神殺し


 魔神グレモスは因果神ヒューリティの攻撃から俺達を守るように結界を張ると言ってきた。


「その剣には魔核の力が取り込んであるだろう。それのおかげで剣の近くならしばらくの間、顕現できるようになった」


「顕現だと?どうしてそんなことが……まさか取り込んだヒューリティの力を使ったのか?」


「いや、わからない……。だが、急に意識が覚醒したんだ」


「……そうか。まあ、とにかく助かった。これでいけるな」


 俺はそう言ったが、グラドラス、ブレド、オルトスの三人は既に限界だったらしく、倒れ込んでしまう。


「す、すまん、キリク。私はもう身体を動かせん……」


「俺もだぜ……」


「……僕はもう……意識が飛びそうだ……」


「……わかった。後はなんとかしてみる」


 俺は自分一人で剣に残り少ない魔力を注ぎ出すと、俺の手の上にグレモスが手を乗せてきた。


「少ないが私も力を貸す」


「助かる」


「それはこちらの台詞だ。なんせ奴にやられた分の借りを返せるのだからな」


 そう言ってグレモスは魔力を高め剣に注ぐと、ヒューリティの心臓部分である核に刃先の先端が突き刺さりヒューリティは絶叫をあげた。


「ぎゃあああああっーーーー‼︎やめろおおおおぉ‼︎」


「おい、やめろって言ってるがやめるか?」


 俺はグレモスにそう言って笑みを浮かべると、グレモスは笑って答えた。


「はははっ、こんな時に冗談か!答えは決まってるだろう」


「だってよ。残念ながらお前は終わりだ」


「嫌だあああああっーーーー!やっとここまで来たんだあ!絶対にやらせるかあっ‼︎」


「やれやれ……」


 俺はヒューリティの諦めの悪さにうんざりしていると、ヒューリティは身体の形を変えて俺達を取り込むようにしてきたのだ。

 しかし、その時、剣の中からもう一人の人物が現れ、その人物を見たヒューリティは驚く仕草をして動きを止めてしまった。

 そしてその人物を怯えるように見ながら呟いたのだ。


「……アステリア」


 アステリアと呼ばれた人物は、確かに俺が見たあの浮かんでいた遺体と似ていた。


 この剣はアステリアの遺体を取り込んだから、グレモスと同じ様に魔核や残滓みたいなものがあったということか?


