事件とかつての仲間


 あれから俺は部屋に戻るとサリエラもどうやら、露天風呂に行っていたらしく濡れた髪を魔法で乾かしていた。


「あっ、キリクさんお帰りなさい」


「……ああ」


 俺は返事をした後、すぐに布団に倒れ込む。

 なんせカーミラの所為で全く疲れが取れなかったからだ。


 薬草風呂で回復どころか精神ダメージを受けてしまった……。

 しかし、魔女の加護を持つカーミラか。

 いったい何者なんだ?

 

 俺がそんな事を考えていると、部屋のドアをノックする音と共に従業員の慌てた声が聞こえてきた。


「キ、キリク様!サリー様!すみませんがいらっしゃいますか⁉︎」


「は、はい、いますよ!」


 サリエラも従業員の様子に気づき慌ててドアを開けると、走って来たのか息を切らせた状態の従業員が立っていた。


「も、申し訳ありません!ワーグ宰相から急ぎの手紙です!」


 そう言うと従業員は持っていた手紙をサリエラに渡しホッとした様子になる。

 そんな従業員の様子に俺もサリエラも何かあったと思い、すぐに手紙を開き読んでみたのだが驚いてしまった。

 なぜなら、バリー第二王子が王都に保管されていた魔核を盗みだし、ネイアのいるブルドー男爵の屋敷に向かったと書いてあったからだ。


「……魔核をどうする気だ?あれは今だに研究が進んでない謎だらけのものだぞ……」


「それにワーグ宰相はどうして私達にこの手紙を送ってきたんですか?」


「俺達を巻き込む気だからだ。考えたな、あの宰相……」


「えっ、どういう事ですか?」


「これに参加すればレオスハルト王国に聖女関連の報告や結果、それにロトワール王国の現状の状況を詳しく書けるだろう。そして今回の件にロトワール王国側は関与してないと俺達を使って訴える事もできるしな。まあ、とりあえずは地図の場所に行こう。きっと説明してくれる者がいるはずだ」


 俺はそう説明しながらも、内心では嫌な予感がしていた。

 何せ魔王の魔核が持ち出されたのだから、碌なことにならないと思ったのだ。

 まあ、結局、それはブルドー男爵の屋敷に向かう事で当たる事になった。


「キリク殿、来て頂いてすみません」


 屋敷に到着するとワーグ本人が俺達を出迎えてくれた。


「いえ、それより現状は?」


「バリー第二王子はブルドー男爵の屋敷近くで亡くなっていました……」


 ワーグの言葉に予感があたり、俺は内心舌打ちしたくなる。

 

「残念ですね……。それで魔核は回収できましたか?」


「いいえ、それが持っていませんでした」


「なら、ネイアとブルドー男爵の目的は魔核だったということか。それで屋敷の方は入りましたか?」


「それが、屋敷は結界が張られていて中に入れない状態になっていまして……。現在、魔術師達に破壊できないか試してもらってるところです」


「そうでしたか。それなら今のうちにどうしてこうなったのか説明してもらってもよろしいですか?」


「はい。まずはバリー第二王子ですが、突然、城で厳重に保管していた魔核を持ち出してしまったのです。それを慌てて騎士団が追いかけたのですが、追いついた時には既に……」


「なるほど。ところで、なぜ魔核がここにあるのですか?」


「それはレスターという学院で働いていた教授が持って来たんですよ。彼は昔、西側の進軍に参加したらしくそこで戦利品としてもらったとか……」


「そういう事だったのですか」


 俺はワーグの言葉を聞き納得する。

 それと同時に魔導師の加護を持った好青年を思いだした。


 なるほど、俺は参加しなかったが魔王討伐後は参加者で戦利品を分け合っていたんだったな。

 それで魔核の所有権はレスターになったということか。


「……しかし、なぜ城で管理を?」


「それが、ある日にレスター教授が魔核はどうにかして破棄した方が良いと深刻そうに言い始めたのですが、それを国王がもったいないと半ば取り上げる形で……。私は何度もレスター教授の言う通りにした方が良いと言ったのですが、おかげで残念な結果になってしまいました」


「それでレスター教授は?」


「それが、魔核を城で管理してからすぐに失踪を……」

 

「キナ臭いですね」


「ただ、レスター教授は生きているはずです。なんせ、支援者にレスター教授とわかるような手紙が来ましたので」


「そうでしたか。それは良かった」


 俺はあの好青年、いや、今は中年だろうが、魔王討伐を一緒にした仲間が生きていることにホッとしていると、俺達の元にバリーに似た容姿の男が歩いて来た。


「ワーグ、彼がそうか?」


「はい、クリストフ第一王子、こちらはレオスハルトの親善大使キリク殿です」


「お初にお目にかかり光栄です、クリストフ第一王子」


「よろしく頼むよキリク。それとエリーシア侯爵令嬢を助けてくれてありがとう。私があの中に入ると余計混乱させてしまうので手が出せなかったんだ」


「確かに、あなたが介入したらバリー第二王子があなたとエリーシア侯爵令嬢の不貞を疑いそうですからね」


「いや、既に疑われてたよ。しかも向こうの派閥も煩くてね」

 

「それは大変でしたね」


「全く、馬鹿のまま頭の良いエリーシア侯爵令嬢の後をついてくれば良かったものを……」


 クリストフはそう言った後にブルドー男爵の屋敷の方を見ながら、寂しそうな表情をするのだった。

 それからしばらくして魔術師が結界を破壊したと報告があり、待機していた騎士団や魔導部隊が突入していった。

 しかし、中には使用人しかおらず、ネイアもブルドー男爵やその家族の姿はなかったのだった。

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