戦いの終わりと別の目的
剣が魔核に当たった瞬間、巨大な力が剣全体に流れ込んで来るのが握りしめた柄の部分から感じとる事ができた。
更に俺の脳裏に膨大な量のよくわからない何かが映り込んでくる。
その瞬間、俺は力が抜けて膝をついてしまうが、それと同時に俺の身体の中にある魔王の呪いが活発化して来たのがわかった。
くっ、これは……。
剣と共鳴してるのか。
俺はすぐに剣を鞘にしまうとグラドラスに投げる。
そして、身体の中を暴れ回る魔王の呪いをなんとか抑えこもうとしていると、俺の異変に気づいたサリエラが心配そうに声を掛けてきた。
「キリクさん、大丈夫ですか?」
「あ、ああ……」
本当は大丈夫じゃないが、サリエラに心配させたくなかった俺は平静を装いながら立ち上がる。
「……問題ない。それよりも破壊できたみたいだぞ……」
俺は魔王ごと灰になってしまった魔核を見る。
どうやら、上手くいったらしいな。
俺は周りにいた魔族を見ると悲しげな顔で魔王がいた場所を見つめていたが、一人の魔族がハッとした顔になると慌てて大声で叫びだした。
「魔核が破壊された!同志達よ!もう争う理由はないぞ!」
魔族は何度も同じ事を叫ぶと魔族同士の争いは止まり、ミナスティリアの方も戦いが止まった。
だが、そんな中、火竜の伊吹とミランダ達の戦いはまだ続いていた。
「ベネット!もうあんたらの企みは防いだよ!いい加減に降参しな!」
メリダはベネットに向かってそう叫ぶと、ベネットは不敵な笑みを浮かべて全員に聞こえるように喋りだした。
「勘違いするな。俺達の目的は違うぞ」
「ど、どういうことよ?」
「もうすぐわかる……いや、頃合いか」
ベネットはそう呟くと戦いをやめメリダから距離を離す。
するとベネットの後ろから妖艶な笑みを浮かべたカーミラが現れたのだ。
「ご苦労様、ベネット。皆んなも集まって」
カーミラがそう言うと今まで戦いをしていた巨人の右腕もヨトスも攻撃をやめてカーミラの方に集まりだした。
すると、それを見ていたカタリナは怒りの形相を浮かべてカーミラを睨んだ。
「どういうことかしら。魔女?」
「どうって?私わからないわあ」
「お前は魔王バーランド様を裏切ったの?」
「裏切ってなんかいないわあ。だってそもそもバーランドは私の駒みたいなものよお。駒をどお使おうが私の自由でしょう」
「なっ⁉︎」
「そもそも、あなただって本来の目的忘れちゃってるでしょう?」
「……目的?」
カタリナはよくわからないという顔をするが、それを見たカーミラは苦虫を噛み潰したよう表情を浮かべる。
「やだやだ、だから闇人って壊れた人形みたいでやなのよねえ。まあ、もう良いわあ。それより……」
カタリナとの会話に飽きたとばかりに手をすくめた後、カーミラは周りをゆっくりと見回した後、俺を見つめる。
「やっぱり、闇の力が一番強いのはこの中でもあなたね」
「……何が言いたい」
「ふふふ、わかってるくせに……」
カーミラはそう呟くと手を握る仕草をした。
その瞬間、俺の中の加護が弱まり魔王の呪いが更に暴れだした。
「ぐっ……」
俺は思わず胸を抑えようとすると身体中から黒いモヤの様なものが吹き出し、俺を包み込もうとしてきた。
それを見たサリエラやミナスティリア達が慌てて駆け寄ってくるが、見えない壁によって阻まれる。
どうやら、カーミラが結界を張ったようでニヤついて二人を見ていた。
「ダメよ、彼は今、私だけの騎士になるの。邪魔しないでほしいわ」
「ふざけないで、彼を解放しなさい!」
ミナスティリアがそう言ってレバンティンをカーミラに向けるが、カーミラは首と指を横に振る。
「ちっちっち、ダメよお。彼の命は私が握ってるの。だから結界を傷つけようなんて思わないで、あなた達は静かにそこで観客になっててねえ」
「くっ、卑怯なことを……」
ミナスティリアは悔しそうな顔をしていると、グラドラスが前に出てきて陽気に喋りだした。
「皆んな、ここは魔女殿の言う通り静かに見ていようじゃないか」
グラドラスがそう言った瞬間、ミナスティリアやサリエラは驚愕した顔でグラドラスを見る。
「はっ?あなた何を言ってるの?」
「そうですよ!このままじゃキリクさんが闇人になってしまいますよ‼︎」
「まあ、このままじゃねえ」
グラドラスは眼鏡をくいっと持ち上げニヤニヤしだすのだが、それを見ていたオルトスが呆れた顔で呟いた。
「あのやろう、糞みてえな事考えてやがる。キリク、おめえはろくな死に方はできねえぞ」
「……やれやれ」
俺は身体が引き裂かれそうな痛みに耐えながら、グラドラスを睨むと飄々とした顔をしていた。
そんなグラドラスだったが、カーミラの視線に気づくと不敵な笑みを向ける。
「おや、魔女殿は僕が何をしようとしているのか興味があるのかい?」
「ええ、ぜひ教えて欲しいわあ」
カーミラはしなを作りグラドラスを見るが、グラドラスは鼻を鳴らすだけで答えなかった。
するとカーミラは舌打ちした後、俺を見ながら呟く。
「彼、どうなっても良いのお?」
「できるならどうぞ。それよりもよそ見をしてていいのかい、魔女殿」
グラドラスは狂気じみた目で俺をみながらそう言うと、カーミラは悔しげな表情をしながら、ベネットに声を掛ける。
「……あれを出しておいて」
「わかった」
ベネットはそう答えると魔核を出してきたのだが、その瞬間、魔王の呪いに反応したのか俺の身体から黒いモヤが沢山飛び出した。
そしてある形を形成していったのだが、形成し終わった姿を見て俺は驚いてしまう。
その姿は黒いが子供時代の俺だったからだ。
何故、子供時代の俺が?
俺はそう疑問に思っていると、子供時代の俺はぽっかりとあいた目の部分を赤く光らせながら、俺達に向かって優雅に挨拶をしてきたのだ。
「皆様、初めまして。俺はキール・オルフェリア・H・セイラムだ」
そう言うと赤い目を細め、皆んなに笑顔を向けるのだった。
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