14
「もしかして精霊神オベリア様ですか?」
「そうだ。精霊神オベリア、そして聖霊神イシュタリア、創造神ガロン、英知神アレス、女神メリディアだ」
「えっ、そんなにいらっしゃったのですか?」
「他にもいるらしいが主軸はこの神々だ。そして精霊神オベリアはエルフ族と精霊、聖霊神イシュタリアは聖人と聖獣、創造神ガロンはドワーフと宝具を使って人族に味方し、英知神アレスは知識と戦い方を人族に教え、女神メリディアは人族の住む場所に結界を張って安全に暮らせるようにしたんだ。それから長い間、戦いが続いた。だが、ある時、戦況が一気に変わる。獣神ライオールが人族の味方につき、龍神ドラゴニクスは争いを止め、眷属達は人気のない場所に籠もってしまったんだ」
「じゃあ、他の神々対魔神グレモスという構図になったのですね」
「ああ、だが魔神グレモスは強かった。そして悪知恵も働いた。他種族を誑かして人は闇人に、そしてエルフはダークエルフに変えてしまったんだ」
「えっ? 里ではダークエルフはエルフとは全く別の種族だと言われましたよ!」
「おそらく恥を隠したかったのだろう。何せ自分の眷属を奪われたのだからな。だからこそ神々は対策を練った。眷属や人々が闇に堕ちないように。それで生まれたのが加護だ」
「加護ってそういう効果もあるのですか?」
「今はそういう効果は薄れてしまったり禁じられた方法を使ってわざと堕ちる者もいる。だが、本来の目的はそれでむしろ精霊使いや魔法剣士などの加護は副産物でできたものなんだ」
そう言った後、いったん口を閉じる。そして口に出さずに付け足した。その副産物によって世界的に差別が生まれたんだと。
このことは言わなくていいだろうと判断したのだ。きっと気にしてしまうだろうから。
俺は熱心に話を聞くサリエラを見つめる。そして再び口を開いた。
「ちなみにその副産物だが、人々に現れたことであることが起きた。わかるか? ヒントは力がなかった人族も魔族や魔物相手に戦える力をつけたことだ」
「もしかして死亡率が減ったですか」
「正解だ。しかも神々が介入してくる以前よりな。そうなると獣人より繁殖力が強い人族の人口は爆発的に増えた。更に悪いことに知恵をつけた人族の中に魔族並みの悪さをする者も現れたんだ」
「ああ……エルフは人族などに嫌気がさしてエルフ以外入れない森を作って距離を置くようになったんですよね」
「エルフだけじゃない。ドワーフも地下に逃げ数が少ない聖人は空に聖界を作って関わりを絶ったんだ」
「だから見かけるのは人族に獣人族、それに混血種が多かったのですね」
「ああ、そういうことになる」
俺が頷くとサリエラはがっかりした表情を浮かべた。
「なんだか神々がした事は失敗なんじゃないのかと思い始めましたよ……」
「まあ、そこで英知神アレスと女神メリディアが良い心を持った者達に秩序と国を作らせ、管理させる事で人族はなんとかまともになったんだ」
「なんとかって部分は気になりますね……」
「言わなくてもわかるだろ」
「そうですね……」
「で、話を戻すが一致団結した魔族以外の種族は長い時をかけて魔族や悪さをする人族と戦い続けたわけだ。その過程で魔物や魔族を倒す事に特化した冒険者ギルドなどができていき、魔物や魔族を倒す効率が上がっていった。これに魔神グレモスは焦り、自分の命を削って神々の干渉力を弱めたうえに四人の魔族に絶大な力を分け与え魔王にしたんだ」
すると挙手しながらサリエラが言ってきた。
「そこからはわかります。三十年以上前の話ですよね。それで魔王は北西南東に別れて中心に向かって進行したんです。けれど我らが勇者アレス様によって北側と西側の魔王は倒されるんですよね」
「……ああ、そして南側の魔王はなぜか迷宮都市を作り、東側の魔王は強い冒険者や新たな勇者達によって進行を止められ現在に至るわけだ。ちなみに勇者の加護は魔王対策のために神々が後から研究して特別に作った強力な加護なんだぞ」
「なるほど! やはり勇者様は凄いんですね!」
「まあ、世間一般で言われている神々に関してはこんな感じだ。どうだ、わかったか?」
「はい、この世界の神々の事が凄くよくわかりましたよ。キリクさん凄く物知りですね!」
