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 ただし、すぐに大きく息を吐くと真実の玉を取り出し質問したのだ。


「なぜ許可なく武器を造り、挙句に紛失した際に報告をしなかったんだ?」

「えっ……」


 鍛治師の親方と弟子は再び顔を見合わせる。信じられないという表情を浮かべ。ただし、状況を思い出し親方が慌ててこちらを向き尋ねてきたのだ。ワーロイの剣を指差しながら。


「あの、国王陛下はこの武器を作る許可はされていなかったということでしょうか?」

「それに紛失した際の報告も受けていないぞ」

「そんな……。じゃあ、私達は騙されたのか……」

「誰にだ?」

「ボナル外交官です」

「ボナルだと? それは本当か?」

「はい。間違いありません」

「……キリク」

「あったぞ」


 俺はボナル外交官が出した発注書を束の中から取り出す。すぐブレドに覗き込み首を横に振った。


「やはり私のサインじゃないな。なぜこんなミスを……」

「おおかたボナルが持ってきた大量の魔宝石に浮かれて発注書をしっかり調べなかったのだろう」


 すると図星だったらしく真実の玉は肯定の色を示す。そして親方は肩を震わせ深く頭を下げてきたのだ。


「申し訳ありません。全ての私のミスです。どうか弟子達だけは……」


 ブレドは険しい表情を浮かべしばらく親方を睨む。だが、大きく息を吐くと彼の肩に手を置き言ったのだ。


「お前達は騙されただけだ。真実の玉が証明したから心配しなくていい」

「国王陛下……しかし」

「これは私のミスでもある。だから誰も責められん。さあ、今日のことは忘れて蜂蜜酒でも飲んでこい」

「はい……」


 親方と弟子達は申し訳なさそうな安堵するような表情で去っていく。

 その後ろ姿を見送った後ブレドは視線だけ向けてきた。


「ボナルは父上の時代、真面目に従事してくれていた外交官だ」

「俺も何回か会話したことがある。立派な人格者だった」

「じゃあ、なぜこんなことを……」

「確かめに行けばわかるさ。今何処にいる?」

「おそらく王都内のタウンハウスに戻っているはずだ」

「このまま二人で行くか?」

「いや、国の問題に発展したから精鋭も連れていく」

「わかった」


 俺は素直に頷く。何せ後はボナルとギネルバ商会、そして魔族との繋がりをタウンハウスにいる連中から聞き出す簡単な仕事だからだ。

 まあ、ただし真実の玉を使える相手がいればの話だったのだが。門兵も警護兵もいないタウンハウスを見て溜め息を吐いていると情報収集をしていたブレドと部下が戻ってきた。


「昨日辺りからこの状況らしい」

「一気に怪しくなったな」

「くそっ、また魔族はこの国を汚す気か!」


 ブレドがタウンハウスを睨むと側にいた青いフードを着た猫耳族の獣人、魔導師の加護を持つ宰相フォウが溜め息を吐く。


「刈っても刈ってもこの国には悪い虫が現れますねえ。もう強引ですがあの案で一掃したらどうでしょうかあ?」

「今回の件が終わったらすぐにやるさ。二度とこの国は腐敗させないと誓ったからな」


 俺を一瞥しながらブレドが答えると重鎧を着た大男、重騎士の加護を持つ騎士団長ベアードが軽く頭を下げてきた。


「助かったぞキリク。これでスノール王国の腐敗が少し片付きそうだ」

「気にしないでくれ。俺の事情もある」

「ギネルバ商会にはめられたのだったな」

「そこを白銀の騎士に救われた感じだ」


 肩をすくめるとベアードは苦笑した。


「なるほど。大将に話を合わせてやれる貴重な存在だったか。だが、恥ずかしい台詞を聞かされたりして精神的にはきつくないか?」

「仕方ないさ。誰だって現実逃避したい時があるからな」

「それは一番上に立つ者でもか?」

「……もちろんだ」


 俺は真っ直ぐにベアードを見つめる。ベアードは一瞬驚くが咳払いするとブレドに顔を向けた。


「良かったな大将。友人になってくれそうな人物が現れてよ」


 するとブレドはバツが悪そうな表情をする。


「……私にはその資格はないさ」


 そしてそう呟くと急にタウンハウスへと一人で走りだしてまったのだ。もちろん俺もすぐに後を追ってタウンハウスに突入した。ブレドはどうかわからないが微かに感じたからだ。この先に異様な気配を。

