嫌われ者の魔女

 槍で貫かれたグレモスは、そのままゆっくりと地面に倒れていくが、その際に闇の力で纏っていた鎧が剥がれていく。

 そして地面に倒れるとそこには黒髪黒目の俺が倒れていた。


 やれやれ、自分で自分を刺したみたいで変な気分だな……。


 そう思いながらも、俺はグレモスの側にいく。


「もう、許してやれよ自分自身もな」


 俺がそう言うとグレモスは穏やかな顔をしながら言ってきた。


「まさか、人にそんな事を言われるとはな。いや、お前はもう神々に近い存在か……」


「俺はただの冒険者だよ」


「ただの冒険者ね……面白い冗談だ。それでお前は終わらせにいくと言ったな。アステリアを殺す気はないのだろう。どう終わらせるんだ?」


「会話ができれば話し合いを、駄目なら封印する」 


 俺はそう言って腰に下げた剣を軽く叩く。


「全く、迷いがないな……」


「散々、悩んで迷ったんだからもう十分だよ」


 俺の言葉を聞いたグレモスは大きく息を吐くとゆっくりと呟いた。


「……そうか」


 そして、ゆっくりと目を瞑ると何も言わなくなり、徐々に身体が淡く輝くと光りの玉になり俺の身体に入ってきた。

 その時、一瞬、水牛の角みたいなものが頭から生えた女が微笑んでいるのが見えた気がしたのだ。

 俺はそれでグレモスが完全に居なくなった事を理解してしまう。


 やれやれ、ぼろぼろの身体を返されてもしょうがないんだがな。

 だが、やっと本当の自分に戻れた気がするよ。


 俺は薬指にはまった指輪を見てそう思っていると、地面に落ちている大剣ラグナルクが目に入った。


 神殺しの武器が二本か。

 過去に神同士で争っていたということなのか?

 まあ、人と同じような感情を持つアンクルやグレモスがいるのだから、ありえるのかもな……。


「やれやれ……」


 俺は溜め息を吐いた後、ラグナルクを拾い、槍と共に背負うとサリエラ達の方に向かった。

 俺が到着するとちょうど決着がついたらしく、グレーターデーモンが倒れたところで、とどめを刺したサリエラが手を振ってくる。


「キリクさん、終わりました!」


「後はあいつらか……」


 俺は今だにどこからともなく沢山出てくる怪物を見ると、オルトスが苛々した顔で駆け寄ってきて言ってきた。


「キリがねえ。このまま先に行こうぜ」


「そうだな」


 俺が頷くとオルトスはブレドとグラドラスに声をかける。


「おい、先に行くからそいつら放っておけ」


「わかった!」


「ふむ、仕方ない」


 そう言って二人もこっちに駆け寄ってきた。

 それから俺達はカーミラの向かった方向に走りだし、しばらくするとグラドラスが俺に声をかけてきた。


「ここはある意味、不死の領域みたいなものなのかもしれないね」


「言われてみるとそうかもしれないな……」


 そうなると、アステリアも不死の住人みたいになっているのか?

 それだと不死の住人の様に何かしらの欲望が強くなってる可能性もあるのか……。

 厄介だな。

 

 俺はそう思いながら同じような作りの建物が並んでる街中を進んでいると、先の方にカーミラの気配を感じた。


「いるな……」


 俺の呟きにみんな何も言わなかったが、それぞれ武器を構え出した。

 そして開けた場所に出ると俺達はバラけて先の方に立っているカーミラに向かっていく。

 しかし、すぐに俺達は足を止めることになった。


「結界か……」


 俺は目の前に張られている結界を見ると、何重にも結界が張られているのがわかった。


 多重結界……。

 こんなに結界を作ったら魔力があっという間になくなるぞ。


 俺は後ろ姿を見せているカーミラを見ながらそう思っていると、サリエラが声をかけてきた。


「キリクさん、ここは私がやります」


「大丈夫なのか?」


「全力でやりますから、その後は多分戦えないと思います」


 サリエラがそう言うとグラドラスがサリエラの近くに行き俺に言ってきた。


「彼女のフォローは僕がやろう。だから、結界が開いたら三人で頼むよ」


「わかった」


「おお、任せろ」


「心得た」


 俺達が頷くとサリエラは魔力を高め、水の精霊ウンディーネと風の精霊シルフを顕現させ、結界に向かって同時に攻撃をする。

 その際、グラドラスも魔法で追撃していくと一枚目の結界が割れた。

 更にサリエラとグラドラスは同じ事を繰り返していく。

 そして、遂に全ての結界が壊れるとサリエラはふらついて座り込んでしまたった。

 しかし、その顔は達成感に包まれていて俺を見ると力強く頷いてきた。


 成長したなサリエラ。


 俺は軽く手を上げると、オルトス、ブレドと共にカーミラの側に慎重に近づいていく。

 するとカーミラはゆっくりと振り向き俺達に向かって不気味な笑みを浮かべる。


「あらぁ、来たのねぇ」


「カーミラ、もうやめろ」


「やめる?何をよおぉ?」


「アステリアを使って世界を滅ぼし、その後、神々も殺す事だ」


「ふーん、魔王と切り離されたって聞いたけど、繋がってたのね……」


「ああ、底の方でな」


 俺がそう言うと、カーミラは溜め息を吐き手をすくめてくる。


「全く、魔王じゃなくてあなたが欲しかったのに残念ねぇ」


「言ったろう。魔女の騎士なんてごめんだってな」


「ふふふっ、そうね。私はどこへ行ったって嫌われ者……ふふ、ははははははっ!」


 カーミラはそう言うと狂ったように笑い出すのだった。


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