聖女とは
突然、狂ったように笑い出すカーミラにオルトスが顔を顰める。
「なんだ、あいつ嫌われ過ぎて狂っちまってんのかよ……」
「わからないが、常に何かやらかす奴だ。気をつけろ」
俺がそう言って腰に下げた剣を抜くと、カーミラが笑うのをやめて俺を睨んできた。
「あらぁ、私を殺す気かしらぁ?」
「お前次第だ」
「……本当に嫌い。あなたには邪魔されてばかりよ」
「それは褒め言葉と受け取っておこう。それでどうする?諦めるかそれとも戦うか……」
「どうしようかしらねぇ。ああ、そうだ!ねえ、聖女の話覚えてる?」
カーミラは突然、話題を変えてきたのて俺は目を細めてカーミラを見る。
何を考えてるんだ……。
既に何かをして時間稼ぎをしているのか?
相変わらず読めない奴だな……。
俺は考えた結果、仕方なく話に付き合うことにした。
「聖女は全員偽物って話か……」
「そうよ、なんで偽物か知ってる?」
「……加護持ちだからか」
俺がそう言うとカーミラは目を見開きその後、嬉しそうに手を叩く。
「えーー、なんでわかったのよおぉ?」
「お前はアステリアの欠片、つまりロゼリア文明時代に生きていたのだろう?なら、その頃はおそらく加護はなかったはずだからな」
「正解よぉ。その頃は人は加護なんてなくても魔法が使えたのよ。そして今よりも遥かに進んだ文明だった。天まで届く建物、空飛ぶ船、魔導列車、そして星を渡る扉に世界の理への理解、既にその頃の技術力は神の領域に踏み込んでいたのよ。でもね、人は大きなあやまちを犯したのよ。なんだかわかる?」
カーミラの問いに俺は今までのカーミラの発言や、アンクルから聞いた話、その他の話をまとめていく。
そして俺は答えた。
「お前は世界を恨んでる。そしてお前はアステリアの欠片だ。更に怪物はおそらくロゼリア文明に生きていた人なんだろ。そうなると人が神であるアステリアに何かしたのか?」
「ふふふ、惜しいわね。アステリアじゃなくその半神よ」
「半神……まさか、アステリアは半神を地上に下ろして生活していたのか?」
「そうよ。神々の中では流行ってたのよ。自分で作った世界を直接見たいってね。そして、その世界を発展させることに手を貸す半神もいたの……」
「それがアステリアの半神か」
「ええ、そして彼女はこうも言われたのよ。聖女様とね」
「なるほど、本物の聖女は半神のみって事か……」
俺がそう言うとカーミラはニヤっと笑い拍手してきた。
すると、隣りいたオルトスが首を傾げながら聞いてきた。
「よく、わかんねえ……」
「ようは、カーミラはアステリアが作った半神の魂の一部が入った存在って事だ」
「なるほど……」
オルトスはそう呟いて頷くが間違いなく理解していない顔をしていた。
すると今度はブレドが声をかけてくる。
「キリク、カーミラがアステリアの欠片なら、話し合いなんて無理じゃないのか?」
「……いや、まだ、決めつけるには早いだろう」
俺はそう言ってカーミラを見る。
「それで、本物の聖女が半神だという事がわかったが何が起きた?何故、世界を恨む?お前は知ってるのだろう?」
俺がそう聞くとカーミラは黙って上を指差したので、俺達は上を見て驚く。
俺達の真上には怪物よりも背丈があるローブを着た女が逆さまに浮かんでいたのだ。
怪物じゃない……。
誰だこの女は?
それにこいつが持っているものは……。
俺は女が大事そうに抱えている大きな麻袋のようなものを見る。
その袋は所々に黒いシミが滲んでおり、それを見た俺はなんとなく嫌な事を思いついてしまう。
すると、俺の横にグラドラスが歩いてきて眼鏡を軽く指で上げた後、言ってきた。
「今まで聞いた話からして……あの大きな女性はアステリアで、あの袋の中に入っているのは半神ってところかな?」
グラドラスはそう言ってカーミラを見ると、力なく笑って頷く。
「そうよ。あいつらは私を殺してバラバラにして見せしめにしたのよ。自分達こそが神だって主張してね」
「何故、そんな酷いことをしたんだ⁉︎そんな事をしたら神が怒るに決まってるだろう!」
カーミラの話を聞いたブレドは怒った顔でそう言うと、カーミラは手をすくめて言った。
「言ったでしょう。当時のロゼリア文明は神の領域にさえ届く技術があったの。そして、愚かにもあいつらは神に戦いを挑んだのよ」
「なるほど、神に成り代わろうとした者達が半神を殺した事でアステリアは怒り、人を怪物に変えたのか」
「ええ、自分達はアステリアに人形みたいに作り出された存在だということを知らずにね。だからね……私に殺した醜い心を持つあいつらを見た目も醜くしてやったのよ。まあ、中にはアステリアの力も防ぐ連中がいて逃れちゃったけど……」
「それが今の世界に生きてる人々……罪人か……」
「そうよぉ!」
カーミラはそう言って、自分の両手を握りながら嬉しそうに俺に微笑むのだった。
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