先生』と呼ばれるようになってからは、息子としてではなく弟子として扱うようになっていた。直接事件にかかわらせることはないものの、間接的に意見を求めたり、公開しても大丈夫な範囲で想推に事件の資料を見せ、彼の推理を聞いていた。
陣内としては、『先生』と呼ばれることに少し抵抗がある、と水野に漏らしていたこともあったとのこと。
とはいえ先ほども記したとおり、二人の関係は悪化したわけではなく、むしろ本当の親子ではないという事実を受け入れた新たな信頼関係が築かれているのだ。
「おはよう、想推」
資料を見ながら陣内が応える。
「こんな朝早くから事件の調査ですか?」
「まあ、そんなところだ」
コーヒーを一口啜った後、陣内はゆっくりと発言した。
「想推、今日学校から帰ってきたら話したいことがある」
「話したいこと、ですか」
「だから学校が終わったら真っ直ぐ帰ってきてくれ」
普段と口調は変わらなかったが、その表情は真剣そのものだった。
ただ事ではない話だというのは、想推にも察しがついた。
「……わかりました」
それだけ応え、朝食と登校の準備をサッと済ませた想推は、
「では行ってきます」
と告げて事務所を去った。
「……ついに、話すんですか」
事務所の奥で仕事をしていた秘書の水野が尋ねる。
「いいや。まあ、ちょっとした思惑があってね」
何やら企んでいる様子の陣内だったが、彼の思惑を水野はまだ理解できていなかった。
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