35
「まさか、キリク……勇者に好かれてるのか⁉︎ それはある意味、お前も勇者だぞ」
ザンダーの言葉に俺は頭を振る。
「冗談はよせ。あれは明らかに疑っている目だろう」
「浮気してる旦那を疑う嫁の目か?」
「……副ギルド長」
「ザンダーでいい。まあ許せよ。俺みたいなまともに戦えなくなった奴はこういう馬鹿なことでもしてないとおかしくなっちまうからな」
その言葉を聞き俺はザンダーを見る。そしてすぐに理解してしまう。こいつは根っからの冒険者で、それ以外は興味がないのだと。
だからつい尋ねてしまったのだ。
「……前線が忘れられないか?」
「ああ、あの血湧き肉躍るあの戦い忘れられねえよ。俺は根っからの戦闘狂だったからな……」
「戻りたいのか?」
「今は欠損を治せる聖女がいない世の中だぜ。その望みは無理だろう」
「だが、腕はもう一本あるだろう」
するとザンダーは驚いた顔を向けてくる。それから真顔で尋ねてきたのだ。
「なあ、それは前線に立てなくてもか?」
「ああ。後ろの方でもできる事を探すさ。まあ、戦えない状態であればギルド職員になるのも悪くないかもしれないな」
「……そうか。じゃあ、俺の選択もあながち間違っちゃいねえか」
ザンダーはそう言いながらも納得していない様子だった。だが、もう俺からは何も言わなかった。いや言えなかったが正しいだろう。
前線に立てなくなった者は自分で道を探さなきゃいけないからだ。それがどんなに辛かろうと。
俺は過去の事を思い出しながら歩く。すると、出口付近でザンダーが声をかけてきたのだ。
「なあ、もしもある事をしたら、再びあの頃みたいに戦えるようになるとわかったらお前はそれをするか?」
「そんなの、ものによりけりだな」
「他人を不幸にする事……なら、どうだ?」
「そこまでして俺は戻りたいとは思わない」
即答するとザンダーは苦笑する。
「……そうか。変な質問して悪かったな。それじゃあ、俺は戻ってあいつらの相手をしてくるぜ」
そして笑みを見せ冒険者ギルドの方に戻っていったのだ。その背にやり場のない怒りを抱えながら。
だから思わず口にしてしまったのだ。
「耐えろよ……」
ザンダーは一瞬、震えたが何も言わずに去っていった。きっと、これからも葛藤するのだろう。
「あいつらと同じように」
そう呟くと俺は志半ばで去っていった冒険者達を思い出しながら冒険者ギルドに背を向けるのだった。
◇
「やっと着いたな」
俺は溜め息混じりに目の前の店を見る。あれからファレス商会が商う店に向かったのだが、意外と探すのに苦労してしまったのだ。何せフォレス商会だのファラス商会だの似たような名前や紋章が多かったからだ。アレスに近い名前をきっと使いたかったのだろう。ナディアのように。
「やれやれ」
呆れながらナディアにもらった指輪と同じ紋章が描かれた看板を見ていると店の従業員が駆け寄ってきて挨拶してきた。
「ファレス商会へようこそ。お客様はこちらは初めてのようですが何かお探しですか?」
「すまないが客じゃないんだ」
俺は指輪を見せると従業員は理解したらしく手を打つ。そしてすぐ奥にいたナディアを呼んでくれたのだ。
「お嬢さん、例の方が来ました」
ナディアはすぐに頷くと駆け寄ってきた。
「キリクさん無事だったのね。いきなりあなたの顔が載った手配書が出たから驚いたわよ」
「あれには俺も驚いた。まあ、もう解決したがな」
「ギネルバ商会がしたことだったんでしょう? こっちにも色々と情報が来てるわよ」
「すまないがその情報を教えてくれないか?」
「もちろん。まずは冒険者達によってあらかたギネルバ商会の関係者は捕まったみたい。ただ、今だに中心人物のタクロムや一緒に行動していたワーロイやケイっていう元冒険者は捕まってないらしいけど」
「そうなるとこちらの問題は何も解決していないことになるな」
そう言いながら俺が今まであったことを話すとナディアは驚いた表情を向けてきた。
「まさか、そんな事があったなんて……。でも、勇者パーティーに守られてるならマルーさんも安心じゃない」
「そうだな。ある意味、この大陸で最強の要塞の中にいる様なものだしな」
「それに末代まで語り継げるわよ。まあ、守られるのが私だったら断然アレス様の方が良いけど。そうしたら守る側と守られる側の間に……」
ナディアは途中から虚空を見ながらうっとりしだす。
だからむず痒くなり俺は話題を変えることにしたのだ。
「……それよりも俺が渡した手紙だが、まだサリエラも白銀の騎士も来てないよな?」
