4
小屋の隙間からさす光で目が覚める。
直後、俺はすぐに起き上がると外に出た。
まあ、村人達が各々の仕事を始めているのを目にすると安心して小屋に戻ったが。いや、すぐに身支度を始めたが。何せレクタルの件を考えたらそのうちこの村ももっと騒しくなるだろうからだ。沢山の難民が向かってくるため。
ただ、だからといって俺にはもうこの山村できることはないのだが。
だから俺は軽く体を動かした後、小屋を出たのだ。もちろん素材取りをするために。何せこの山には良い素材が沢山生えているから。要は今日中に採取できるだけしておこうと思ったのだ。
ただし、いざ山へ入ろうとしたら一人の村人に呼び止められてしまったが。
「き、昨日はあんたの事を疑ってしまって悪かった。本当にすまねえ」
更には頭まで下げられてしまう。俺はもちろん首を横に振った。
「気にするな。昨日の対応はあながち間違いではないからな」
「え、そうなのか?」
村人は驚いた顔を向けてくるため頷く。
「ああ。だから別に疑うのは悪いことじゃない。冒険者の中には連中が言ってるような事をする奴もいるからな」
「そうか。なら他の皆にも伝えとく。気にしていたから」
村人はほっとした表情になると笑顔で再び自分の仕事に戻っていく。その姿を見た俺はこういう所に住んでいる人達はまともな人物が多い事を思いだす。ただ、すぐに溜め息を吐いたが。
何せ外に出ると駄目になる奴もいるからだ。
あいつのように。
近くの地面でいびきをかくバンを一瞥する。それから軽く頭を振ると再び山に向かって歩き出したのだ。ランドという冒険者に呼び止められるまで。
「お前は確かキリクという名だったな。村人から聞いたぞ。なかなかの活躍だったと」
俺は立ち止まり面と向かって返事をする。
「対したことはしてない……。それより、あんたら村には迷惑はかけないでくれよ」
「当たり前だ。自分達はアダマンタイト級を目指してるからな」
「そうか。なら、その言葉を信用させてもらおう。悪いがこれからやりたい事があるんだ。もういいか?」
「あ、ああ……」
ランドはまだ何か言いたそうだったが、正直、関わると面倒だと思ったので何か口に出す前に歩きだす。
それから山にはいると時間をかけ、錬金術素材や食料にできそうなものも採っていったのだ。日が落ちるぎりぎりまで。
何せ村に早く戻れば面倒事に巻き込まれる可能性があったからだ。きっと、避難してくる連中はまた増えるだろうから。
「そして、それは正解だったと……」
俺は眉間に皺を寄せる。避難してきたであろうレクタルの住人や冒険者が沢山、村の入り口にいたからだ。しかも着の身着のままの状態で。だから彼らの様子からレクタルが相当酷い状況なのがわかってしまったのだ。
「やれやれ」
こうなるとさすがに様子を見に行った方が良いかもしれないと思ってしまう。レクタルで何があったのかをこの目で確認しに。
まあ、今の俺に何ができるかはわからないが。
避難者を見てそう思っていると鉄獅子パーティーにいた魔法職の格好をした女が近づいてきた。
「あなた、レクタルで有名なキリクよね。私はルイって言うの」
「……だからなんだ?」
「あ、別に悪気があって言ったわけじゃないの。不快に思わせてしまったらごめんなさい」
「別にいい。ただ、もう疲れたから戻らせてもらう」
「そ、そう」
「悪いな」
俺はそう言いながらもう話は終わりとばかりに何か言いたそうな雰囲気のルイを置いて歩き出した。
そして、空き家に戻ると採った素材などで作業を始めたのだ。扉をノックする音と村長の声が聞こえるまで。
「キリクさん、今よろしいでしょうか?」
「ああ、大丈夫だ」
俺はすぐさま扉を開けて村長を招き入れる。すると村長はすまなそうに口を開き言ってきたのである。
「あのう、よろしければキリクさんに少し相談に乗って頂きたいんです……」
「構わないが、外にいる連中の方が良くないか?」
ランドや他の冒険者は俺よりもランクが高い、そう思ったのだが村長は首を横に振る。
「いえ、あなたと違って彼らは村の事までは……」
「ああ、なるほど」
「冒険者の方々はもう一度レクタルに行くか、ブランシュに行くかで迷っているらしいんです。それは良いんですが、この村を拠点にしたいと言い出す者まで現れて……」
「レクタルに行って魔物達を倒そうという心意気は買うが、この村を拠点にすると、グール化や魔物達に追跡されて村に危険が増えるな」
