解放される者と沈んでいく者
キール?が挨拶をした後は皆んな固まっていた。
俺を使って何かしようとしていたカーミラさえもだった。
するとキール?は俺の方を見て考える様な仕草をしだす。
「うーん、何で取り込めなかったんだ?かなり弱っていたはずなのにな。いや、そもそも俺が取り込まれて喰われたのか……」
キール?は納得したように手を叩くと、俺に言ってきた。
「まあ、お前はもういらないから、出ていってくれないかな。もう十分頑張ったろう?」
「……お前は誰だ?」
「さっき自己紹介したじゃんか。キール・オルフェリア・H・セイラム、まあ、キールって呼んでくれ」
「お前は違う……」
「いやいや、キールだって。オルフェリア王国の第二王子……ああ、もうあそこは滅んだか。まあ、とにかくこのままだと俺もお前もダメになっちゃうからさ、どっちかが消えないとダメなんだよ」
そう言うとキール?は辺りを見回し、カーミラを見つけると声を掛けた。
「お前、俺が欲しいんだろ?なら手伝えよ」
「……どうするのかしらあ?」
「闇の力を俺にくれ」
「闇の力ねえ。それであなたは何をしてくれるのかしらあ?」
「そうだな……とりあえずお前の騎士になってやるよ」
キール?の話しを聞いたカーミラは悩んだ表情をしながら俺を見る。
そして、しばらくするとゆっくり頷いた。
「良いわよ。約束は守ってね……」
カーミラはそう呟くと腕を上げ指を鳴らす。
すると、部屋中に沢山の魔法陣が現れ、カーミラ以外の闇の力を持っている連中が急に苦しみだした。
更に身体から黒いモヤが出てキール?に集まっていく。
「ははは、これは凄いな。やはり、呪いを掛けて成功だったよ」
キール?は、そう言うと笑いながら俺を見てくるが、その言葉を聞いた俺は目の前のそれが誰だかわかってしまった。
「お前、魔王カーズトか……」
俺がそう呟くとキール?は手を叩く。
「当たりと言いたいところだけど違う」
「……どういう事だ?」
「お前の力の方が強かった。だから、カーズトとしての意識がお前に喰われ俺が生まれた。つまり俺は魔王カーズトとは別の存在、つまりキールだ。そしてお前が殺した存在だよ」
俺はそう言われて黙ってしまう。
確かに俺はあの日、キールという存在を殺したのだ。
それが魔王の呪いを受けたことにより復活したということか……。
俺は目の前の存在キールを見つめると、今では俺と同じくらいの背丈になっていた。
そして手をすくめながら俺を見てくる。
「なあ、どっちみちお前はもう長くはないんだよ。それに疲れただろう?楽になって皆んなのところにいけよ」
俺はそう言われ皆んなを思い出すと、急に身体の痛みが消え、急激に眠くなってきた。
俺は何故だかそのまま眠ってしまおうと思ったのだが、心に響いてくる声に目が覚めてしまう。
「いかないで‼︎」
俺ははっとして声が聞こえた方を見るとサリエラが悲痛に表情を浮かべてこっちを見ていた。
「……サリエラ」
「キリクさん、お願いだからいかないで!」
サリエラがそう叫ぶと隣にいたミナスティリアも叫んでくる。
「闇の力に負けないで!あなたならきっと勝てるわ!」
「……ミナスティリア」
更にファルネリアやミランダ、リリアナまで叫ぶ。
「「「キリク‼︎」」」
すると、キールは面倒臭そうに手を叩く。
「絆の力は凄いな。後、もうちょっとだったのにさあ。全く勘弁してくれよ。こっちは穏便に済まそうと思ってるのに……。はあっ、仕方ないな」
キールはそう言うと両手を広げると闇の力を持っている連中から更に黒いモヤが激しく出てきた。
そしてキールに集まっていき、その姿はまた変化していくが皆んなは驚いた顔をしだした。
何故なら変化をしていく姿がフルプレートを着たアレス時代の俺だったからだ。
そして変化を終え、全身が黒いが完全に勇者時代の俺の姿をしたキールは俺に声を掛けてきた。
「やあ、久しぶりだね」
しかも、今度はあいつの口調で俺に声を掛けてきたのだ。
「……何の真似だ?」
「君の記憶の中の僕を再現したんだよ。ほら、これで僕を自由にしてくれれば世界を見に行けるだろ。だから僕を自由にしてくれないかな?」
俺は勇者の姿をしたあいつに言われ、偽物だとわかっているのに激しく動揺してしまった。
そんな俺の側にあいつはゆっくりと歩いてくると囁いてきた。
「さあ、キール、僕を解放してくれ」
そしてあいつは腕を剣の形に変えると俺の胸を貫いた。
一瞬、何が起きたかわからなかった。
なんせ痛みが全くなかったからだ。
ただ、視界が徐々に暗くなり、俺という存在が黒い沼に沈んでいくのは理解できた。
闇に取り込まれるということか……。
俺は抗う気も起きなくなっていたので、身を任せているとサリエラ達の声が聞こえた気がした。
だが、もう俺にはその声さえどうでも良くなる程、今の状態が心地良く感じてしまっていたのだ。
ああ、やっとゆっくり休める……。
俺は目を瞑ろうとすると突然、手に何かを持った感覚があったので見ると、何故か収納鞄に入っていたネクロスの書を持っていた。
だが、正直もうどうでも良かった俺は全てに身を任せることにし、完全に黒い沼に頭の先まで沈んでいったのだった。
◇◇◇◇
目を開け自分の姿を確認すると黒いフルプレートの格好をしていた。
どうやら、上手くいったらしい。
俺はカーミラの方を向くと声を掛ける。
「お望み通りお前の騎士になろう」
しかし、カーミラは何故か俺を警戒するように距離を取りながら喋ってきた。
「……あなたはいったい何者なの?」
「俺か?」
俺はカーミラにそう言われ悩んでしまう。
キールであり、キールでない。
アレスであり、アレスでない。
キリクであり、キリクでない。
カーズトであり、カーズトでない。
……わからない。
「……俺は俺だ」
俺がそう答えると、カーミラは溜め息を吐く。
「まあ、良いわ。ベネット、魔核を渡して」
「ああ」
ベネットは頷くと俺に魔核を投げてくる為、それを受け取ると魔核はフルプレートの中に勝手に沈んでいき、俺の力が跳ね上がるのを感じた。
そして沢山の情報が流れてきて俺は理解する。
「……俺は魔王だ」
「そして私の騎士でもあるのよ」
「ああ、そうだな。そして世界を破壊する」
「あら、意思も受け継いだのねえ。最高よお!」
カーミラはそう叫ぶとしなだれかかってくる為、丁寧に身体を剥がす。
「……それでこれからどうするんだ?」
「そうね、まずは場所を移動しましょうか」
カーミラはそう言うと、サリエラ達の方を向き、手を振った。
「ふふ、それじゃあ、バイバーイ」
カーミラはそう言うと転移魔法を使ったのだが、転移が始まった瞬間、離れた場所から強い思いがこもった視線を感じたので見るとサリエラ達だった。
だが、あいつらにはもう俺は何も感じる事はなく、むしろ見ると憎しみが高まって来るのを感じるぐらいだった。
だから俺は無視をする。
そんな俺にサリエラは呟く。
「必ず助けます」
その言葉が耳に入ってきたと同時に俺達はカーミラが指定した場所へと転移したのだった。
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