因果神ヒューリティ


 そんなカーミラにヒューリティの梟の顔が言った。


「悪いのはアステリアだ。因果の果てに我が滅ぶ姿が見え、そこにアステリアがいたのだ」


「はっ?自分が滅ぶ姿が見えたからやったって事⁉︎」


「一番価値があり一番重要な事であろう」


「だからってアステリアに黙って仕掛ける事はなかったでしょう!せめて相談すればアステリアだって……」


「既にアステリアは紛い物を沢山作り出していたのだ。要は我を殺そうとしていた。つまり、もう敵だ。相談できるわけなかろう。だから、我は自らを守る為に聖戦を行ったのだ。まあ、せめてもの情けで我の手ではなくアステリア自身に全てを消させてやろうと思ったのに、あやつは紛い物に諭されて血迷った。おかげで我はこの悪夢のような空間に閉じ込められたのだ」


 ヒューリティの梟の顔がそう言った後、仮面を付けた顔が今度は言ってきた。


「だが、何の因果かしれんが我らの封印を解いたのだ。おかげで貴様らを全て消す事ができるようになったぞ。さあ、封印を解いた褒美だ。楽に殺してやろう」


 ヒューリティはそう言うと、四本の手を伸ばし、俺達を守っている結界に触れて力を込めだした。

 そして結界が破壊された瞬間、その腕は俺とブレドによって斬り落とされた。


「スノール王国を襲った道化師にも腹が立ったが、こいつはそれ以上だな」


 ブレドはそう言って仮面を取ると、ヒューリティを睨む。

 するとミナスティリアとミランダが俺達の前に立ちレバテインを一緒に掲げた。


「身勝手な存在はさっさと消すに限るわね」


「同感!あたし達が消しとばしてあげる!」


 二人はそう言って叫ぶ。


「「宝具解放レバンテイン!太陽よりも輝きしその剣先にて我が敵を滅ぼせ!」」


 二人がそう言い終わると、レバンテインが輝きだし辺りを光りが包み込む。

 そして光りが消えるとヒューリティの身体の下半分が消えていた。


「やったわ!」


「あれなら、もう終わりでしょ!」


 ミナスティリアとミランダはそう言って喜ぶが、ブリジットが慌てだした。


「いや、なんだかおかしいよ!気をつけて!」


 ブリジットがそう叫ぶと同時にヒューリティの狼の顔が口を開き、巨大な炎の玉を大量に二人に向かって吐いてきた。

 しかし、すぐに二人の前に大盾を持ったフランチェスカが立つ。

 更にファルネリアとリリアナが魔法を唱えた。


「第六神層領域より我に風の力を与えたまえ……エアー・シールド!」


「第六神層領域より我に氷の力を与えたまえ……アイス・シールド!」


 二人が唱えた魔法の盾はフランチェスカの前に重なる様に作られ、炎の玉を防いでいく。

 そして、なんとか全てを防ぎきると三人はヘタレこんだ。


「まずいですわ……。あれは当たってもかすっても危ないですわよ……」


「ごっそり、魔力を持ってかれたわ……」


「魔力の質が違う。神と呼ばれるだけある。それにあれは全くダメージを追ってない」


 リリアナはそう言って焦った顔を向けてきたので俺は頷く。


「わかっている。奴から感じる圧倒的な力は全く減っている様子がないからな」


 俺はそう言いながらヒューリティを見る。

 今は身体の再生に専念しているのか、こっちを完全に無視して自分に回復魔法をかけている。


 全く、余裕ってところか。

 しかし、あの斬られた断面……


 俺は斬られた部分が暗くモヤの様になっているのを見て闇の力で作った鎧を思いだす。


 あれはおそらく本体じゃなく、闇の鎧に似たものだろうな。

 しかも、本体の様なものをあいつから感じない。

 そうなると、この空間に本体があるわけじゃないって事になる。

 つまり、あれは半神みたいなもので別の空間に本体があるのか?

 だが、それなら今までなんで静かにしていた?

