二人の過去1

 気づくと目の前は開けた森の中だった。

 何が起きたのかわからない私は側にいたアンクルを見ると、森の奥に見える荘厳な神殿を指差しながら言ってくる。


「あれは精霊妃フェニクスの神殿よ」


「精霊妃フェニクス?じゃあ、ここはスノール王国領って事ですか?」


「そう、ただし、これは過去を視てるのよ。彼のね」


「キリクさんですか?」


「キリクになる前のものね。そしてあなたと初めて会った時の過去よ」


 アンクルはそう言って来たが私は首を傾げてしまった。


「……あの、私は北側に行った記憶はないのですが?」


「そう、記憶を書き換えられているからね。とりあえず視に行きましょう。それで理解はできるはずだから」


 アンクルはそう言うと精霊妃フェニクスの神殿がある方に歩いて行ってしまう為、私も慌てて追って行く。

 その時、前の方にある人物の背中が見えたのだ。

 その瞬間、私は思わず駆け出しその人に声を掛けてしまった。


「キリ……アレス様‼︎」


 しかし、そのフルプレートを着た人物、アレス様は私の声が聞こえてない様で神殿の方に歩いていく。

 私は続けて声をかけ続けるが全くアレス様は反応もしてくれなかった。


「ど、どうして……」


 私がショックを受けて立ち尽くしていると、アンクルが声をかけてきた。


「ここは過去を視ているだけだから、私達は存在しないのよ」


「な、なるほど……」


「さあ、私達も神殿の中に行きましょう」


 アンクルはそう微笑むと私の手を握って進み始める。

 それから私達はアレス様より先に神殿に入り、奥にある精霊妃フェニクスの像まで行くと、そこには母、アーリエと目を呪術が施された布で隠した幼い頃の私がいたのだ。


「えっ、なんでお母様が⁉︎」


 私は驚いてアンクルを見ると、無言で私に向かって指を口元に持っていく為、色々と聞きたかった私も仕方なく頷くと、それが始まりとばかりに幼い私が喋り始めた。


「ねえ、お母様。本当に勇者アレス様は来られるの?」


「来るわよ。ちゃんと返事も来たもの」


「えーー、信じられないなあ。だってお母様よ?騙されてるんじゃないの?」


「騙されてなんかいないわよ。正真正銘、勇者アレスよ。あなたの大好きなね」


「ただの村人のお母様が勇者アレス様の知り合いなんてどういう関係なの?まさか、あの話しは本当なの?」


「もう、本当に信じてなかったのね!」


「信じるわけないじゃない。お母様がお姫様だったなんてえ。でも、料理も掃除もできないのはそういう事だったのかな?」


「ち、違うわよ!」


 相変わらずのお母様は幼い私の頬っぺたを突っつく。


 あれ、結構痛かったのよね……。


 私が懐かしいと思いながらその光景を見ていると、アレス様が二人の前に到着した。


「待たせたな」


「あら、久しぶりじゃない」


「確かにあれ以来だな。それで緊急で話しがあると聞いたが、その子供が関係あるのか?」


「ええ、私の娘でサリエラって言うの。サリエラ、アレスよ。挨拶しなさい」


 お母様はそう言うと五才ぐらいの幼い私の目を隠していた布を取り、アレス様の前に押し出す。

 すると、幼い私は驚いた顔をした後、泣きそうな顔でお母様の後ろに隠れてしまった。

 しかし、お母様は幼い私の気持ちを理解するわけもなく頭を撫でながら声をかける。


「ほら、サリエラ」


「む、無理よ!こんな格好じゃ!ああ、お姉様達の言うとおり、ちゃんとした格好してくれば良かった!」


「失礼ね。私が選んだ服の何がいけないのよ。まあ、ちょっと茶色が多いけど……」


 お母様はそう言って葉っぱのデザインがされた服を着た幼い私を見る。


 今見ても思うけど、お母様って服のセンスも酷いのね……。

 ほとんど侍女にやらせてたって言ってたのも、今、思えば頷けるわね。


 私が呆れた顔でお母様を見ていると、アレス様が溜め息を吐いた後に喋りだした。


「まあ、挨拶は良い。とりあえず話しをしてもらえるか?」


「わ、わかったわ。ええとね、この子の目の事なんだけど、私の精霊眼を受け継いだのよ。しかも私の時より力が強くて生活にも支障をきたしてるの。それで、このままだと自分が何処にいるのかさえもわからなくて最終的に命の危険もあるって言われたのよ……」


「なるほど、それをどうにかしたいわけだな。だが、どうするんだ?俺にはさっぱりわからないぞ」


「それは、精霊妃フェニクス様が教えてくれるって長老が言ってたのよ」


「なるほど。だから、ここなのか」


「ええ、そういう事よ。それじゃあ、精霊妃フェニクス様を呼ぶわね」


 お母様はそう言うと精霊妃フェニクス様の像の前に立ち祈りを捧げ始める。

 するとしばらくして精霊妃フェニクス様の像が燃え始め、細い炎の柱が立ち登ると、その上に止まる様に輝く炎の鳥が現れた。


『よく、来たわね。我が子達よ。祝福するわ』


 輝く炎の鳥、精霊妃フェニクス様はそう言うと片翼を広げて周りに火の粉を飛ばす。

 その火の粉は途中でキラキラと光りになって輝くと、周り降り注ぎとても幻想的な光景になった。

 するとアレス様が光りを見て呟く。


「耐性が上がる魔法か」


 すると精霊妃フェニクス様は嬉しそうに頭の中に直接声をかけてきた。


『ええ、そうよ。神々の祝福を受けし子。あなたの活躍を私達は嬉しく思ってるわよ』


 精霊妃フェニクス様はそう言って優しそうな目でアレス様を見るが、アレス様からは全く何の感情も感じなかった。

 それどころか精霊妃フェニクス様に対して一瞬敵対する様な感じがしたのだった。


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