32


 無事にネドを出た俺達はそのまま森の中に入っていった。


「後はこのまま森の中を進んで行けば王都スノールね。助かったわキリク」

「感謝するならマルーに言うといい。黒魔法がなかったらここまで楽に出ることはできなかったのだからな」


 俺がそう言うとマルーは首を横に振ってくる。


「違うよ。だってぼくの魔法ではせいぜい相手は怯む程度のはずなんだよ。なのにキリクが攻撃した人達はあんなに悲鳴をあげて……。ねえ、どうしてあんな風になったの?」

「それは精神系の付与魔法は使った相手の強さに影響されるからだ」

「じゃあ戦い慣れてるシャルルでもあれくらいはできるってこと?」

「ああ」


 俺が頷くとマルーが嬉しそうに飛び跳ねる。


「やった! シャルル、ぼく役に立てるよ」

「何言ってるの。マルーはいつだって役に立ってるわよ。私の癒しとしてね」

「もう、そういうのじゃないよ!」

「ふふ」


 シャルルは叩いてくるマルーを抱きしめる。それから顔を向けてきた。


「それしてもキリクって何でも知ってるのね」

「……長く冒険者をしているからな」

「冒険者かあ。私も知り合いに頼んで冒険者として活動できるか相談してみようかな。どうせ自分達の町に戻っても死霊術師が来るかもしれないし」

「良い考えだと思うぞ。ただ……敵は死霊術師だけとは限らないがな」


 茂みの方に顔を向けるとすぐに武装した集団が現れる。きっと先読みして待ち構えていたのだろう。


 もしくは街中ではおおっぴらにできないことをしようとしているか……


 殺す気満々という雰囲気に顔を顰めていると武装した集団からゆっくりと二人が前に出てくる。そして俺を睨んできたのだ。まあ、俺は溜め息を吐いてしまったが。知った連中だったから。


「ワーロイにケイか……」

「おい嘘つき野郎。魔族の仲間にまで堕ちるとはなあ。まあ、俺はお前がそういうクズ野郎だって最初からわかってたけどなあ!」

「そうよ嘘吐きキリク! あんたにはしっかり正義の鉄槌を喰らわしてやるわ!」

「やれやれ」


 再び溜め息を吐いていると隣りでシャルルが苦笑する。


「なんか凄い恨まれてるみたいね。知り合い?」

「元パーティーメンバーであり問題児ってところだな」

「なるほど。要はまた問題を起こしてるってことね。じゃあ、私が相手しようか?」

「いや、シャルルはマルーを守っていてくれ」


 武器を抜き前に出るとすぐにワーロイは武装した集団に顔を向ける。


「魔族以外は殺せ。ああ、できれば先にあの加護無し野郎を殺せ。いや、やっぱり生きて捕らえろ。止めは俺が刺したいからなあ」

「もうワーロイ! 俺達でしょう!」

「そうだった。悪い悪い!」

「ぎゃはははははっ!」


 二人は馬鹿笑いする。だが武装した集団は淡々と魔石を取り出し各々の武器に当てると俺に向かってきたのだ。

 その光景に思わず首を傾げそうになった。全員魔導具持ちで殺しに手慣れた連中なのにワーロイ達みたいなのをなぜ雇ったのだろうと。

 しかしすぐ理解する。単に実力がワーロイ達より低かったからだ。

 だから、向かってくる相手をさっさと斬り伏せる。そしてワーロイに剣先を向けたのだ。ただし、ワーロイは俺を無視し倒した連中に石を投げだしたが。しかも何度も。


「お前の仲間だろう。その行動はあまり感心しないな」


 思わずそう言ってしまうとワーロイはやっとこちらを向く。


「うるせえな。こいつらは俺様の道具だからなにしたっていいんだよ」


 そして今度は俺の足元に石を投げてきたのだ。まあ、その石をすぐにワーロイの方に蹴り返したが。


「お前も雇い主にとっては道具みたいなものだろう」


 そう言って。


「……てめえ」


 ワーロイが睨んでくる。だが、すぐに笑みを浮かべ言ってきた。


「余興は終わりだ。ケイ、俺達の力を見せてやろうぜ」

「良いわよワーロイ。きっとあいつビッグラッドのように逃げ惑うわよ。フハハハハ」

「ちげえねえ。ぎゃはははは」


 二人はこちらの様子を気にすることもなく笑いだす。普段なら呆れてしまう光景だったが俺は警戒してしまった。少しだが闇の気配を感じたから。シャルルも気づいたらしく視線を向けてくる。