 いや、本体は本体でもアステリアとは違うやり方でこの空間に来たのか……。


 俺はそう考えていたらある一つの結論に至った。


 そういうことか……。

 なら、後は実行するだけだが……。


 俺は周りを見回し顔をしかめる。

 白鷲の翼、蒼狼の耳、火竜の伊吹、サリエラ、カーミラ、そして太々しい三人組。

 

 やれやれ、納得はしないだろうし嫌われるかもな。

 だが、仕方ない……。


「巻き込むわけにはいかないからな」


 俺はそう呟き、また結界を張りなおしているカーミラに向かって言った。


「カーミラ、今のお前ならここから転移魔法で外に出れるな?」


「まあね。それで?」


「俺以外を外に出せ」


 俺がそう言うと、案の定、みんなが俺に色々と言ってきた。


「何、言ってるんですかキリクさん!」


「そうよ、私達だってまだ戦えるわ」


「そうだよ。先生、私達を頼ってよ!」


「いや、今の体力も魔力も底が尽きたお前達じゃ足手まといだ。それにあれと戦えるのは神と殺しの武器を持ってる者だけだ」


 俺がなるべく冷たい口調でそう言うと、みんな黙ってしまう。

 自分達とヒューリティの実力差を理解しているのだろう。

 そんなみんなの様子に俺は安心したが、ブレドはゆっくりと俺の隣りに来て立つと言ってきた。


「私は残るぞ。ラグナルクを持ってるしな」


「いや、返せよ……。それにブレド、お前は国王だろう……」


「手紙は置いてきた。それにお前にやっと借りが返せるんだ。その機会を奪うな」


 ブレドはそう言ってニヤッと笑うと、グラドラスも眼鏡を軽く持ち上げた後、言ってきた。


「僕は最初から残るつもりだったよ。なんせ神に色々と実験できるんだ。こんな面白い機会を奪わないでくれたまえ」


「グラドラス……。まあ、お前はそう言うと思っていたよ……」


 俺は呆れた顔でそう言うとオルトスもニヤニヤしながら言ってきた。


「仕方ねえな。お前らじゃ何もできねえだろうから俺が指示役で残ってやるぜ」


「オルトス、お前の攻撃はダメージを与えられないぞ」


「ダメージなら、もしかしたらこれで何とかなるかもしれねえ」


 オルトスはそう言って手のひら程の大きさの金属片を見せてくる。


「何だそれは?」


「あのでかい女の背中に刺さってたやつの破片だと思う。お前が消しちまった時にこれが俺のとこに落ちてきたんだ」


 オルトスはそう言ってテープを出し、ナックルに貼り付けると不敵な笑みを浮かべた。


「これで試してみるぜ」


「はあっ、わかったよ」


 俺は仕方なく頷くと、残りのみんなも何か言痛そうにしていたが残れる材料が見つからなく黙ってしまう。

 そんなみんなに俺は声をかけた。


「外にはまだ、魔物が沢山いるだろう。それに魔族や死霊術師や馬鹿な事を考える奴もな。だから、頼む」


 俺がそう言うとサリエラが涙目になりながら聞いてきた、


「キリクさん達はどうする気ですか?」


「もちろん神殺しをしたら派手に凱旋するさ」


「本当ですか?」


 サリエラはそう聞いてきたが、俺は頷かずにいると、オルトスが俺の肩に手を置いて言った。


「俺達は別に死ぬ気はねえよ」


 オルトスがそう言って歯を見せて笑みを浮かべると、ブリジットがサリエラの背中を軽く叩いてから言ってきた。


「……わかってるわよ。けど、待ってるからねオルトスさん」


 ブリジットはそう言うと背中を向ける。

 それを見たオルトスは一瞬、寂しそうな表情を浮かべたがすぐにニヤッと笑いながらカーミラに言った。


「おい、魔女の嬢ちゃん、安全に届けろよ」


「はいはい……。私って本当はあんたらの敵なんだけどねえ……」


 カーミラはそう言って苦笑するが、すぐに真顔になる。


「必ず届けるわ」


 そう言うとカーミラは転移魔法を使う為に魔力を高めてるのだった。

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