第2話 プロローグ②
事務所に帰った陣内を出迎えたのは、秘書の水野だった。
「おかえりなさい、先生。どうでしたか……」
そう言い淀んだ水野は、陣内が抱えているものに気づき、目を丸くした。
「ど、どうしたんですか! その子」
陣内は事の経緯を説明した。
「いやいや、普通は児童相談所とか、警察に届け出を出すんじゃ……」
「普通はな。だが、この子の生まれは一般家庭とは異なっているような、そんな気がするんだ」
陣内はその根拠を話した。
「……なるほど、ゆりかごに入れるほど大事にしている赤ん坊を捨てるということは、家がそれなりに裕福である可能性がある、と」
「それだけじゃない。一般的に出産するなら病院で行うか、自宅でするにしても産婆さんを呼んだりするなど、いずれにしろ他人の力を借りて出産をするはずだ。だがそうすると子供が生まれたことが他人に知られてしまう。そんな中でわざわざ子供を捨てようとするなど考えられない。ゆりかごに入れるほど丁寧に扱っているなら、出産だってそれなりの手順を踏んでいるはずだ。となると民間に頼んだわけではなく、自分の家で雇っている産婆さんがいるのかもしれない」
「あるいは、医療関係に知り合いがいて、秘匿にしてもらっている、とか」
「それも考えられるな」
いずれにしろ、根拠が少なく断定できるものではない。
「だから私がこの子の生まれを調べて、どういう家に生まれたのかを解明していこうと思う。探偵としての責務を果たさねばならないのだ」
「そんなの、やっぱり警察に頼んだ方がいいですよ」
「……両親がいない子供を蔑むわけではないが、児童相談所や警察に任せて然るべき施設に預けたとしても、幸せな人生を歩めない可能性が高い。だったら、私の子ということにして育てるのがいいのではないかと考えたんだ」
「まあ心がけは立派なものですが、捨て子を無許可で育てようとするのは、犯罪を憎む探偵としてどうなんですか?」
水野が確信をつくようなことを言う。
「このまま黙って育てることもできるが、そこら辺は知り合いのコネクションを使って説得してみよう。司法関係に知り合いが多数いるから、彼らを頼ればなんとかなるかもしれない」
「職権乱用じゃないですか……」
何が何でも意思を変えない陣内に、呆れる水野。
「私の探偵の勘が、この子には重大な秘密があると告げている。そんな気がするんだ」
「まあ先生の妄言は置いといて、この子の名前とか決めてるんですか?」
「ああ、私の名案があるんだ」
陣内は一呼吸おいて、赤ん坊の名前を口にした。
「私と同じように推理が得意な子になってほしい、という思いを込めて『想推』という名前にしようと思う」
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