 まあ、結果は腕が落ちたらしいのかその読みは外れたみたいだが。


「もしくは短距離転移魔法をされたか……」


 全ての部屋を見終わった後そう呟くとフォウが首を横に振ってきた。


「王都周辺は魔導具での短距離転移魔法はできないようにしてますよお」

「だが、この状況で誰もいないのは不自然だろう」


 湯気が立つ飲み物や火がついたばかりの蝋燭を指差すとフォウも納得した表情を浮かべる。ただ、突然手を打つと側にある戸棚を指差したのだ。


「きっと隠し部屋ですよお。そこの戸棚辺りが怪しいですね」

「なら俺が調べよう」


 ベアードがすぐ側にあった戸棚を動かす。そして振り返ってきた。


「地下へ続く階段があった。しかしこんなものをよく作ったな」

「あら、ベアードのところにはないんですかあ? うちにはこういう隠し扉から行ける部屋がいくつもあるんですよお」

「なんでそんなの作ってんだ?」

「安全に魔導具や魔法書を保管するためですよお」

「なるほど。そうなるとボナル達だけじゃなく怪しいものもありそうだな。どうするよ大将?」

「言わずともわかるだろう」

「だな」


 ブレドとベアードは頷き合うと剣を抜き階段を降りていく。地下室にボナルがいるだろうと確信した表情で。

 ちなみに俺はというといないと判断していた。何せ階段の先には気配が感じなかったからだ。誰一人も。


 ただしタウンハウスの至るところにあった隠し階段は使っただろうがな。


 階段を降りきった後に視線を向けるとブレドは顔を顰めた。


「何も言うなよ……」

「だがこの迷路のような地下水路。探すのは厄介だぞ」

「それなら心配ない。ちょうど魔力残滓を探せる魔導具を持ってきている」

「なるほど、ボナル外交官達の魔力を追うのか」

「ああ、きっとまだ遠くには行ってないはずだからな」


 ブレドはそう言うと片眼鏡を取り出し魔力を込めた。


「なるほど。こっちに沢山の魔力残滓が漂っているな」

「逆はどうだ?」

「キリク、お前も気づいていたか。魔力残滓はない」

「わかった。そちらは俺が引き受けよう」

「厄介な相手だぞ。いいのか?」

「ああ」

「では頼むぞ」


 ブレドはそう言うとベアードやフォウ達を連れて通路の奥に行ってしまった。ちなみに俺は気配を消し既に走り出していた。

 まあ、しばらくして走るのをやめてしまったが。何せ引き返してきたからだ。あろうことかタウンハウスに入る前に感じた異様な気配が。しかも速い速度で。


 見つからないと思って俺達の様子を確認しにきたか?


 そう考えていたら異様な気配の持ち主、商人風の男が現れ俺に気づくと拍手してきたのだ。


「ほほほ、魔力残滓を残さないよう来たのにこちらに来るなんて感がいいですね」

「気配が漏れていたからな。しかも異様過ぎる気配が」

「いやですねえ。私はただの商人ですよ」

「ふん、魔力残滓を残さず移動できるなんてただの商人じゃないだろう。ギネルバ商会のタクロム」

「ほほほ、キリクさんってシルバー級の加護無し冒険者ですよね。ずいぶんと頭が回るようで」

「お前ほど狡賢くないがな」

「もしかして手配書のことですか? 良い案だったでしょう」

「だが、失敗した」

「ワーロイさん達がですよ」

「人選をしたのはお前だろう? 過ちを認められないのは良い商人とは言えないぞ」

「ほほほ、これは手厳しい」


 タクロムは笑みを浮かべ降参の仕草をする。もちろん本気でないことがわかるので俺は威圧をかけ剣先を向けた。


「目的はなんだ?」

「教えてあげたいですが表側はピエールさんの役割ですからねえ」

「つまりはお前は裏方でほとんど知らないと?」

「ええ、私はこの国に来たのは知人に会いに来ただけですから」

「なるほど。今回の件が失敗したから次ということか」

「ほほほ、何度も言いますが知人に会いに来ただけですよ」

「……なら、その知人のところまで案内してもらおうか」

「もちろん拒否します」


 タクロムはそう言うとポケットから魔術紋様が描かれ宝石が埋め込まれた銀色の筒を出してきた。俺は思わず後ろに下がりタクロムを睨んだ。


「デモン・セル、なぜそれを?」


 するとタクロムは驚いた表情を向けてきたのだ。

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