南側への旅立ち


 最近、俺はついていないと思う。

 ロトワール王国を背に俺は馬車の上でそう強く思う。


 面倒な連中に絡まれるし、面倒事に巻き込まれるし、挙句に温泉に入ろうとしたら掃除中で結局、薬草風呂やハーブ風呂などに入れなかったのだ。


 魔王の呪いが運まで落としているのだろうか……。

 だとしたら、運気を上げる魔導具を何処かで探さないといけないな。


 俺はそんな事を切実に考えていると隣りにいたサリエラが声を掛けてきた。


「キリクさん、レオスハルト王国に報告した後はどうするんですか?」


「おそらく、南側の穢れた血縁者の討伐に参加させられるか、魔王信者の可能性があるネイアとブルドー男爵の捜索をさせられるだろうな」


「ああ……。ありえますね」


「最悪、両方やらされるかもしれないぞ……」


 俺が元勇者と知ったレオスハルト王国の国王ならやりかねないだろう。

 そんな事を思いながらレオスハルト王国に戻り、前回と同じ応接室で国王バラハルトに報告すると案の定、両方頼まれてしまった。


「……やれやれだな」


「まあ、キリクにはそれだけ期待しているのだよ。それと話しは変わるが、この手紙を読んでくれ」


 バラハルトはそう言うと一枚の手紙を俺に渡して来たので、受け取ると差出人はグラドラスで、早めに南側の迷宮都市ラビリントスで落ち合いたいと書かれていたのだ。


「……何故、こいつの手紙を?」


「個人的にやり取りをしているんだよ」


「個人的にね……。どうせ碌でもない事をしているんだろう……」


「まあ、そんなところだと言いたいが、南側の情報を送ってもらっているんだ。それでなんだが、キリクは南側の魔王は討伐した方が良いと思うか?」


「……会話ができるなら、対話目的で行くのもありかもな」


 俺がそう答えるとバラハルトは考えこむような仕草をした後、ゆっくりと頷く。


「なるほど。それで対話ができなければ戦うしかないか。まあ、何もしないよりはマシかもしれんがな……」


「後は進軍メンバー次第でもあるな。なんせ未攻略のダンジョンだ。戦闘に参加するなら最低でもダマスカス級はないと駄目だろう」


「一応、南側にある冒険者ギルドの精鋭も参加予定だ。中にはオリハルコン級の実力がある者もいるそうだぞ」


「それは戦力になるな」


「私としてはキリクにも参加してもらった方が戦力になると思うんだがどうだ?」


「俺は戦力にすらならないぞ」


「知識もまた戦力の一つだ。それにまた旧ロゼリア文明のものが使われるとも限らないだろう?」


「ノリスの爺さんと助手達が今、必死に覚えてるから大丈夫だろう」


「ふむ、まあ、急いで答える必要はないからゆっくり考えてくれ」


「ゆっくりね……」


「安心しろ。先程頼んだやつみたいに強制はしない」


「ふん、自覚はあるんだな……」


「ああ、罪悪感でいっぱいだよ」


 そう言いながらもバラハルトは不敵な笑みを浮かべる為、俺は盛大に溜め息を吐くのだった。



◇◇◇◇



 あれから、なんとか悪知恵の働く国王から逃げる事ができた俺はサリエラと合流しに冒険者ギルドへ向かった。


「キリクさん」


 中に入るとギルド長のブロックと何やら真剣に話し合っていたサリエラが俺に気づき手を振ってきた。


「なんだ、ギルド長にまた仕事を頼まれたのか?」


「いえ……」


 サリエラは何故か顔を顰めてそう答えた後に黙ってしまう為、ブロックを見ると小声で言ってきた。


「ダッツとバナールの件を話していた。南側の穢れた血縁者を監視している冒険者から情報があったんだが、小さい街で顔を隠した二人組を見たらしい」


「……あいつらダークエルフに捕まったはずだが逃げれたのか?


「いや、それがどうも穢れた血縁者と行動していたらしくてな。しかもバナールがサリエラの名前を常にぶつぶつ呟いていたらしい」


「……なるほど」


 俺はサリエラの方を見ると、顔を顰めて必死に自分の腕をさすっていた。


「まあ、そういう事だからキリクも気をつけてくれ。奴らが敵に回ったなら君も狙われているはずだからな」


「ああ、わかった」


 俺がそう答えるとブロックは言うことは言ったのか忙しそうに去っていった。

 そんな後ろ姿を見ながら、また、厄介な事が増えたなとげんなりしていると、サリエラが俺の服の裾を掴んできた。


「キリクさん、南側に行ったら絶対に私から離れないで下さいよ」


 サリエラはそう言って心配そうに見つめてくるが、俺はサリエラの方が心配であった。

 何故なら、敵になったバナールはもう歯止めが効かなくなり、どんな手を使ってもサリエラを手に入れようとするかもしれないからだ。

 それは絶対阻止しないといけない。

 だからこそ、サリエラの申し出は好都合である。


「……そうだな、ダマスカス級冒険者様の側にいさせてもらうよ」


 俺がそう答えるとサリエラはパーッと表情が明るくなり、俺の腕に抱きついてきたのだが、近くにいた冒険者達に血の涙を流されながら睨まれてしまった。

 その為、慌てて俺はサリエラを連れ、冒険者ギルドを飛び出す。


「ふう、あいつらもそのうち歯止めが効がなくなりそうだな……」


「ふふふ、大丈夫ですよ。あの人達とあの変なエルフは違いますから」


「だと良いがな……」


「それよりもさっきの南側ではずっと側にいるって言葉を絶対に忘れないで下さい。約束・で・す・よ」


 サリエラはそう言うと俺に顔を近づけながら圧をかけてきたのだが、その圧に俺は一瞬のまれそうになる。


 くっ、どんどん力が上がってるな……。

 これならいつかオリハルコン級にもなるんじゃないか?


 俺はそう思いながらもサリエラを見ると、答えろとまた圧を強めてきたので慌てて頷く。

 

「……わ、わかった」


 正直、強制的に言わされてるような気がするが、元々、そのつもりだったので決して圧に負けたわけじゃないと自分に言い聞かせる。

 そんな事を思っているとサリエラが微笑みながら言ってきた。


「キリクさん、これからもよろしくお願いしますね」


「ああ、よろしく頼む」


 俺はそう答えるとサリエラの眩しい笑顔を見つめるのだった。

 


四章完

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