マルーの覚悟

 あれから、ぼくはスノール王国で冒険者をやりながら、必死に覚えられる魔法をひたすら覚えていった。

 それも全てキリクの隣りに立つ為である。

 今日もまたランクが一つ上がり、プラチナ級になったけど、まだ目標のアダマンタイト級には程遠い。


 強者かあ……。

 サリエラってキリクに一番近い人がアダマンタイト級だったから、とりあえずアダマンタイト級を目指してるけど、ぼくいけるのかな……。

 はあ、そろそろキリクに会いたいなあ。


 ぼくはそんな事を考えながら冒険者ギルドから出ようとしていたら、掲示板あたりからシャルルが駆け寄ってきて抱きついてきた。


「マルー!」


「あっ、シャルルも冒険者ギルドに来てたの?」


「だって、一人で冒険者ギルドに行くなんてまだ危ないでしょ」


「顔は隠してるし、皆んな優しいから大丈夫だよ」


「もう、そういう考えが危ないのよ。優しいのは下心も含まれてるんだからね。それでどうだった?」


「プラチナ級になれたよ。これでシャルルに並べたね」


 ぼくは腕に嵌めたプラチナ級ランクの証を証明する腕輪を見せると、シャルルも同じ腕輪を出して合わせてきた。


「おめでとうマルー!」


「ありがとうシャルル!」


「これなら、あっという間に目標にしているアダマンタイト級にいけるかもね」


「でも、慢心は駄目よ」


「そうです。私達みたいな失敗をしますからね」


 そう言ってシャルルの後ろから笑顔でマリィとルナが顔を出す。

 もちろん、マリィとルナの失敗談を聞いたぼくは大きく頷く。


「うん、ちゃんと周りをしっかりと見て、冷静に判断だよね」


 ぼくが胸を張ってそう言うと、シャルルが突然、横を向いて呟いた。


「あっ、キリクだ」


「えっ、キリク⁉︎」


 ぼくは驚いてシャルルの向いてる方を見るが、そこには誰もおらず、騙された事に気づいたぼくはシャルルを睨んだ。


「シャルル!」


「ほら、冷静になれてないじゃん」


「あうっ……」


 ぼくは何も言えずに俯いてしまうと、シャルルが頭を撫でてきた。


「まだまだね」


「だ、だって……」


「だってもないわよ。大切な人の時ほど冷静にならなきゃね……」


「シャルル……」


 ぼくは寂しそうな表情を浮かべるシャルルを見て、ザンダーさんを思い出してしまう。

 そして、あの時のキリクもだ。


 ぼくは結局何もできなかったのだ。

 ザンダーさんにやめてとも言えず、キリクにも何も言えなかった。

 ぼくが弱かったからだ。


 だから、勇者ミナスティリアのあの言葉が何度もぼくの心に響くのだ。

 側にいたいなら強くなりなさいと。

 力だけじゃなく精神も強くなれと。


 だから、ぼく頑張るよ!

 

 ぼくはそう思いながらぎゅっと手を握ると、シャルルが顔を覗き込んできた。


「あら?マルーはまた妄想の世界に入ってるのかしら?」


「ち、違うよ!ぼくは決意をあらたにしてたの!」


「へええ、私はてっきり、妄想の世界でキリクに色々と言わせてるかとおもったわ。俺のマルーはいつ見ても可愛いな。その頬っぺたにちゅーしていいか?とかね」


「ち、ち、ちゅーー⁉︎」


 シャルルがとんでもない事を言ってきたから、思わず想像してしまったぼくは頭がくらくらしてしまった。

 そんなぼくをいつの間にか来ていたナディアさんが支えてくれる。


「あら、大丈夫かしらマルー。顔が真っ赤よ?」


「だ、大丈夫だよ……。それより、ナディアが冒険者ギルドに来るなんて珍しいね」


「それは、あなた達を探しに来たのよ」


 ナディアはそう言ってぼく達四人を見回す為、ぼくは何かあったのかと少し不安になっていると、ナディアは皆んなに顔を寄せて来いとジェスチャーして来た。

 その為、皆んな不安な表情で顔を寄せるとナディアは小声で言ってきた。


「なんかレオスハルト王国に要人が集まり出したみたいなのよね。それで、これはチャンスかなあと思ってね」


 ナディアがそう言ってニヤッと笑う。

 どうやら、悪い話しじゃなくて商会としての良い話しだった事にホッとしていると、マリィが目を輝かせながら質問した。


「商売をしたいから早く出発したいというわけね?」


「そういうこと。ただ、もう一つ理由があるのよ。どうやら、南側の魔王討伐で何かあったみたい。今回、集まるのもそれらしくてね……」


「そういえば、あれから全く情報がありませんよね。ナディアさんよく情報を得られましたね」


 ルナが感心した様子でそう言うと、ナディアがニヤッと笑う。


「私の情報網は南側まであるからね。それでなんだけど、進軍パーティーが少し前に戻って来たらしいの。なのに何も発表されてないから、前回みたいに失敗したんじゃないかって情報筋が不安になっててね」


「なるほど、その真意を探る為にもレオスハルト王国に行くんですね」


「そういうことよ、ルナ。でも、最初に言ったようにこれはチャンスだって事を忘れないでね!」


 ナディアはそう言ってウィンクしてくる。

 そんなナディアにマリィも商人として加わろうと擦り寄っていく姿を見て、ぼく達は顔を見合わせて笑いあう。

 けど、こういう楽しい事があると、いつも思い出す。

 あの時のキリクの後ろ姿を……。


 だから、今度こそ言ってあげるんだ。

 ぼくが側にいるよって。

 

 そうシャルル達を見ながらぼくは思うのだった。


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