「いや、これは基本的知識だぞ。他にも神々は色々やってるんだが知りたい場合は書店に行ってみるといい。なかなか面白いからな」
「はい! でも、キリクさんに話してもらう方が良いです。凄くわかりやすいですから」
「まあ、機会があればな。とりあえずそろそろ目的地に着くみたいだ」
俺はラニ村の立札を指差す。
「あっ、本当ですね! あの山を登って行くとラニ村だそうですよ」
「ああ。では行こうか」
「はい!」
その後ラニ村に繋がる山道を登り始めたのだが途中、俺は足を止め振り返ってしまった。異変を感じたからだ。それと何者かの視線も。
しかし、気づいていないサリエラは俺の行動に首を傾げてくる。
「どうしました?」
「魔力を高めて集中してみろ」
「は、はい」
サリエラは俺の言葉に慌てて頷く。そして驚いた表情を浮かべた。
「私達、結界の中にいるみたいです」
「それと見られているな」
「えっ、あ!」
サリエラは今気づいたらしく辺りを見回す。そして不安そうな表情を向けてきた。
「どこから見られているのか全然わかりません。ただ凄く嫌な感じがします……」
「どうやら想定外のことが起きているらしいな」
「どうしましょう?」
「仕方ない。精霊に聞いてもらえないか?」
「わかりました。お待ちくださいって……そんな! 私に付いている精霊がいないです!」
「結界でこちらに来れないんだろう。なるほど。では、山にいる精霊はどうだ?」
「一体だけいましたが、なぜか怯えて逃げられちゃいました……」
「そうか。まあ、中に精霊はいるということだな。わかった、とりあえず警戒して行こう」
「はい!」
俺達はそれからいつでも戦える状態で山道を登っていく。だが、拍子抜けするほどあっさりとラニ村に到着してしまったのだ。
◇
「よく来て下さいました」
人の良さそうな村長が俺達を快く出迎えてくれる。そんな村長に早速依頼の件を聞くことにした。
「早速だがラニ村に出る化け物について教えて欲しい」
「はい。化け物は二年前に突然この村に現れました。ただ、最初は襲ってくる様子はなかったのです。けれど段々と凶暴になり遂には村人が襲われ死者まで……。だから冒険者ギルドに依頼して倒して頂いたんですがしばらくしたらまた現れて……」
「それで、依頼を出していたら金に余裕がなくなったか」
俺の言葉に村長は頷く。
「はい……。うちは自給自足に近い生活をしてますのでお金を用意するのは大変で……」
「そこで、あの依頼形態か」
「はい。冒険者ギルドからの計らいで。おかげさまで助かっております」
「なるほど。それで倒した化け物が姿を変えると書いてあったが、どういうことだ?」
「……はい、化け物は現れるたびに猪、狼、鳥、蛇、豚と姿が変わるんですよ」
「そこに魔物は入ってないのか? ここら辺にはボアもいるだろ?」
「いいえ。魔物はいっさい入ってません。間違いなくボアではなく豚です。しかも混血種でなく純粋な」
「そうか」
思わず腕を組み考えてしまう。しかし、すぐに部屋の隅に視線を向けた。子供がそわそわししながら立っていたからだ。すると村長が気づいたのか子供を睨む。
「こら! お客様がいるんだから外に出てなさい」
しかし子供は村長の言葉を無視し、俺達に顔を向けてきた。
「あいつ、喋るんだよ!」
「喋る?」
「おい、ノル、変な事を話すな」
「父ちゃん、俺や友達だって聞いてるんだよ!」
「悪ガキ連中の作り話だろう。大人は誰も聞いてないんだ。あっちへ行ってなさい」
「なんだよ! 父ちゃんの馬鹿やろう!」
ノルという子供は壁を蹴ってから外に出ていってしまう。すると村長が苦笑いしながら頭を下げてきた。
「すいませんね。あいつ冒険者に憧れてまして」
「……いや、大丈夫だ。それより化け物は他の村には来ないのか?」
「それが、隣りの村とは関わりがありませんので……」
そう話した村長の表情が一瞬だけ険しくなったのを俺は見逃さなかった。だが、今は突っ込まないでおく。調べたいことがあったからだ。
「……では山に結界が張ってあるのは知ってるか?」
「結界ですか? 知らないですね」
村長は首を傾げる。間違いなく知らない様子だった。とりあえずもう聞くことはなくなったのでサリエラの方を向く。するとサリエラが頷き口を開いた。
