理解できない元勇者
結局、俺達は今日、ダンジョンに潜るのは中止して近くの酒場にオルトス達と飲みに来ていた。
「で、お前達はこっちへ来て何やってたんだ?」
「そりゃ、迷宮都市ラビュントスって言ったらダンジョンだろ」
オルトスはそう言って酒を飲み始めてしまったので、俺はブリジットの方を見る。
「あたいがオルトスさんにお願いしてトラップ対応を教わってたんだよ。なんせオルトスさんの罠外しはネイダール大陸一番だからね!」
「なるほど……」
ブリジットは罠解除も担当していたんだったな。
オルトスもこんななりして手先は器用だから俺達のパーティーでも罠解除の担当だったな。
まあ、こいつの場合は宝箱の中身を最初に見たいってだけの理由だったが……。
俺はオルトスが宝箱を開けた後によく、ちょろまかそうとしてグラドラスとブレドに怒られていたのを思い出す。
ブリジットにそういうのは教えてないだろうな……。
俺はオルトスを睨むと何故か歯を見せながら満面の笑みを浮かべて俺を見てきた。
正直、不気味すぎて目を逸らしそうになったが、なんとかオルトスの鼻のみに視線を集中して喋る。
「……それで、ダンジョンの罠はどんな感じのがあった?」
「多種多様で魔法トラップもあったぜ。まあ、基本は暴発させてから進めば問題ないのが多かったな。だがよお、そんな事よりもっと聞く事あるだろ?」
オルトスはそう言うとブリジットの方に身を寄せて、また歯を見せながら満面の笑みを浮かべてきた。
「……なんだ?装備は変わってないし髭もじゃ具合もいつも通り不快だぞ?」
「はあっ、これだからダメなんだよ。エルフの嬢ちゃんならわかるだろ?」
「はい、オルトスさんとブリジットさんお付き合いを始めたんですね」
サリエラが祈る様に手を合わせ、目をキラキラさせながらそう言うと、ブリジットは顔を両手で隠して俯いてしまい、オルトスは笑みを浮かべて頷く。
一方、俺はサリエラの言ってる言葉が理解できなかった。
「ツキアウ?」
オルトスとブリジットがお互いに拳で突きあうのか。
なるほど。
俺は理解したとオルトスに向かって頷いてやると何故か舌打ちをされて睨まれてしまう。
すると、サリエラが俺の耳元に顔を寄せて囁いてきた。
「キリクさん、二人は恋人になったんですよ」
「コイビトだと?すまんが俺が知ってる言葉の意味とは絶対違うと思うから、そのコイビトというのはなんなのか教えてくれないか?」
「キリクさん……間違いなく知ってる言葉と同じ意味ですよ」
「ほお、サリエラ、ならもう一度そこの髭もじゃを見てから言ってくれ」
俺が真剣にそう言うとサリエラはオルトスを見て、一瞬視線をそらしたが俺に頷いてきた。
「キリクさん、オルトスさんとブリジットさんは恋人になったんですよ」
「……なんだと」
俺は信じられないという目でオルトスを見ると、ニヤッと笑って頷いてきたので認めざる終えなかった。
「……そうか」
「わるいなキリク、お先だぜ。いや、お前みたいな陰気臭い奴は一生独り身か!ワハハッ‼︎」
オルトスはバカ笑いを始めるが俺は別に怒る気はしなかった。
……別にそれでも良いさ。
俺は誰かと一緒に歩む人生は送れないし送っちゃ行けないんだからな……。
なあ、そうだろ?
俺はオルトスの横に立っている小さい俺を見つめると、無表情で頷いて消えていった。
俺はしばらく小さい俺が居た場所をボーっと見つめていると、サリエラが不安そうな顔で服を軽く掴んできた。
「なんだサリエラ?」
「……ちょっと掴んでいたいだけです。それより、そろそろ進軍の話しが出そうですね」
そう言ってサリエラが話題を変えてくると、ブリジットが真面目な顔つきになり喋りだした。
「明日には皆んな南側に来るみたいだよ。だから、二、三日後には突入になるはずだね」
「でも、その前に穢れた血縁者や魔王信者が動き出さないといいんですが……」
「ああ、その話しは聞いたけど中々やばい事になってるよね。まあ、だからこそお偉方の突入許可が出たんだけど」
「事が起きないと動けないのはどうかと思いますけどね」
サリエラは不満そうな顔で呟くが、ブリジットは逆に満足そうな顔をする。
おそらく、今回その事が起きたから南側の貴族連中が怯えて突入許可だけじゃなく、かなりの費用も出してきたのを知っているのだろう。
「まあ、今回はかなりの額が出てるから、装備は充実したものを揃えられるよ。そういやキリクは今回一緒に行動するのかい?」
「いや、今回はノリスの爺さん達がいるから俺は不要だ。それに実力不足だからな。まあ、お前達が潜っている間に俺は賢聖殿のお手伝いをするさ」
「なら、俺も混ぜろよ。ぜってえ、あの眼鏡は面白そうなこと考えてるだろ」
「ブリジットの手伝いをしなくて良いのか?」
「問題ねえよ。それに……」
お前達と動く事でブリジットを助ける事になるんだよ、と、オルトスは目で俺に語ってくるのだった。
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