「そうなのです! それに街の人々は行くあてがないらしく、このまま食料を分けていたらうちの村の食料がなくなって共倒れです」
「まだ避難者が来るかもしれないしな。食料に関してははっきりと皆に言ってしまった方が良いだろう。最悪、山には食料はいっぱいあるんだから冒険者を使って食料集めをさせるとか」
そう言うと村長は何度も頷いた。
「働かざる者、食うべからずですね」
「ああ、問題はここを拠点にしようとしてる冒険者達だな。村の危険を訴えても自分達が守ると言うだろう」
「やはり、村を離れてもらう事は難しいでしょうか?」
「おそらくな」
俺の言葉に村長は頭を垂れる。毎日、危険に晒される可能性があるのだからこの反応は当然だろう。
「こうなったら冒険者達には徹底的に村を守ってもらうしかないな」
「やはりそうなりますか……」
「ただ、しっかりと言葉で伝えた方がいいだろう。そうなると魔物避けと死霊系の魔物除けの話はしないといけないだろうが胡散臭がられるだろうな。俺はレクタルでは嫌われてるから」
肩をすくめると村長は微笑んでくる。
「冒険者の方々に話は聞きましたが、私も村の者もキリクさんがしてくれた事を信じてますよ」
村長はそう言って頷いてくる。だからつい頬が緩んでしまったのだ。朝の村人といい久々に穢れない人達に会えたから。だから頷く。こういう人達のためなら頑張れるから。
「わかった。では早速、人を集めてくれ」
「はい」
それから村長は村人や避難者全員を集めると話をつけにいったのだ。もちろん説明は村長がしたが。
だからなのか多少の文句も出たが状況を理解できるものの方が多く、明日から動ける者達で食料を採りに行ってくれる事になったのである。
まあ、ただしだが。魔物除けの話になった時にやはり問題が起きてしまったが。
「草花で魔物が寄り付かないなんて聞いた事ないぞ」
「死霊系が寄ってこないというのも信じられないな」
「また、加護無しが嘘吐いてやがるよ」
何人かの冒険者やレクタルの住人が蔑んだ目で見てくる。だから俺は仕方なく説明することにしたのである。当然、無駄とわかっていたが。
「これは錬金術の中でも失われつつある技術だ。魔法に頼ったり、店で買う回復薬しか使わないお前らが知らないのは当然だ」
「ふん、嘘を言うなよ」
「お前の言葉なんて誰も信じるかよ!」
案の定、想定内のことを言ってくるため俺は溜め息を吐いた。すぐに口を開いたが。
「まあ、嘘と思うならそれでもいい。なら、お前らで魔物が避ける結界を張ったり、村に魔物達が寄り付かない様にしてくれれば良いんだ」
話しているうちについ本音が出ると村長が頷いてくる。
「キリクさんの言うとおりです。村にいるならそれをしてくれない以上出て行ってもらいたい!」
更には最後は強い口調で言うと話し合いで黙っていた鉄獅子のリーダー、ランドが前に出てくる。
「わかった。その件、自分達のパーティーが受け持とう」
そして周りを見回したのだ。黙らせるために多少、周りを威圧しながら。
「うっ……」
「ちっ……」
皆は一歩後退る。それを見た村長が無言で顔を向けてきたので俺は頷いた。もちろん、今の行動だけでなく避難してきた冒険者の中では一番ランクも高く信用度からも適任だったからだ。
「では、ランドさん、お願いしてよろしいでしょうか?」
「ああ。村に害がこない様、全力を尽くす」
そしてランドは力強く頷くと鉄獅子のパーティーを引き連れすぐに行動に取り掛かってくれたのだ。
「これでもう安心だべか」
村人の一言であたりの空気が和らぐ。そして皆は話は終わったと解散になった……とはいかず、やはりというか何人かは俺のもとにやってきて睨んできたのである。
「おい、嘘吐き。お前も冒険者の端くれなら、レクタルを救うのを手伝えよ」
「はっ?」
「はっ、じゃねえよ。お前みたいな役立たずでも、荷物持ちぐらいはできるだろう」
冒険者達は悪意のこもった視線を向けてくる。間違いなく本当の事は言ってないだろう。だから俺は呆れた表情を向けたのだ。
「本当は何がしたいんだ?」
すると冒険者の一人が突然殴りかかってくる。もちろん想定内の行動だったので俺は殴りかかってきた相手の攻撃を避け軽く避け腕を捻り上げる。
「ぎゃあぁーー! い、痛え離せよおぉ!」
「当然離すわけないだろう」
