STEP4:恋人の取り巻き
冬木先輩はすごく楽しそうに笑いながら言った。
「いやあ、多分さ、宇美野くんの彼女、俺と君の浮気を疑ってるみたいなんだよね」
「は?」
頭が混乱する。
「はあー?」
冬木先輩は美少女アイコンだ。百歩譲ってパッと見女だと勘違いされるのはわかる。
でも、一万歩譲っても俺は「花咲ミキ@パイパンパレード」なんて頭のおかしそうな名前の相手とそういうことをするように見えるのか? え?
そもそも冬木先輩、彼女のエピソードとか話してるじゃん……。17才爆乳JKなんて自称を信じるバカなんていないでしょって思ってたよ。そもそもパイパンパレードって部分も「浮気がバレたけどパイパンに一回すれば許してくれるってー」ってネタにして付けたからね?
「というか、すっごく宇美野さんに悪いんですけど……あ、ここでは本名呼びで大丈夫です? その、すごいですね彼女」
まだ混乱してる俺の前に、夜さんがスッとスマホの画面を差し出してきた。
もう情報はお腹いっぱいだよ。
いくつかのスクショをスワイプして連続で見せられる。
『わたしサバイバルは慣れてるよ。だって実家の裏山で猪を手作りの竹槍で狩ってたし』
『ママは毒親だけど、親に虐待されて家を追い出されたんだって。虐待されてなかったらわたしも岐阜の枯山水がある庭に住んでたのかな』
お前のおばあちゃんの家は社寺仏閣なのかよ。
『彼氏は売れっ子小説家だけどめんどうなファンがいるから堂々と出来ない。でも、匂わせくらいはいいよねー締め切りに追われる小説家の彼氏ってすごくかっこいい』
「キエーーーー」
最後変な悲鳴が出た。
秋山先輩と冬木先輩が後ろから夜さんのスマホを覗き込んで、納得したような表情を浮かべたのが見えた。
「すいませーん。この日本酒を冷やで。あ、おちょこ4つください」
店員さんがすぐに持ってきてくれた日本酒を、秋山先輩が注いでくれた。
落ち着くためにも、俺はその日本酒を一気に飲む。
ダメだ。全然落ち着かない。
「いやーだってさーこれさー」
「見て見てこれ」
俺が話そうとしてると、今度は冬木先輩が画面を見せてくる。
やめろ……俺の彼女のオモシロ発言を次々と発掘しないでくれ。
『マック、お母さんがダメって言うから食べた事無かったんだよね。彼氏に初めて連れてきて貰った』
「これ、この前すごくよろこんでくれてて……。いや、やっぱり可愛いところもあr……」
やっぱりちょっとこういうところは憎めないんだよな。まだ若いからそういう自分を盛るような嘘とかもついてしまうかもしれないけど、そういうのは少しずつこれから直していけばいいんだし。
そう思って惚気ようとした。
秋山先輩がスッと莉子のツイートが載ってる画面を差し出してくる。
『限定マックおいしいー。いつもてりやきしか食べないけどグラコロはさいこー』
日付を見たら、半年前だった。
「うわーーーーー」
夜さんが俺の悲鳴を聞いて声を上げて笑う。
悲痛な面持ちの秋山先輩は、そっと俺の肩に優しく手を置いてくれた。
「っていうか、よく秋さんも
目尻に浮かんだ涙を指で拭いながら、夜さんが言うと二人の先輩は首を横に振りながらにっこりと笑っていた。
え? そこはこう……悲しそうにしてくれるべきでは?
「だってさ」
「知ったときにはもう付き合ってたから」
「そんな二人で一つのセリフを言うな!」
思わず突っ込むと、おちょこにお代わりの日本酒が注がれる。
いつの間にか来ていたホッケの天ぷらを食べながら、胸に痛みを誤魔化した。
いや、全然誤魔化せないけど。味がわからないほどへこむ前においしさを噛みしめよう。おいしい。
『彼氏さん、そういう理解がないのはキツいんじゃない?』
『ちょっとその花咲ミキって頭おかしーやつに共鳴してるのはヤバいよ。カルトみたい』
『
『どうする? 耐える? 飲み物飲む? それとも吐く?』
「どこ住み?LINEやってる?のメンヘラバージョンだ!」
「夜さんも冬木先輩も、俺より俺の彼女のアカウント見てるじゃん……」
いつもはこういうときたしなめてくれるはずの秋山先輩まで、ちょっと楽しそうになりはじめた。知ってたよ-。頼りにはなるけど楽しそうなことは好きなんだよね秋山先輩も……。
夜さんと冬木先輩が次々とカメラロールをスワイプしていく。
莉子のアカウントに宛てられたゾウアイコンからのリプライ集だ。
「笑い事じゃないですよ。というかこいつもムカつく……俺めっちゃディスられてません?」
夜さんと冬木先輩が見せてきたスクショ集を見てちょっとイライラしてきた。
俺がどんなに苦労をしてるか知らないで好き勝手言ってるこいつは何者なんだよ。
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