「あの、今は皆さん夜になったらどうされているのですか?」
「夜になったら頑丈な家に集まって朝まで一歩も出ない様にしています。化け物は壁を叩いたりしますが壊すまではしてこないんです」
「それは家を守る精霊が化け物の侵入を防いでいるからですよ。このラニ村は自然に対して優しく接してるみたいですから」
「はい。この村は精霊神オベリア様を信仰してますから自然との共存を大事にしているんです」
村長はそう言うと胸ポケットから精霊文字か沢山書かれた木片を出し見せてくる。間違いなく精霊神オベリアを信仰している者が持つお守りだった。
なるほど、精霊神オベリアを信仰してる村か。なのに精霊が入れない結界……。やはり先に調べてみるか。
早速立ち上がると村長に言った。
「とりあえず、俺達は村の周辺を調べに行ってくる」
「えっ、夜まで待たれないのですか?」
「いや、それだと倒してもまた現れるだろう?俺達は化け物とやらが二度と出ないようにするためにきたんだ」
「そ、そうだったんですか! で、でも、お金を全然払えないのですがよろしいのですか……?」
「ああ、問題ない」
「あ、ありがとうございます!」
村長は涙目で何度も頭を下げてくる。おそらく、倒してもまた化け物が現れると諦めが入っていたのだろう。
これはしっかりとやらないとな……
俺は涙を堪えながら何度も頭を下げてくる村長を見ながらそう思うのだった。
◇
村長にしばらくしたら戻ると伝え外に出るとサリエラがすぐに口を開いてきた。
「家にいた精霊に化け物の話を聞いたら、怯えて何も話してくれませんでした」
「あんな感じに毎晩来られてたらそうなるかもな」
所々がへこんだり引っ掻かれたりしている家を指差すとサリエラは唇を噛み締める。
「早く解決してあげたいですね。でも、これからどうするんですか?」
「まず、依頼者からの情報収集が終わったが、ここまででサリエラが気になった事はあるか?」
「やはり、精霊を通さない結界が気になります。誰がこれをやったか調べた方が良いと思います」
「ああ、俺も結界は何かしら関係してると思ってる」
「じゃあ、早速調べに行きましょう」
「いや、その前にやる事がある」
俺は切り株の上に立てた薪に石を投げて遊んでいるノルと二人の子供の方に気配を消して近づく。そして側にいくと口を開いた。
「その薪を倒したら勝ちなのか?」
遊びに夢中になっていた子供達は俺に突然声をかけられ飛び上がる。しかしすぐに好奇の目を向けながら俺達を囲んできた。
「いつの間にそこに⁉︎」
「気づかなかった!」
「冒険者の人だーー!」
「ああ、冒険者だ。そしてこういう事ができる」
石を拾うと素早く薪に向かって投げる。石は薪の中心に当たり切り株から落ちていった。
「すげー! 一発で落とした!」
「兄ちゃんすげー!」
「冒険者はやっぱ、すげーな」
「コツさえ掴めばできる」
俺は子供達に石を投げるコツを教える。子供達は飲み込みも早くすぐに薪に当てれる様になった。
「一発で当てれる様になったよ。ありがとう」
「お前達の腕が良かったんだ。ところで夜に現れる化け物について教えてくれるか?」
「へへ、石の投げ方を教えてもらったから教えるよ!」
「お、俺も!」
「私もー!」
狙い通り子供達はこぞって話だす。そして話終えると次の遊びをするため何処かへと走り去っていった。
「なかなか、貴重な話が聞けましたね」
「まあ、誇張してる部分もあったが化け物が喋るのは確かみたいだな」
「でも、大人が誰も化け物が喋っているのを聞いてないのはどうしてでしょう?」
「子供だけに聞こえる声か……」
正直、村に来る前は動物に憑いた死霊系の魔物あたりかと思っていた。死霊系の魔物なら取り憑いた動物が倒されても別の動物に取り憑けばいいからだ。
しかし、化け物は家の中に入ろうとはしなかった。死霊系の魔物なら中に精霊がいようが関係ないのにだ。しかも、子供達だけに聞こえるように喋った。
許さないか……
言葉の意味通りに受け止めていいのか?
ひとの良さそうな村人を思い出しているとサリエラが何かを思い出したのか手を打つ。
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