更に強く腕を捻ると周りにいる連中に視線を向け口を開いたのである。
「お前達の荷物持ちなんてやる気はない。それよりもさっさと村を守る為に働け」
すると連中は一斉に武器に手を置く。まあ、すぐにランドが間に入り冒険者達を一喝すると皆怯んでしまったが。
「貴様ら、何をしている!」
「……この嘘吐きが突然そいつの腕を捻り上げたんだよ」
「そ、そうだ!」
「何を言っている? 自分は見ていたぞ。貴様らがキリクを愚弄しているのを」
「な、なんだよ! お前、そいつの肩を持つのか?」
「この目で見て判断したまでだ。そうなると自分も愚弄されている事になるな」
ランドから殺気が出始めると冒険者達は怯えた表情に変わり、テントの方に逃げていった。ランドはそんな彼らから俺が掴んでいた冒険者を睨む。
「気が立っているのだろうがあれはいかんだろう」
俺は掴んでいた冒険者を離す。それから逃げていく後ろ姿を眺めながら肩をすくめたのである。
「何を言ってるんだ? 気が立ってなくても絡んでくるだろう。ああいうのは」
「うむ……」
「まあ、とりあえず礼は言っておこう。助かった」
するとランドは驚いた表情をする。すぐに真顔になり首を横に振ってきたが。
「気にしないでくれ。キリクには余計な事だっただろう」
「いや、余計な混乱を招かなくて済んだからな。で、お前達はどうするんだ?」
「装備を整え次第、沢山の冒険者達を集めてレクタルに行くつもりだ。お前も一緒にレクタルに行くか?」
「……いや」
「そうか……。まあ、もし行く気があれば声をかけてくれ」
ランドはそう言うと仲間の元に戻っていく。そんなランドの背中に眩しさを感じ俺は目を細める。そして「頑張れよ」と呟くと空き家へと戻ったのだ。
まあ、しばらくして外が騒がしくなり再び出たが。何せ「魔物」という誰かの声が聞こえてきたから。
しかも戦うような音も。だから様子を見に行ったのである。もちろん安心しながら。
「これで終わりだ」
案の定、村の入り口付近でグールがランドに倒されているところだった。
どうやらしっかりと仕事をしてくれてるようである。そのことに感心していると村長が笑顔で駆け寄ってくる。
「キリクさん、あなたがしてくれた事は凄いですよ! グールになりかけた者は村に入れないみたいなんです」
「ちゃんと機能したようだな。これなら村への脅威は少し減るだろう」
「はい。それと、レクタルの近くで野営地を作ると、先程、早馬で伝達が来ましたので、しばらくしたらレクタルから避難してきた人達もそちらに向かうようです」
「それは良かったな。後は魔物が村に来ない様にすれば問題ないか」
「それも、もうすぐ王都から騎士団が来て巡回をしてくれるらしいんです」
「では俺は明日にはここを発っても大丈夫そうだな」
「キリクさん、行かれてしまうのですか?」
「ああ、ちょっとレクタルの様子を見ておきたいからな」
「なるほど。では、明日までゆっくりしていって下さいね」
村長は頭を下げると、また忙しそうに避難者達の方に向かっていった。
俺もとりあえず、周りが静かになったので戻ろうとすると鉄獅子パーティーにいた聖職者の格好をした女が駆け寄ってきた。
「すみません、キリクさん。私は鉄獅子パーティーにいるサラといいますが少しお聞きしたいことが」
「なんだ?」
「あの、不躾な質問なんですが、死霊系の魔物除けって私でも簡単に作れるでしょうか?」
「残念だが錬金術の中でも中級以上の技術がいる作業だから、簡単に作る事はできない」
「そ、そうですか……。ありがとうございました」
サラは頭を下げると、がっかりした様子で戻っていく。その姿に俺は感心する。普通ならそれでも作成方法を聞こうとしてくるから。自分で使えなくても売れば金になるからだ。
まあ、聞いても教える気はないんだがな。
何せ使ってる材料が魔物の血や骨や場合によっては、心臓だったりするので死霊術だと勘違いされる可能性があるから。
それに何より、材料の一つに問題があるから。俺は傷がある自分の指を見る。要は対魔物薬のほとんどにはハイエルフの血が必要になるので人族であるサラには無理なのだ。
まあ、俺と同じ見た目のハーフだったら可能かもしれないが……
だが、そんなわけはないだろうと俺はサラに背を向け空き家へと戻るのだった。
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