「ねえ、闇の力を感じるんだけれど?」

「雇い主が魔族と関わっている可能性が出てきたな」

「関わっている? 魔族と直接じゃなくて?」

「そんな度胸もやりとりする知識もあいつらにない。まあ、騙されているなら別だが」


 二人に視線を向けるとこちらの様子に気づいたワーロイとケイがそれぞれの武器を向けてくる。


「おい、ぐだぐだ何言ってる? もしかしてびびって逃げる相談でもしてんのか? だがなあ、今さら遅えよ!」

「そうよ嘘吐き! あんたに人生めちゃめちゃにされた分しっかり返させてもらうから覚悟しなさいよ!」


 二人は黒いもやの様なものを体から出す。思わず顔を顰めてしまった。既に二人が闇堕ちしかけていたから。

 だから二人に向かって走りだしたのだ。こいつらが完全な闇人になったら厄介だと思ったから。

 いや、面倒なだけだったと心の中で訂正し剣を抜く。するとケイが慌てて杖を向けてきたのだ。


「隙をついて攻撃なんてやっぱり卑怯者ね! 加護無し! 第三神層領域より我に炎の力を与えたまえ……ファイア・アロー!」


 炎の矢が俺に向かって飛んでくる。その威力は以前のものと比べものにならなかった。だが、それでも避けるのは雑作もなかったが。

 俺は軽く横に飛ぶと投げナイフを投げる。ケイは慌てて避けると倒れた状態で怒鳴ってきた。


「危ないじゃない! 当たったらどうすんのよ!」

「何を言ってるんだ……。当てるために投げたんだろうが」


 するとケイは素早く立ち上がり睨んできた。


「うるさいうるさい! ドレスを汚しやがって謝れ!」

「そうだキリク! ケイに謝れよ!」

「断る」

「貴様ぁ!」


 ワーロイが黒いもやを出しながら斬りかかってくる。正直、不快な気分になってしまう。心がざわつくからだ。きっと魔王から受けた呪いが反応しているのだろう。

 だからさっさと終わらせるために力のアミュレットに手を伸ばしたのだ。ただすぐに手を下ろしワーロイから距離を取ったが。

 知った気配がこちらに近づいてきたから。しかも場合によっては厄介な存在になる連中が。


「お、あれはマリィとルナじゃねえか」

「あら本当ね」


 ワーロイとケイも気づいたらしい。武器を下ろし向かってくる二人に笑みを浮かべる。そして手を振り出したのだ。まるで仲間を迎えいれるように。だからなのかシャルルが不安気な表情を向けてくる。


「あの二人組、あいつらの仲間なの?」


 俺は肩をすくめた。


「縁を切ったと聞いたが……」

「もしかしたら手配書を見てまた組んだ可能性があるんじゃない? 冒険者として私達を捕まえるために……」

「そうなると厄介だ。二人はワーロイやケイと違い実力があるからな」

「そうなの?」

「ああ、商人のマリィはトリッキーな攻撃、修道士のルナはサポート系の魔法を使う」

「じゃあ、私も戦った方が良いわね。マルー、あなたも準備をしなさい」

「えっ⁉︎ ど、どうしたら?」

「当てようと考えなくて良いから適当に魔法をぶっ放しなさい。私がフォローするから」

「わ、わかったよ。ぼく頑張る!」


 両手を握りしめそう言ってくるマルーに俺は目を細める。


「とりあえず様子を見よう。もし、ワーロイ達の味方をするならマリィとルナを頼む」

「わかったわ」


 シャルルは頷きマリィ達の方に武器を構える。俺はシャルルの背中を守るように立った。そんな俺達に気づく様子もなくワーロイとケイは上機嫌で会話を始める。


「おいおい、あいつらこんな遠いとこまで俺を追いかけてきやがって。もてる男は辛いな」

「はっ! どうせ居場所がなくなって私達のところに逃げて来たんでしょ。本当にむかつくわ!」

「安心しろ、ケイ。俺はお前しか見てないぜ。まあ、あいつらがどうしてもって言うなら……あっ?」


 ワーロイ達が喋ってる途中、銀色の丸いボールが飛んできて二人の足元に落ちる。そして、シュッという音と共に中から銀色に光る粉が舞ったのだ。


「なんだこりゃ?」

「さあ?」


 二人は疑問に思いつつ銀色に光る粉を触る。直後、異変が起きた。ワーロイとケイの肌が火傷しだしたのだ。


「なんだ、皮膚が溶けてる? う、うわーー‼︎」

「ぎゃーー! 熱いぃぃーー‼︎」


 二人は地面を転げ回る。その光景を見た俺は剣を下ろした。マリィとルナは二人の仲間ではないとわかったから。

 だから、俺は警戒を解き手を振りながら駆け寄ってくるマリィとルナに顔を向けたのだ。

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