第3話 プロローグ③
陣内が想推を拾い上げてから三か月が経過した。
この三か月間、陣内は育児をしながら仕事をこなし、さらに想推に関する調査も行っていた。
そしてようやく育児に慣れたので、本格的に想推について調査をすることにしたのだ。
「さて、そろそろ本格的に想推について調査をしようと思う」
陣内は想推をあやしながら水野に宣言した。
「調査するにしても、何か手掛かりはあるんですか?」
「もちろん、この三か月で少しずつ調査して、もう目星となる家が判明しているんだ」
陣内は懐からメモ帳を取り出し、内容を読み上げる。
「九能家という家系が、想推の実家である可能性が高い」
「どうして、その家がそうだと思ったんですか?」
水野は陣内に根拠を尋ねる。
「まず私は、想推を拾った時の情報を元に調査した。想推を拾った時、本人やゆりかごに大した汚れがなかった。それに加えて赤ん坊が捨てられた状態で長時間生きていられるとも思えないことから、想推が捨てられてから私が発見するまでの間の時間はそんなに経っていないのではないか、という結論に至った」
一呼吸おいてページをめくり、再び話し出す。
「その時間を私は1時間と仮定した。そして私が想推を見つけた山から車で1時間以内にある民家を片っ端から調べてみた」
「調べるって、どのような内容を?」
「近くでここ数か月の間に妊娠している女性を見かけませんでしたか? と尋ねた。はじめのうちは大した情報は得られなかったが、調査を続けているといくつかの証言を手に入れることができたんだ」
ある地区の複数人が、『九能家』と呼ばれる家系の若奥様が子供を身ごもっている、という証言をしたのだ。
「一人だけではなく、複数人から得られた証言なので、信ぴょう性が高かった。そこで九能家について調査してみた結果、面白い情報がいくつも手に入ったのだ」
「面白い情報?」
「なんでも、九能家というのは遥か昔から伝統ある家系で、その子孫たちは不思議な能力を持っていると言われているらしい」
陣内は目を光らせながら話を続ける。
「一般にはほとんど情報が渡らない謎多き家系だそうだ。これは探偵の血が騒ぐな」
「では、その九能家に絞って調査をする感じですか?」
「ああ。他に有力な情報もないし、私の探偵の勘が想推は九能家とかかわりがあると告げているんだ」
手帳を開き、今後のスケジュールを確認する。
「幸い、しばらくは予定がないので、九能家の調査に時間を割くことができる。この期間に想推の実家について暴くんだ」
「やけに熱心ですね、先生」
「当たり前だ。この三か月間、自分の息子のように育ててきたんだぞ。思い入れもあるが、できることなら本当の両親の元に戻してあげたいんだ」
「しかし先生、それは……」
水野は以前、陣内の推理を聞いていたため、その願いが叶うことはほとんどないことはわかっていた。
「君の言いたいことはわかるよ。おそらく想推は必要なくなったから捨てられた。それなら仮に本当の両親の居場所がわかっても、向こうが引き受けないかもしれない。だが、もしかしたら彼らにも何らかの事情があって捨てるという選択肢を取らざるを得なかった可能性もある。それならば、その問題さえ解決できれば想推も無事に戻れるんじゃないかって思うんだ」
あくまでも希望的観測に過ぎないのだが。
「では早速調査に行ってこよう」
「でも、これ以上何を調べるんですか?」
「まずは九能家についてもっと知識を深めたい。聞いたところによると、想推が捨てられていた場所の近くにある図書館に情報があるという」
陣内は想推が捨てられていた山の近くにある図書館に向かった。
そこで書物を漁ったり、近辺の歴史に詳しい人物などから話を伺った。
そして新たに判明した情報がいくつかあった。
まず九能家だが、この近くにある家系だけではなくいくつかの分家があるらしい。全部で九つあるとのことで、この近くにあるのは九能四家と呼ばれている。
なぜ四家なのかというと、そもそも九能家が九つあるのは九能家の始まりとされている『九能の巫女』の子供が九人いたことから始まっており、その四番目の子供が起こした家系なので九能四家というらしい。
一応形として、『九能の巫女』の第一子が起こした九能一家が本家とされている。その他八つの家系はすべて分家という括りになっており、九能一家を除いて八つの家系に明確な上下はない。
それぞれの家系には一つずつ『九能の巫女』が所持していた能力を引き継いでいるという。
その能力に関してだが、昔の文献には天候を操ったり、自身に歯向かうものを洗脳したりと超能力めいたものが記載されているが、現在の九能家にそれらの能力が引き継がれているのかというと、疑わしいのが現状だ
能力の詳細については引き継いでいる本人にしかわからないため、確証が得られないという。
そして能力を引き継いでいた子供には、体のどこかにハッキリとわかる聖痕が現れるという。九能家に生まれたすべての子供が能力を得られるわけではなく、その世代に生まれた第一子のみが引き継ぐのだという。
ちなみに、能力を引きつがなかった第二子以降の子供たちから生まれた第一子は、能力を引き継ぐことはないらしい。つまり第一子から生まれた第一子のみが、能力を受け継ぐことができるのだ。
ここまでの情報を得た陣内は、それを元に推理してみた。
(多分、想推は九能四家の第一子として生まれた。しかし彼の体にはどこにも聖痕らしきものがなかった。文献には『聖痕はハッキリとわかる聖痕が現れる』と書いてあった。つまり見逃すことなどありえない。第一子なのに聖痕を持たずに生まれてしまったため、捨てられてしまったのだろうか……)
現時点で最も考えられる現実的な解答だった。
「とにかく、まずは九能家に接近してみるか」
九能四家に話を聞かなければ、真相はわからない。
しかし、いきなり尋ねに行っても門前払いを喰らうだけだろう。
だが、陣内には策があった。
「まあ、成功するかはわからないが……」
そう呟きながら、陣内は闇の中に消えていった。
その後、秘書の水野の話によると、陣内はある方法で九能家に接近し、やり取りを行うことに成功したという。
しかしその時の出来事はは誰にも話さない。
結局想推は自分で育てることにしたようだ。
何故九能家に行ったにもかかわらず、想推を預けてこなかったのか、そもそもどういったやり取りがあったのかを話さないのかは彼自身にしかわからない。
そして真相を話すことなく十五年の月日が流れた。
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