最後の戦い


 俺が地面に剣を突き刺すと突然、軽い揺れが起き始め、辺り一面から悲鳴の様な声が聞こえ始める。

 するとサリエラが不安そうな表情で声をかけてきた。


「……キリクさん、いったい何が起きているんですか?」


「この剣で今アステリアがかけた呪いを取り込んでいるから、怪物の呪いが解けて永遠の眠りについてるってところだ。まあ、苦しみながら死んでるみたいだがな」


「あの、どうしてそれを今やっているのですか?」


「ああ、それは怪物の気配が多すぎてアステリアを嵌めた奴を探せないからだ」


「えっ、もしかして、この空間の中にいるということですか?」


「可能性はある。なんせ、わざわざアステリアはここに戻って死んだのだからな」


 俺はそう言いながら、カーミラを見ると驚いた顔をした後すぐに目を瞑り、何かを探る様な仕草をしだした。

 そして、目を開くと俺を見て言ってきた。


「……見えた。部分的だけどアステリアは何かを必死に探してるわ。でも、何を探しているかは、わからなかったわ……」


「いや、十分だ。これで、可能性は出てきたな」


 俺がそう言い終わると同時に今度は周りの建物が沈み始め、持っていた剣に刻まれたロゼリア文明文字が淡く輝きだす。


 もしかして、この空間内にあるものも取り込んでいるのか?

 そうなるともはや宝具なんてレベルじゃないな。


 俺がそんな事を思っているとオルトスが周りを警戒する様にしながら声をかけてきた。


「おい、なんかやべえ奴に見られてる気がするぞ……」


 俺はそう言われ集中すると、どこからか俺達を探るように見ている存在がいた。


「……やはりいたか」


「どういうことだ?」


「おそらくアステリアは死ぬ直前に嵌めた奴を、この空間に閉じ込める事に成功したんだろうな」


「じゃあ、このやべえ気配はそいつなのかよ?」


「ああ。可能性はある。だが、これで奴の気配を感じれるようになった。いつでも戦える準備をしておけよ」


 俺がそう言うと、ブレドが辺りを警戒しながら言ってきた。


「む、動いているな……。私にもわかるぞ。これが神の気配……魔王を凌駕する力だな。やれるのか?」


「使えブレド。ラグナルクなら神を討てるぞ」


 俺はそう言って背中に下げているラグナルクを投げると、受け取ったブレドは不敵な笑みを浮かべた。


「ふ、なら神とやらにスノール王国流剣術を見せてやろう」


「見せたら、きっと真面目に王政をやれと突っ込んでくるぞ」


「そ、それは言わない約束だろうキリク!」


「ふん、とにかく現状、神を攻撃できるのは俺の持っている剣と、ブレドに渡したラグナルク、そして宝具解放した時のレバンテインだけだろうな」


 俺がそう言ってミナスティリアを見ると驚いた顔でこっちを見てきた。


「これでも、できるの?」


「その宝具は最初の勇者のみに送られた特別仕様だ。神々全員の力が籠っている。全ての鍵を開けばダメージは与えられるはずだ」


「要は完全なる宝具解放をするのね……」


 ミナスティリアは不安そうな表情を浮かべてレバンテインを見つめる為、俺は言ってやる。


「不安なら、ミランダにも手伝ってもらえ。二人でやれば確実にできるだろうしな」


「なるほど……」


 ミナスティリアがミランダを見るとニヤッと笑い駆け寄ってきた。


「任せてよ!神って奴に一発ぶち当てちゃおうよ!」


「ふふふ、そうね。ところで他の面子はどうする?」


 ミナスティリアは周りを見回した後、俺に聞いてきたので答えた。


「前衛は仮面の騎士とミナスティリアを守れ。後衛はそのフォローだ。それから、カーミラ……」


 俺はカーミラを見つめると手をすくめて笑う。


「良いわよ。結界と偽聖女の力で守ってあげるわよ。その代わり私の分も上乗せして攻撃しなさいよね」


「ああ、わかった」


 俺はそう答えると更に剣に力を入れる。

 すると、全ての建物や物が地面に勢いよく沈み込んでいく。

 そして辺りは真っ白い空間に変わっていくと、俺達の近くの地面からゆっくりと狼と梟、そして仮面を付けた顔が肩に乗った四本の腕を持つ巨人が出てきた。

 俺はそいつが先ほどから俺達を探るように見ていた存在だと気づき剣を向ける。

 すると、カーミラがそいつを睨みながら呟いた。


「因果神ヒューリティ……。あなただったのね……」

 

「……生きていたか。いや、残滓の様なものか」


 ヒューリティは呟くように言うと、俺を見て言ってきた。


「我が封印を良く解いたな。感謝をする。礼は苦しまないように殺すことしかできんが」


「なぜ、殺されなきゃいけない?」


「簡単だ。お前達が生きていたらいつか我らが脅かされるからだ」


 ヒューリティの言葉に俺は思わず鼻を鳴らす。


「ふん、グラドラス、お前の考えが当たったようだ」


「くっくっく。神も所詮その程度という事だね」


「だとよ」


 俺はそう言って手をすくめると、ヒューリティはお気にめさなかったようで威圧してきた。


「……やはり、アステリアが馬鹿な事をする前に殺すべきだった。不快感極まりないな」


「ほお、神も怒るんだな。まるで人のようだぞ」


 ブレドが感心するように言うと、オルトスがヒューリティを指差して笑った。


「わははっ!ちげえよ。こいつびびってやがるだけだよ!」


「なるほど、私達の力が神に届く前に詰んでしまおうということか。全く、神もたいしたことないな」


 オルトスとブレドはそう言って蔑んだ目でヒューリティを見ると、ついに怒ったらしく狼の顔が唸り声を上げる。


「貴様ら如きが神を愚弄するな!」

 

 ヒューリティはそう叫ぶと、俺達に向かって片手を伸ばしてきたが、その手は途中でカーミラの張った結界で止まった。


「全く、何切れてんのよ。切れんのはねえ、こっちの方なのよ!」


 カーミラはそう言ってヒューリティを睨みつけるのだった。


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