神の弱さが生み出した存在
私達は扉を通り煌びやかな広間に出た。
「ここは私の屋敷の中なの。これからサリエラには彼を助けに行ってもらうわ」
アンクルはそう言うと黒い本を出すが、その本はキリクさんがあの姿になる前に現れた本だとわかった。
「それを使ってどうするんですか?」
「この本の道を作り出す力を使って、あの時、彼の心を繋いでおいたのよ」
アンクルがそう説明するとグラドラスさんが納得した顔をして頷いた。
「だから、あの時、キリクの身体にその本が入っていったのか」
「そう、彼の身体にこの本を入れ、こっちにあるもう一つの彼に送ったの」
アンクルはそう言うと、バルコニーの方を見る。
そこには安楽椅子が置いてあり、誰かが座っている様だった。
すると、オルトスさんが急いで駆け寄っていき安楽椅子に座る人物を覗き込むと呟いた。
「ちっ、あいつ本当にやってたのか……」
オルトスさんはなんとなく寂しそうにその安楽椅子に座ってる人物を見つめる。
そんなオルトスさんの横にグラドラスさんが並ぶと、背中を軽く叩いた。
「これは神々の間で決められていた事なんだから、君が気負う必要はないよ」
「……どういう事だ?」
オルトスさんが不満そうな表情でグラドラスさんを見ると、アンクルが代わりに答えた。
「それは私が説明するわ。神々がアステリアをどうすべきか考えていた時、精霊神オベリアの真理の目にいくつかの未来が見えたの。それはほとんどがこの世界や神々の領域まで破壊する酷いものだったらしいわ。ただね、中には回避できそうなものがあったの。その中でも一番可能性のあるルートを選んだ結果、こうなってしまったのよ……」
「……じゃあ、神々の所為でこいつはこんな事したのか?」
「まあ、彼は知らないけどそういうことよ」
「ちっ、やっぱり騙してたんじゃねえか……」
「騙してたどころじゃないわ……。なんせ、彼が一番苦難の道を歩むルートを私達は選んでしまったのだから……」
アンクルはそう言って辛そうな表情を浮かべる。
するとオルトスさんが拳を固めながらアンクルを睨んだ。
「何言ってんだか意味がわかんねえよ。わかるように説明しろ」
「……彼が順風満帆に人生を歩むルートも中にはあったのよ。ただ、そのルートは世界の半分以上が死滅してるの。もちろん、あなた達は死滅してる中に入るわよ……」
アンクルはそう言って私達を悲しそうに見つめる。
要は安楽椅子に座る人物と世界の半分を神々は天秤にかけて、世界の半分を取ったのだ。
その言葉を聞いた私達は何も言えなかった。
言う権利がないと思ったのだ。
私はその権利を言える人物が座っている安楽椅子の方に近づいていく。
そして近づいていきながら私は祈り続ける。
既に正解に辿り着いているが、その人物が私の知っている人とは別人であってほしいと……。
けれど、ゆっくり回り込み、その安楽椅子に座る人物を見て胸が苦しくなった。
やっぱり、そうなんだ。
私は涙が溢れ出てしまった。
流れる様な金色の髪に、金色の瞳以外は私の知っている人だった。
「キリクさんはやっぱりアレス様だったんですね」
私は遠くを見ている様で何も見ていないキリクさんの瞳を覗きこみながら手に触れる。
「暖かい……」
「生きてるみたいでしょ?でも、この身体には魂がないから話しかけても何も返ってこないのよ……」
アンクルはそう言ってキリクさんの髪を愛おしそうに撫でる。
そのアンクルの姿はとても寂しそうだった。
そうか、アンクルはここにずっと一人でいたんだ。
愛してる人に話しかけても返ってこないなんて辛いだろうな……。
私はそっとアンクルを抱きしめると、アンクルは少し驚いたが、すぐに微笑んでくる。
「あなたは本当にサリエラね。ふふふ、なんだか元気が出てきたわ」
「良かったです。それで私はどうすれば?どうしたらキリクさんを救えるのですか?」
「それには、まず、あなたの視る力を解放させないとね」
アンクルはそう言った瞬間、目の前にラスが現れた。
「アンクル、始めるのか?」
「ええ、お願い」
「では、エルフの娘よ封印を解き、我の力を一部貸そう」
ラスはそう言うと私の目が急に熱くなり、私の視界全体に沢山の魔法陣が浮かび上がり、一つ一つが砕けて消えていく。
そして、全ての魔法陣が消えると何となく周りが鮮明に映る様な感じがした。
「サリエラ、目に違和感はある?」
アンクルがそう言って覗きこんでくる。
そんなアンクルを視て私は驚く。
さっきまでわからなかったのに、今はアンクルと光る蝶が重なって見えたからだ。
「光る蝶……」
「ああ、あなたにはもう視えるのね。どうやら上手くいったみたい」
「これが私の目の力ですか?」
私がそう呟くとラスがそれに答えた。
「真理の目だ。その者の本来の姿、そして過去を視て未来を視る力がある。精霊髪オベリアの能力の一つだな。そして私の能力でもある」
「まさか、あなたは精霊神オベリア様の半神なのですか?」
「そうだ。視る力により精霊神オベリアは絶望しかけた。その時、視る力の一部が精霊神オベリアより離れ、私が生まれたのだ」
「……そうだったのですか」
確かに破壊される未来なんか見たら私でも辛いだろう。
なんというか神々というのは人に似ているのではないかと思ってしまう。
そんな事を思っていたらラスが全ての目を私に向けてくる。
「所詮、神など少し力がある人と変わらんのだよ。さあ、アンクル、次の行動に移るがいい。どうやら、向こうも動き出したみたいだ」
「それは急がなきゃ。さあ、今度は私の力を合わせて彼の心に入るわよ」
アンクルはそう言って私の手を握ると、安楽椅子に座るキリクさんの胸に手を当てた。
その瞬間、私の視界は一瞬で切り替わったのだった。
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