ミランダは気づく
迷宮都市から戻ったあたし達、蒼狼の耳はあれから、別のダンジョンに潜っていた。
理由は力不足を痛感したからだ。
「いくよおっ!」
あたしは、全速力で走りながらアダマンタイト級の魔物、ヘルオーガの心臓部を正確に槍で突き刺す。
そして、続け様に近くにいたもう一体のヘルオーガの首付近を狙う。
しかし、その突きは避けられてしまう。
くそっ、またか……。
あたしは唇を噛みながら、蓮撃に切り替えなんとかヘルオーガを倒す事に成功する。
既に足元には数十体の魔物の死体が倒れており、その半分は急所以外が傷ついている。
つまり、一撃で倒せなかった相手である。
そう、今のあたしは動きながら正確に弱点を狙って倒す事をし続けているのだ。
こんな事をしているのもあの日が原因である。
あたしは宝具を手にしたから強くなれたと勘違いしていたが、結局、ヘカントケイルとの戦いでほとんど力を使い切ってしまい、あの瞬間は全くの役立たずだったのだ。
もう、あんなの絶対に嫌だ。
キリクがああなって居なくなった時、先生の姿が重なって見えたのだ。
また行ってしまうと。
でも、取り戻すチャンスがあるって言ってた。
だから、その日が来るまで力を付けなきゃいけない。
あたしは離れた場所にいるリリアナを見る。
リリアナもあれ以来変わった。
本を読む時間を減らして実戦を良くやるようになったのだ。
それもリリアナはファルネリア先輩の覚悟を見てしまい、足元にも及ばないと痛感したらしい。
迷宮都市から帰ってきて夜、リリアナが泣いていたのをあたしは思いだす。
「第六神層領域より我に風の力を与えたまえ……エアー・エッジ!」
リリアナは風の刃でヘルオーガを切り刻んでいく。
既に足元には私と同じくらいの数のヘルオーガが倒れていたので、あたしも負けてらんないと思い、別の場所に行こうとしたらフランチェスカに襟首を掴まれて持ち上げられてしまう。
「な、何するのよ⁉︎」
「勝手な行動はしないで下さいませ。それが周りにもご自分にも迷惑をかける事をお忘れないで下さい」
「うっ……」
あたしが宙に浮きながら項垂れてると、リリアナがニヤニヤしながらやってきた。
「迷惑勇者は今日も襟首を掴まれ持ち上げられる。えっ、迷惑じゃなくて大迷惑?美しい賢者に言われて初めて気づく迷宮勇者の珍道中(仮タイトル)」
「サブタイトル長いよ!リリアナなんか昨日泣いてたじゃん!」
「な、泣いてない……」
「泣いたよ。ママーーって泣いてたよーー」
「くっ……」
リリアナは顔を真っ赤にさせながら睨んでくるが、全然怖くないので舌を出してやったら、フランチェスカの拳骨が頭に落ちてきた。
ガツンッ!
「ギャアッ、痛いっ!頭が今のでへこんだよ!」
「馬鹿な事をやってるからですわ。これじゃあ、中央に連れて行ってもらえませんわよ」
フランチェスカの一言はあたしの胸に突き刺さり、頭の痛みと共にあたしを苦しめた。
更に、掴んででいた襟首をいきなり離すから、地面にお尻を思いきり打ちつけてしまう。
「うう……三連撃はキツいよーー」
「三連撃?何を言ってるのかわかりませんわね……。それより、ミランダ、あなた戦ってる最中に脇が甘くなってますわよ。だから、避けられてしまうんですのよ」
「うっ、確かにそうなんだよね。でも、動きながらは難しいんだよ……」
「足の踏み込みが弱いんですわよ。突く瞬間にしっかり軸足をつきなさい。アレス先生も言って……ご、ごめんなさい……」
フランチェスカは途中で口元を押さえた後、頭を下げてくる。
そんなフランチェスカにあたしもリリアナも気にするなと手を軽く振る。
「もう、良いんじゃないかな」
「解禁で良い。アレス先生の話し」
「……良いのですか?」
「うん。考えたら生徒が、全く先生の話しを一切しないって失礼かなって最近思ったんだよね」
「思い出すと悲しい。けど、生徒である私達が何も言わないのは先生にしてみたら辛いかも……」
「そうですわね……。わたくし達は先生にとっては酷い生徒かもしれませんわね……」
「……はあっ、会いたいなあ」
あたしが、そんな事を呟いたらリリアナがボソッと聞いてきた。
「覚えてる?あの時のキリクが去る瞬間の姿」
「……勇者時代の先生でしょ。でも、キールなんちゃらって言ってだじゃん」
「キール・オルフェリア・H・セイラムですわ。ちなみにセイラムは王族名でオルフェリアは西側にかつてあったハイエルフと人族の王国ですわね」
「じゃあ、先生って王族だったの?」
「可能性はありますわ。なんせ動き方に気品がありましたからね。ちなみにそこの騎士団のフルプレート姿があんな感じらしいですわ」
「じゃあ、違うでしょ」
「むむ、フランチェスカ、知ってるなら教えて欲しかった……」
「仕方ありませんでしょ。ダンジョンから帰ってから、リリアナは毎夜パパーーって泣いてたんですから」
「な、泣いてない。じゃあ、キリクは先生でない……」
「キリクがもしもハイエルフで見た目通りじゃなければ、西側で会っていた可能性があるかもしれませんわね」
フランチェスカの言葉にリリアナは明らかにがっかりした顔になる。
もしかしたら、キリクが先生だと思っていたのかもしれない。
実をいうとあたしもそう思っているのだ。
しかも、今の話しを聞いていてもだ。
だって、匂いが同じだって気づいたんだもんね。
それに先輩達のあの態度だってそういう事なら納得できるし。
だから、絶対、間違いない。
あたしは確信に満ちた顔をしていると、リリアナとフランチェスカが訝しげに見て言ってきた。
「ミランダ、お腹痛いの?」
「落ちてるものは食べちゃ駄目ですわよ」
「食べてなんかいないしお腹も痛くない!」
あたしは二人に怒鳴りながらも、内心は二人が知ってしまった時の事を想像してニヤけてしまうのだった。
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