九能家の謎
@kunou_sousui
幼年期編
第1話 プロローグ
遥か昔、特別な能力を持つ巫女がいた。
彼女は九つの能力を持っていたため、「九能の巫女」と呼ばれていた。
その力を使い、民を正しく豊かな生活へと導くのが、彼女の役目だった。
巫女から生まれた子供たちも、同じく特別な能力を持っていたのだ。
やがて子供たちはそれぞれの家庭を持つようになると、「九能の巫女」が持っていた能力は一つずつそれぞれの子供たちに受け継がれるようになった。
今では九能家は九つの家系に分かれている。
それぞれの家系が一つずつの能力を受け継いでいた。
能力は各世代に一人のみ発現し、それは最初に生まれた子供、つまり第一子に引き継がれるのだった。
能力を受け継いでいるかの有無は、体のどこかに発現する聖痕を確認することで判明できる。
しかし、思いもよらぬ事件が起きてしまう。
九能家の一つの家系に生まれた第一子が、能力を持たずに生まれてきてしまったのだ。
生まれた子供にはどこにも聖痕がなかった。
これは、九能家の歴史が始まって以来の大事件であった。
このことが他の家系にバレたら、我が家系の地位は落ちてしまう。
そう考えた当主は、あろうことかその子供を「生まれなかった」ことにした。
生まれなかった子供を家に置いておく義理はないので、その子供を山奥に捨ててしまった。
幸か不幸か、九能家は自宅出産をしているので、当人同士以外には誰にも生まれた子供の存在は認知されなかった。
既に妊娠していたことを言ってしまっていた他の九能家の家系には、「死産してしまった」と説明することにした。
その子供は生まれて数時間で親から捨てられ、孤独な人生を歩むことを義務付けられてしまったのだ。
当然ながら、赤ん坊が一人で生きていくことなどできるわけがない。
つまり、その子供はこのままでは死んでしまうことが確実であった。
赤ん坊の運命が決定づけられようとしたその時、一人の男性が赤ん坊を見つけた。
「ん? この赤ん坊は……」
彼の名前は陣内。
個人探偵事務所を営んでいる男だ。
「なぜこんなところに赤ん坊が一人で……。しかもご丁寧にゆりかごまで用意されている」
その赤ん坊は泣きじゃくっているものの、特に怪我をしていたり汚れているという様子はない。ゆりかご自体も綺麗なままだ。おそらく放置されてからまだ1時間も経っていないのだろう。
陣内はこの状況を推理してみた。
(この子は捨てられてしまったのだろう。しかも経済的に養うのが難しい等の理由ではなく、何らかの理由があって必要ではなくなったから捨てた、というのが濃厚だ。もし経済面が理由で捨てたのなら、こんな山奥でゆりかごを残してまで捨てる意味がない。山奥に捨てるということは、意図的にここまで来て捨てたということだろう)
この時点での彼が知る由はないが、大方推理はあっていた。
「それなら、私がやることは一つだ」
彼は赤ん坊を持ち上げ、決意した。
「私がこの子を育て上げるのだ」
自分で育てるのではなく、施設に入れるという選択肢も当然のようにあった。しかし彼はそれを鑑みても自分で育てることを選択したのだ。
そうと決まったら、やることは一つ。
「まずは事務所に帰るか」
陣内が営んでいる『陣内探偵事務所』には、彼の仕事を補佐する秘書が今も書類仕事で残っているはずだった。
まずはその秘書に事情を説明するところから始める。
陣内は赤ん坊を刺激しないよう気を付けながら車を走らせた。
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