 俺はそんなことを思っていると、アステリアが悲しげな表情をしながらグレモスを見つめる。


「グレモス……ごめんなさい。私はとんでもない過ちをしてしまったわ……」


 アステリアはそう言って涙を流すとグレモスは一瞬複雑な表情を浮かべるが、すぐに噛み締める様に言った。


「悲しみの連鎖はどこかで断ち切らないといけない……。私はそう教わった」


 グレモスはそう言って俺を見てきたので、頷くとアステリアが俺に言ってきた。


「……あなたが終わらせる者ね」


「俺はただの冒険者だ。まあ、終わらせに来たのは確かだがな」


 俺がそう言うと、怯えて固まっていたヒューリティは震える声で叫んだ。


「なぜだああああっ‼︎」


「因果神ヒューリティ、あなたはもう終わりなの……」


 ヒューリティの叫びに冷めた口調でアステリアが言うと、再びヒューリティは叫んだ。


「ああああ、因果の果てに見えた光景がああ……。まさかまさかああ、我がした事が……これを招いたという事なのか……」


「ええ、そうよ。あなたは本来、沢山の事象を見れたはず。それなのに自分の考えに凝り固まり、一つしか見なかった……。あなたは因果神として失格だわ」


「……失格?違う、違う違う違う違う違うっ!我こそは至高にして最高の神なり‼︎」


「何を言っても駄目なのね……」


 アステリアはそう言って俺の持っている剣に手をかざす。


「ヒューリティの核を破壊して。二度と復活できない様にヒューリティの全てを魔力に変換させるわ」


 アステリアはそう言って魔力を剣に注いでいくと、後は剣をヒューリティに差し込めば終わる状態になったので、俺はグレモスに言った。


「……グレモス、お前にとどめの権利はやるよ。少しはムカついているんだろう?」


「……ああ、本当ははらわたが煮え繰り返ってるよ」


「なら、決まりだ」


 俺がそう言うと、グレモスは剣を握る俺の手を上から握りしめた後、ヒューリティに言った。


「じゃあな、クソ野郎」


 そしてグレモスは力を込めて押し込むとヒューリティの核に深く突き刺さり、剣がヒューリティを取り込み始めた。


「嫌だあっ!こっちに来て登りつめて神になったのにいいいぃっ‼︎どうしてだああああぁぁ‼︎」


 ヒューリティはそう叫んだ瞬間、仮面が割れ素顔を晒すが、その顔は町中のどこにでもいそうな若い男の顔だった。

 そんな顔もどんどんヒビが入っていき、ヒューリティは涙を流しながら何かを叫ぼうと口を大きく開けた瞬間、遂には剣に全て吸い込まれてしまった。


「……終わったか」


 俺がそう呟くとアステリアが頷いた。


「ヒューリティの魂も全て魔力に変換したわ」


「そうか……」


 俺はそう呟くと座り込む。

 なんせ魔力を全て注いだから、本当は意識を失う寸前なのだ。

 するとアステリアが回復魔法を俺達にかけてくるが、すぐに謝ってきた。


「ごめんなさい、今の私の力ではたいした回復魔法はできないわ……」


「いや、なんとか動けるようになったし十分だ」


 俺がそう言うとグラドラスが興味深げにアステリアとグレモスを見つめる。


「しかし、どうなってるんだろうね?剣の中に住みついてるって事なのかな?」


 グラドラスが疑問を口にするとグレモスが答えた。


「正直、私にも良くわかっていないが、この剣が私達の核みたいなものになっているみたいだ……」


「神二体が宿る剣か。実に興味深いね」


 グラドラスがそう言って眼鏡を軽く持ち上げると、大の字になって寝そべっていたオルトスが舌打ちをする。


「ちっ、んなの、どうでもいいぜ。それより、ここから出れんのかよ?」


「ふむ、どうだろうね……」


 グラドラスは真っ白い空間を見回した後、アステリアを見るが、アステリアは被りを振った。


「ごめんなさい。ゲートは完全に閉じてしまったわ」


「なら、転移魔法でいけるかな?短距離転移魔法なら僕もできるから試してみよう」


 グラドラスはそう言うと、魔法を唱えだすが、すぐに途中で止めてしまった。


「……座標位置……転移先が見えない。これは無理だね」


「今は空間が何処とも切り離されているからよ……」


 アステリアがそう言って申し訳なさそうな表情をすると、オルトスとブレドが溜め息を吐いた。


「ちっ、酒を持ってくれば良かったぜ」


「ふう、覚悟はしていたが、何もなさすぎだな……。せめて、筋トレできる道具があれば良かったがな」


「まあ、時間はあるし色々と試してみよう……」


 グラドラスがそう言うとアステリアがゆっくりと被りを振る。


「この空間も徐々に消えていってるわ。きっと維持する力がなくなったのね」


「……まじかよ」


「ふむ……」


「時間制限ありか」


 グラドラスは力なくそう言うが、その表情は納得しているようだった。

 もちろん、オルトスもブレドもそうである。

 だが、そんな三人に俺は口角を上げながら声をかける。


「……なあ、もしかして戻れる可能性があるって言ったらどうする?」

 

 俺がそう言うと、三人はすぐに顔を上げて俺を睨んできた。


「おい、キリク、お前の冗談は一番タチがわりいからやめとけよ」


「確かに一番つまらないからな」


「僕は少しセンスを感じるよ。ほんの少しだけどね」


「お前ら……」


 一瞬、こいつらを置いていってやろうかと思ったが、グレモスが俺に言ってくる。


「もしかしてネクロスの書の力を使うのか?しかし、どこに繋げるつもりだ?強い繋がりがあるものはないだろう?」


「あるさ」


 俺はそう言って手を見せるとみんなが納得した表情を浮かべた。

 だから、俺は頷くとみんなに言うのだった。


「さあ、みんなのところに帰ろう」


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