「えっ、ええ」
「じゃあ、手紙は破棄をしておいてくれ。それと二人が来たら冒険者ギルドか近くの宿にいると伝えておいてくれないか?」
「わかったわ。ちなみにキリクさんはこれからどうするの?」
「買い出しや調べものだな」
「なら、うちのものも見ていってよ。助けられたお礼の件もあるし格安で売るわよ」
「それはありがたい。だがまずはこれを見てもらえないか? ギネルバ商会の連中が落としたやつなんだが」
俺はワーロイ達が落としていった武器を取り出すとナディアは途端に難しい表情をしだす。そして一振りの剣を持つと刃先の根元にある擦られた部分をなぞり言ってきたのだ。
「これってばれないように作成者のとこが削ってあるけど私が知ってる鍛治師が作ったものに間違いないと思う」
「鑑定して調べられるか?」
「ええ、待ってて」
ナディアはすぐに鑑定できる魔導具を持ってくる。そして調べた後に頷いてきた。
「やっぱり知り合いの王国専用鍛治師が作製したものに間違いないわ。でも、なんで外に出ないものが……まさかスノール王国がギネルバ商会と通じてるってこと?」
「ありえなくもないな」
俺は腕を組みながら考えていると店内に白銀の騎士の格好をしたブレドが入ってくる。そして俺達の前で変なポーズをしてきたのだ。
「ふっ、待たせたな若者達よ。私が全ての冒険者が憧れる白銀の騎士である」
もちろん俺は無言でブレドの肩を掴み近くにあったソファーへ雑に投げた。
「は……えっ、な、何をするんだ⁉︎」
「何をするかはお前の答え次第だ。ナディア、どこか尋問できる場所を貸してくれ」
「わ、わかったけれども大丈夫なの? この人って……」
「問題ない。俺はシルバー級冒険者だからな」
そう答えるとナディアは呆れた表情を向けてきた。
「それ絶対に説得力のない台詞よ。他のを考えた方が良いわね」
そして溜め息を吐くと俺達を応接室へと案内してくれたのだ。
◇
応接室に案内された俺はすぐにブレドを尋問した。もちろんナディアには応接室の外で待ってもらっている。
「確かにこの武器はうちの鍛治師が作ったものに間違いない。だが、私は何も知らんぞ!」
「ふむ。真実の玉もペンデュラムでも嘘はついてないとでてるな」
「当たり前だ! 私がそんな事をする男だと思っていたのか⁉︎」
「念の為だ。お前が気づいてなくても最悪、何者かに操られてる可能性だってある。何せ東側の魔王が絡んでるだろうからな」
「な、なるほど。確かに狡猾の魔王バーランドならやりかねないな。しかし、これで私の疑いは晴れたわけだな」
「お前はな。だが、城内の者達は操られてる可能性があるかもしれない」
「確かにこの量の武器が造られたなら私や家臣達の耳にも必ず届くはずだ」
「それならこの武器を造った鍛治師を問いただすのが一番だな。そこから大元を辿ればいい」
「仲間がいるということか……」
「魔力を込めた宝石をあれだけ沢山揃えるのは鍛治師だけじゃ無理だからな」
「クソッ、減らしても減らしても奴らは! こうなったらこの件が終わりしだい徹底的に腐った連中を炙り出してやる!」
「なら、尻尾を切られないうちに行くぞ」
「ああ」
それから俺達は、ナディアと別れ王都の中心の丘の上にある城に向かったのだ。ちなみにこの白亜の城はネイダール大陸にある城の中でも五本の指に入るほど美しい城として有名である。
そんな美しい城の正面から今の俺達は入れるわけはなく、王族専用の秘密通路を使い城内に入っていく。
そしてブレドは国王の格好に戻り、俺は適当に宮廷魔術師の服を借りて鍛冶場に向かったのだ。
「ブレド、鍛冶場には何人の鍛治師がいるんだ?」
「弟子を含め五人だな」
「なら、全員集めてくれ。それと発注書や納品書があれば見せてほしい」
「わかった」
ブレドは頷くと早速、衛兵に指示を出す。そして鍛治師と弟子達を一室に集めるとすぐに質問を投げたのだ。
「お前達に質問がある。だがその前に思い当たる節がある者がいたなら前に出て喋れ」
しかし彼らは何も思い当たらないのかお互い顔を見合わせて首を傾げるだけだった。
だから今度はワーロイ達が使っていた剣を鍛治師達の前に置いたのだ。
「あっ……」
鍛治師の声と共に全員の顔が真っ青になっていく。明らかに何かを知っている表情だった。ブレドはそんな連中の姿を見て肩を落とす。
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