旅立ち
研究ノートと魔核
その後、ブルドー男爵の屋敷を詳しく調べた結果、応接間で短距離転移魔法を使った形跡が見つかり、それを使ってネイアとブルドー男爵一家は逃げたのだろうと結論に至った。
その為、現在ロトワール王国は連中を見つける為に大規模な部隊を編成して捜索している。
もちろん、俺達は探索には参加はしていない。
何せ短距離転移魔法を使ったのだから、もう国外に逃げていると判断しているからだ。
それに、ワーグの話しでレスターの使っていた部屋がまだ手付かずで残っていると聞いたのでそちらを調べたかったのもある。
何せレスターが魔核に関して何か書いたメモがあるかもしれないと思ったからだ。
だが、レスターの部屋に行き俺達はすぐに後悔してしまった。
「……これ見つかりますか?」
「まあ、最悪はペンデュラムを使って探すしかないが、まずは手分けして探してみよう」
俺は目の前の、資料や魔石やなんやらが積み重なって足の踏み場がない部屋を見て溜め息を吐く。
どうやら、レスターは整理整頓のできない人物であったようだ。
俺は仕方なく近くのものから調べ始めたのだが、しばらくして手を止めた。
量が多すぎる……。
これじゃあ、いつ終わるかわからないな……。
俺は仕方なくペンデュラムを取り出そうとしたら、近くの積み重なった本が目の前で崩れ、知った人物の書いた本が足元に落ちてきたのだ。
そういえばレスターはノリスの弟子でもあったな……。
なら、レスターを匿っているのはノリスの爺さんなのかもしれないな。
俺はそう思いながらノリスが書いた本を何げなくめくっているとサリエラが声を掛けてきた。
「キリクさん、これですかね?」
サリエラは一冊の古ぼけたノートを俺に渡してきたので、表紙を確認すると魔核についての研究と書いてあった。
「これだな。しかし、よくこのゴミ溜めみたいな所で見つけれたな。何処にあったんだ?」
「精霊が見つけたんですけど、床の一枚が外れる様になっていて、そこにあったんです」
「なるほど、隠す程のものだったという事か」
「これを持っていかなかったという事は余程、急いでいたんでしょうね」
「もしくはわざとかだな」
俺はそう言いながらノートを開くと、そこには魔核に対してレスターが色々と試していた事が書きとめられていた。
レスターのやつなかなか面白い実験をやっていようだが、魔核はほとんど反応は示さなかったようだな。
俺はページをめくって何か目新しい情報がないか確認したが、結局、何も見つけれなかった。
だが、それ以外に俺は気になる部分を見つけていた。
何でこんなにページが破かれているんだ?
もしかして、この破られた部分にレスターが魔核を破棄したがる理由が書いてあったのかもしれないな。
だが、何故破いてから隠した?
そう考えながら周りを見回し、ある考えが頭に浮かんだ俺はペンデュラムを使用する。
すると色々な場所から破られたページが見つかったのだ。
「なるほど、このゴミ溜め自体が意味があったのか……」
「もし、部屋を誰かが片付けられてたら大変なことになってましたね」
「部屋代は誰かが何年分か払ってるらしいから、きっとその間に誰かが来る予定だったのだろう。まあ、その前に俺達が来てしまったがな」
俺はそう言いながら、破かれたページをノートの元の位置に戻していくと、とんでもない事が書かれているのがわかった。
「瀕死の下級魔族に魔核を近づけたら反応を示したか……。やはり、魔核とはそういうものなのか……」
「そういうものってどういう事ですか?」
「研究者の間では、魔王は強力な力を持った魔族を魔神グレモスが自らの力である魔核を分け与えて作り出したものだっていう考えだ」
「それって魔核があれば人造魔王じゃなく本当の魔王をまた作り出せるって事ですよね⁉︎」
「かもしれないが、おそらく簡単には作りだす事は難しいだろう」
なんせ、レスターの実験では魔族を近づけただけで盛大に破裂したと書いてあるのだ。
おそらく魔核に耐えるうる力の魔族か、他に何かしらの道具が必要なのかも知れない。
この情報は魔核を管理するレオスハルト王国とスノール王国に知らせた方が良いだろうな。
俺は持っているノートを見つめ、これからの事を考え思わず溜め息を吐くのだった。
その後、俺達はめぼしいものは見つからないと判断し宿に戻ることにした。
「キリクさん、どうでした?」
宿に戻るとワーグが待っていたので、レスターが書いたノートを見せながら説明したら、真っ青な顔になって近くにあった椅子に座り込んでしまった。
「ワーグ殿、大丈夫ですか?」
「……はい、なんとか。しかし、これは一大事ですよ。もし、これで魔王が復活してしまったらロトワール王国は……」
「まあ、最悪、責任追求はされますね」
「ふう……。ネイアとブルドー男爵の行方は今だにわからないしどうすれば……」
「奴らが短距離転移魔法で飛んだ位置は探れなかったんですか?」
「どうやら、何回かあの後も短距離転移魔法を使用して南側の山の方に飛んだ様なのですが、そこから魔力の痕跡がなくなってまして……。おそらく馬か何かに乗って逃げたのかもしれません」
「なるほど。しかし南側ですか……。もし山を越えられたということなら、南側のサウザンドアイル領に行かれてますね」
「それはまずいですね……。この事は国王に……いや、今は溺愛していたバリー第二王子が亡くなってまともな思考ができないでしょう。クリストフ第一王子に相談してみます」
「その方が良いですね。俺達もレオスハルト王国には今回の件は報告します。まあ、なるべくフォローしますよ」
「あ、ありがとうございます!では、私は急いでクリストフ第一王子の所に行ってきます」
ワーグは深く頭を下げて急いで馬車に乗って行ってしまったのだが、去っていく馬車を見ながらサリエラが声を掛けてきた。
「私達はいつ頃出発します?」
「明日の朝にしよう」
なんせ、今日はしっかりと薬草風呂に入って疲れを取りたいからな。
俺は、そう思いながら温泉に向かう準備をするのだった。
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