二人の過去2
そんなアレス様に精霊妃フェニクス様は悲しそうな表情を浮かべると、アレス様が喋りだした。
「……俺の話しはいい。さっさと俺が呼ばれた理由を説明してくれ」
『……わかったわ。あなたにはその小さき子の瞳を覆うレンズの様な結界を作る手伝いをして欲しいの』
「結界?俺はできないぞ。結界師に頼んだ方が良いんじゃないか?」
『いいえ。あなたの加護には女神ナディア様の力もあるの。彼女の張る結界は結界師が張る結界とは比べものにならない程、強力よ』
「なるほど、だが、使い方はわからないぞ」
『そこは私があなたの力を借りてやるから大丈夫よ』
「なら、さっさとやってくれ」
アレス様がそう淡々と言うと、精霊妃フェニクス様は落ち込んだ様に黙ってしまうが、しばらくすると申し訳なさそうに言ってきた。
『ただ、結界を作る為にはあなたの魂を少し分けて欲しいの……』
精霊妃フェニクス様がそう言った時、思わず私は声が出そうになり口元を押さえたが、お母様は声が出てしまった。
「えっ?なんでよ。そんなの聞いてないわ……」
すると精霊妃フェニクス様は辛そうに説明しだした。
『その小さき子には女神ナディア様の力はないの。だから、神々に愛されし子の魂を削ってレンズの様にするしかないのよ』
「そんな……」
お母様はショックを受けたようにアレス様を見つめていると、幼い私がそれに気づき首を傾げる。
「お母様、どうしたの?」
「……え、ええとね、その……」
お母様は言葉に詰まってしまう。
当たり前だろう。
知らなかった事とはいえ、アレス様の命を削って私を助けようとしているのだから。
でも、こんな事があったなんて知らなかった……。
私は昔のことを思い出してみるが、やはり大病をした記憶はあるがどんな病気だったのか覚えていないのである。
私は隣りで静かに目を閉じて立っているアンクルを見る。
アンクルは記憶の書き換えが行われたと言っていた。
じゃあ、この後にそれが行われるのだろうか?
私がそんな事を思っていると、アレス様がお幼い私の側に歩いて来る。
すると、幼い私は目を見開き涙を流し始めた。
それを見たアレス様は一歩、後ろに下がろうとしたが、幼い私が腕を掴んで首を振る。
「一人は寂しいよ」
「……別に一人ではないぞ。一人になりたくてもあいつらがさせてくれないからな……」
「違うよ。心が一人なんだよ。穴がいっぱい開いてるの。凄く痛いよ」
幼い私はそう言って腕にしがみつく。
そんな幼い私をアレス様はどうしていいのか分からずにいると、お母様が幼い私の頭を撫でし始めた。
「こうするのよ。アレスもやってあげて」
お母様はそう言ったけどアレス様は首をゆっくりと横に振った。
「……俺にはできない。俺の手は汚れすぎてる」
「アレス……」
お母様は悲しそうにアレス様を見つめたが、そんな視線から逃れる様にアレス様は精霊妃フェニクス様の方を向いて言った。
「俺の魂ならいくらでもやるから、さっさとやれ」
「アレス⁉︎」
『……良いの?』
「別に問題ないだろう?」
アレス様はそう淡々と言う為、精霊妃フェニクス様は悲しそうに俯いてしまい、お母様は絶句してしまう。
そんな中、幼い私が急に目を押さえ出し、苦しみだしてしまう。
「ああああっ……。やだっ!全部燃えちゃうよ‼︎駄目ええぇぇーーーー‼︎」
幼い私は震えながらそう叫ぶと、遂には倒れてしまうが、すぐにアレス様が抱き抱えてくれた。
「……何が起きてる?」
「もしかしたら、誰かの過去か未来を見てるのかも!しかもこの怯え方は最悪、心に傷ができるかもしれないわ……」
お母様はそう言って悲痛な表情をすると、アレス様は幼い私を抱えながら精霊妃フェニクス様の方に歩いていく。
「おい、さっさと始めろ!」
アレス様は精霊妃フェニクス様に近づきながら怒鳴ると、精霊妃フェニクス様は両翼を広げて羽ばたく。
『わかったわ。では、始めるわね』
精霊妃フェニクス様はアレス様の周りを飛び始める。
そしてしばらくすると沢山の魔法陣が現れ、どんどん幼い私の目に入っていき、幼い私の表情は穏やかになっていく。
すると、精霊妃フェニクス様は最後に翼で幼い私とアレス様を包み込んで光り輝くと再び元の場所に飛び、ゆっくりと降り立つと頷いた。
『終わったわ』
精霊妃フェニクス様がそう言うと、アレス様は寝てしまっている幼い私をお母様に渡す。
「……ありがとう、アレス」
「気にするな」
「でもっ!」
「俺が気にするなと言っているんだ。それに今日あった事はそのうち忘れる」
「えっ、どういう事?」
「お前達はどうせ、今日の事をずっと気にしてしまうだろう。だから、あれに頼んでおいた。俺も含めて今日あった事は忘れて記憶が曖昧になる様にな」
「なっ、フェニクス様が⁉︎」
お母様は驚いて精霊妃フェニクス様を見ると、首を縦に振った。
『小さき子には荷が重すぎるわ。それにあなたにもね……。ごめんなさい』
精霊妃フェニクス様はそう言うと弾けて消え、精霊妃フェニクス様の像に戻ってしまった。
「どうしてよ……」
「あれが言った言葉が全てだ」
そう言うとアレス様は去っていってしまった。
そして残されたお母様はしばらくすすり泣いていたが、急に辺りを見回し首を傾げる。
「あれ?なんで私ここにいるんだっけ?あっ、サリエラの治療が終わったんだった。さあ、早く帰りますか」
お母様はそう言って笑顔で神殿を出ていく。
そんなお母様の背中を見ながら私は涙を流していた。
こんな事ってないよ……。
アレス様に助けてもらったのに覚えてないなんて……。
私はしゃがみ込んで嗚咽を漏らしていると、アンクルが背中を摩ってくれた。
「辛いけど、あなたと彼は実をいうと昔に繋がりがあったのよ」
「……私の目の為に命を削ってくれてたなんて知らなかった」
「けれど、このおかげであなたと彼の魂が結びついたの。そしてあなたなら彼を探せるのよ」
「私なら探せる……」
「そして彼を助けれるの」
「助けれる……」
その呟いた瞬間、私は涙を拭いて立ち上がる。
そうよ、私はキリクさんを助ける。
だから、泣いてる暇なんてないのよ!
私は自分の両頬を叩くとアンクルを見て力強く頷くのだった。
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