元勇者パーティー対神


 カーミラが魔力を高めている間、俺は順にみんなを見ていく。

 ミナスティリア、ファルネリア、ブリジット、サジ、ミランダ、リリアナ、フランチェスカ、メリダと火竜の伊吹のメンバー、そしてサリエラ……。

 俺はずっとこっちを黙って見つめているサリエラに指輪をはめた手を見せて笑う。

 するとサリエラは目を見開いた後に叫んだ。


「キリクさん、私待ってますから!」


 そう言ってサリエラは涙を流すと、ミナスティリアがサリエラの肩を抱き寄せて俺を見つめる。


「女の子を泣かすんじゃないわよ。だから、絶対戻ってきなさいよ」


 ミナスティリアはそう言うとサリエラと一緒に泣き出してしまう。

 そんな二人に俺は言葉をかける事ができないでいると、ファルネリアとリリアナが小さく手を振ってきた。


「こっちは心配しないでいいわよ。それより、待ってるからね旦那様」


「健気に待つ。それも妻の勤め」


 二人は相変わらずよくわからない事を言ってきたが、とりあえず頷いておくとミランダが涙目になりながら聞いてきた。


「先生、今度は本当にあたし達の手の届かない所に行っちゃうの?」


「……努力はする。だが、大切なのは俺達の世界を守ることだ。そうだろう勇者ミランダ」


 俺はそう答えると、ミランダは顔を手で押さえながら呟いた。


「そういう答え方、狡いよ……」


 そんなミランダの頭を撫でながらフランチェスカは微笑んできた。


「後はお任せ下さい」


「……すまない」


 それから、サジにメリダが声をかけてきた。


「キリクさん、やっぱりあなたは無茶を……。けれど、今回ばかりは私達が何かを言う資格はないですね。だから、無事に変えられる事を祈ってます……」


「キリク、戻ったら背中を守らせてよね」


 二人はそう言って微笑んできたが、俺は答えることはできなかった。


 約束ができなくて悪いな……。


 俺はみんなに心の中で謝るとブリジットが俺達を見ながら拳をあげた。


「みんなが戻る場所はあたいらが守りますから!」


 ブリジットはそう叫んできたが、俺達は軽く腕をあげるしかできなかった。

 だが、みんなはそれ以上何かを言ってくることはなく、遂にはカーミラの転移魔法によって異界の門の外へと転移していったのだった。

 すると、すぐにオルトスが真面目な表情で声をかけてきた。


「……で、どうすんだ?」


「この剣でヒューリティの心臓部分を突き刺す」


 俺がまだ回復に専念しているヒューリティを見ながら答えると、グラドラスが疑問を投げかけてきた。


「あれは闇の力の塊みたいなものだろ?意味ないんじゃないかな?」


 グラドラスがそう聞いて来たので、俺は身体からネクロスの書を出して見せる。


「こいつを使うから問題ない。ただ、奴に邪魔されたくないからしっかりと押さえ込んでくれ」


「なるほどね。それならいけそうだ。じゃあ、僕はあの狼と梟の顔を黙らせよう」


 グラドラスはそう言って杖を構えると、今度はブレドがラグナルクを構えて言ってきた。


「では、私は片腕二本を受け持とう。オルトス、お前はもう片方を頼む」


「ちっ、仕方ねえな。キリク、お前に美味しいとこはくれてやるからさっさとやれよ」


 オルトスはそう言ってニヤッと笑ってきたので、俺は頷くと剣をヒューリティに向ける。


「わかった。なら、始めようか。神殺しを……」


「おう」


「ああ」


「ふむ」


 俺達は頷き合うとヒューリティに向かっていくが、すぐに気づいたヒューリティは復活した四本の腕を伸ばしてきた。

 そんな四本の腕にブレドとオルトスが攻撃し始めるが、ヒューリティは腕を盾の様にして防ぐ。


「先ほどと違って斬り落とすことはできんぞ」


「なら、これはどうだ!」


 ヒューリティの言葉を聞いたオルトスは拳を、腕の一本に叩きつける。

 するとその腕が弾け飛んでしまった。


「な、何をした⁉︎」


 焦るヒューリティにオルトスは不敵な笑みを浮かべながら言った。


「てめえの体内に神殺しを通して俺の魔力を流してやっただけだ。これなら、腕の表面が硬くしても意味ねえなあ!ぎゃははははっ!だせえぞ!今日から俺の名前の前にはこうつくぜ。神よりも知恵が回る拳聖ってな!」


 オルトスはそう言いながらもう一本の腕も吹き飛ばした。

 するとそれを見ていたブレドもラグナルクに魔力を流しながら斬りつけ、腕を弾き飛ばす。


「なるほど、武器に魔力を流しながら戦うのが本来の使い方なのか……。よし、これならいける!」


「それなら、次は僕の番だねえ」


 グラドラスはそう言うといつものニヤついた表情が消え、真面目な表情で魔法を唱えた。


「第八神層領域より我に氷の力を与えたまえ……フリーズ!」


 グラドラスは放った魔法はヒューリティの狼と梟の顔を凍らせる。

 するとグラドラスは額に汗を垂らしながら言ってきた。


「僕の魔力では短時間しか凍らせられないと思う」


「わかった」

 

 俺は頷くとヒューリティに向かっていくが、俺に気づいたヒューリティは侮蔑を含んだ声で言ってきた。


「下等な生き物は何をやっても無駄だぞ」


「……俺達がこれからやる行動を知ってるということか?」


「ふん、そんなの力を使わなくてもわかるわ!何も知らない貴様らに我は倒せんよ」


 ヒューリティは馬鹿にする様な雰囲気をこっちにむけてきたが俺は思わず心の中で笑った。


 馬鹿な奴のだ。

 やはり、神といっても人と変わらないな。


 俺はそう思うとネクロスの書を出すとそのままヒューリティと一緒に貫いたのだった。

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