58
俺はリズペットに顔を向ける。
「この都市には魔族や魔物避けの結界が張ってあるんじゃないのか?」
「そのはずですが……どうして魔族がこの都市に……」
リズペットが驚いていると魔族の男は手に纏っていた炎を消しミナスティリアを見る。
「どうやら計画通りに来てくれたようだな」
「計画通り?」
ブリジットが武器を構えながら魔族の男に聞き返す。だが、魔族の男は答えるつもりはないようで笑みをただ浮かべるだけだった。
その様子にブリジットは舌打ちをしていると、魔族の男の後ろから突然腰まで伸びた黒髪に赤い目をした女が現れたのだ。
俺達はすぐに警戒する。女から異様な気配を感じたからだ。だが女は俺達なんか気にしていない様子で魔族の男に話しかける。
「ヤシャール、ご苦労様ぁ」
「カーミラ。言われた通り仕事はしたぞ」
「ふふ。じゃあ私はちょっと彼と話さないといけないからしばらく黙っててねぇ」
カーミラと呼ばれた女は妖艶な笑みを浮かべこちらを見つめる。すると何か気づいたらしいファルネリアがハッとした顔を浮かべカーミラを指差した。
「カーミラって……黒き魔女?」
ファルネリアの言葉に皆驚いた顔をする。それはそうだろう。この大陸で一人しかいない魔女の加護を持つ女だから。
ただし、犯罪者だが。
昔、何処かの王族を魔法で誑かして国家転覆させた……だったか。確かに容姿は似ているな。
手配書を思い出しながらカーミラを見ていると視線に気づいたらしい。カーミラは俺にウィンクをしてくる。
「スノール王国の地下水路以来よねぇ」
そして、そう言ってきたのだ。俺はすぐに聞き返す。
「地下水路? お前と会うのは初めてだが……」
「酷い男ねえ、こんな良い女を忘れるなんて」
そう言いながらカーミラは手元からあるものを出してくきたので俺は驚いてしまう。
「デモン・セル……。まさか、お前タクロムに化けていたのか?」
「正解よぉ。でも、すぐわからなかったら及第点しかあげれないわねぇ」
「それで十分だ。で、ザンダーも一緒だろう。何処にいる?」
「……酷いわねぇ。こんな良い女が目の前にいるのに。焦らないでもっと私とゆっくりと話さない?」
「断わる」
「へえ、私の姿を見てここまで反応ない人は初めてねぇ。自信なくなっちゃうわぁ」
カーミラは舌舐めずりしながら俺を見る。すぐ様サリエラが俺の前に立ちカーミラを睨んだ。
「キリクさんは私の後ろにいて下さい。あの人からとても危険なものを感じます。それに私達はどうやらこの都市の結界とは別の結界の中に入ってしまってるようです」
そう言われ、俺もやっと気づく。周りの空間が微妙に歪んでいることに。
「多重結界か……。ヤシャールという魔族かカーミラのどちらかが結界師の加護を持ってるということか」
「おそらく……。だから慎重に行動した方が良いと思います」
サリエラはそう言うとミナスティリアを見る。するとミナスティリアがサリエラに近づき小声で指示を出してきた。
「私達がカーミラを相手にするから、あなたはあの魔族を相手にしてもらって良いかしら。強さは……おそらくアダマンタイト級はあるわよ」
「はい、任せて下さい」
サリエラが力強く頷くとリズペットが側に来て短杖を構えた。
「サリエラさん、私も戦います」
「ありがとうございます」
サリエラとリズペットはヤシャールに向かって武器を構える。すると、カーミラが面倒臭そうに溜め息を吐いた。
「全く、邪魔よねぇ。先にあなたも達にご退場願おうかしら」
そう言って両手を広げようとしたが、すぐに手を下ろす。いつの間にいたのかカーミラの側にミナスティリアが立っていたからだ。
「本当、勇者って嫌いよ……」
カーミラは顔を顰めるとミナスティリアはレバンテインを構える。
「嫌いで結構。さあ、あなたが退場する時間よ」
ミナスティリアはそう言ってカーミラに斬りかかる。しかしミナスティリアの振るったレバンテインはカーミラの目の前で止まってしまう。
「なっ! 結界⁉︎」
「駄目よぉ、人が何かしてる時は待ってなきゃあ。さあ、本当は詠唱なんてしなくても出来るけど、あなた達にこれから何をするか教えてあげる」
カーミラはそう言うと笑みを浮かべ詠唱しだした。
「第七神層領域より我に時の力を与えたまえ……テレポート」
カーミラが詠唱を終えたと同時にミナスティリアだけではなく白鷲の翼全員の足元に魔法陣が現れた。
「まずい転移魔法よ! 魔法陣から出て‼︎」
ファルネリアがすぐに反応して魔法陣から出ようとする。だが横に飛んだ瞬間見えない壁にぶつかって倒れてしまったのだ。
「痛っ、これって結界⁉︎」
「ファルネリアさん、こっちも結界が張ってあって魔法陣から出れません!」
「計画通りってまさかこの場所に罠をしかけてたのかよ! どうするよ⁉︎」
「くっ、宝具で斬れないなんて……」
「無理よぉ、一カ月近くたっぷりと時間をかけて作った結界だものぉ。じゃあ、勇者パーティーの皆さーん、さようならぁ」
カーミラは投げキスをすると白鷲の翼は何処かへと転移してしまう。直後、辺りは静寂に包まれてしまった。
もちろん俺も驚きすぎて立ち尽くしす。
全く反応できなかった……
俺はカーミラの方を向く。カーミラが楽し気にこちらに歩いてきたからだ。すぐに武器を構えようとしたが、その前にサリエラがカーミラに向かっていく。
「私がやらなきゃっ! 第三神層領域より我に風の力を与えたまえ……エンチャント・ウィンド!」
サリエラの剣に風の魔法が巻きつき斬撃の威力を高める。それを見たカーミラは口角を上げた。
「うふふ、私の結界は宝具でも斬れないのよぉ。やめときなさいよぉ」
「うるさい!」
サリエラは叫んで斬りかかる。しかし、カーミラの言う通りサリエラの剣は当たる直前で止まってしまう。
「だからぁ、効かないのよぉ」
カーミラは鬱陶しいという表情で手を払うような仕草をする。サリエラは勢いよく吹き飛ばされてしまった。
「サリエラ!」
俺がそう叫ぶとカーミラがサリエラを隠すように俺の前に立ち目を細める。
「駄目よキリク。私を見なきゃ全員殺すわ。あなたなら私の実力はもうわかるでしょう?」
カーミラはそう言うと実力差がわかるように威圧してくる。オリハルコン級はあることがわかってしまう。
俺はカーミラを睨んだ。
「何が目的だ?」
「あなたを亡霊の所に送ることよぉ」
「亡霊……」
そう呟くとカーミラは笑みを浮かべる。
「そう、過去に囚われた亡霊。あなたもそうでしょう」
「……何が言いたい?」
「わかるでしょう。あなたもあの男も過去に囚われてる。だから常に探してるのでしょう」
俺は思わずカーミラを睨む。しかし、カーミラは気にする様子もなく俺の間近まで来ると腕を首に回してくる。そして小声で囁いてきたのだ。
「まだ死んじゃダメよ。ア・レ・ス」
「……お前」
俺はカーミラを見る。カーミラは笑みを浮かべながらゆっくりと俺から離れる。そして手を振った。
「さあ行きなさい」
すると俺の足元から魔法陣が現れる。そしてあっという間に俺は何処かへと転移されてしまったのだ。
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