決定事項
水曜日。
みんなの立場からすると『悪魔の日』とでも呼びそうだが、俺にとっては自分の立ち位置が再確認できる機会である。
いよいよ定期考査がはじまったのだ。
一時間目は現国。
文章題は得意なほうだ。漢字のミスや読み間違いをしなければ満点近い点数をたたき出せるだろう。
今日は三時間構成となっていて、他の日は二時間構成である。
五日間に渡ってテストが続く過酷な週だが……今回は幸い土日を挟んでいる為、疲労が癒せれる。
それに二時間なのだ……楽すぎる。
◆
現国も現社も生物も手応えが良かった。今日のテストは問題なく済んだ……中山は絶望の色を浮かべているが。
そっとしておこう。
あとは木曜日と金曜日のテストを乗り切れば土日の休暇が得られる。
家でゆっくりしたいのだが……なんで俺の部屋に堂々と当然のように居座ってんだよ!
「一条~。飲み物ー、喉渇いた」
机にべたーっと体を接触させ体を伸ばしている。
俺は立派な召使いかって……仕方ない。
冷蔵庫から炭酸のぶどう味を取りだしてコップに注ぎ、西条、中山、葵、そしてもう一人の厄介な相手である
林城は帰り道が逆方向のはずなんだが……。
俺も罪な幼馴染を持ってしまったようだ。
友達は多いし、可愛いし、それに加えて甘えてくるし。
友達が多いのはいい事だ。それは否定しない。
しかし、自分の家に呼べばいいのになんで、なんで毎度俺の家なんだよ!
でも、家で退屈しない観点からいえばありがたいのだがな。
「で、今日は何の用だ?」
「いや~死にました」
一時間目が終了した時から大体察しはついていた……というかそのままの表情浮かべていたな。
「林城は逆方向だと思うが?」
「なんていうかね、うん。……暇だから?」
取って付けたように理由を今考えただろ!絶対。
結局、勉強を教えなければならないのか。
いや、そのお陰で皆が帰った後に勉強しなくても済むしな。
確かに人に教えるのは難しいが、いい勉強になる……丁度いいな。
「一条君、いつもごめんね」
「気にするな西条」
「雫ちゃん。一条君の家に来る日は表情がいつもより明るいんだよ」
「いつも来ているがな」
くすくすと微笑む西条。
肩にかかるかどうかの短い橙色をした頭髪からシャンプーのいい匂いが漂う。
くっ……なんでみんなこんないい匂いがするんだよ。
「雫ちゃんそろそろ帰るよ」
「待ってー!私も行くね、葵」
「うん!ばいばい」
「一条もありがと」
「「おじゃましました」」
西条と中山はいつもより早めに帰宅した……と言っても今は六時だが。
本当にあの二人仲良いな。幼馴染って言ってたっけ。
俺と葵みたいな関係なのか……甘々を除けば。
「林城はどうする?」
林城は勉強ができるから俺の家にくるメリットはないと思うのだが。
「んー、どうしようかな~。このまま泊まっちゃおうかな~……冗談だよ。私もそろそろ行くね」
振り向きながら手を振る林城。
リビングに戻ると葵が俺のスマホを触りながらニヤニヤしている。
「おい、何してるんだ?」
「……ぁっ、やばい」
えっ?今やばいって言ったよね。
葵から携帯を没収して……没収っていうか最初から俺のか。
多分ゲームアプリ分からないから触ってないだろうし、触っているとしたらメッセージアプリか。
なんだよ……これ。
メッセージアプリの一番上に『泊り会』と書かれたグループが作成されている。
グループ人数は俺を含めて五人。葵、中山、西条、林城と俺である。
いつの間にこんなの作ったんだ……。
「いやー。違うんだよ。別に和くんがトイレに行っている間に相談したとかじゃないからね!」
ロボットのようなカクカクした動作で弁解を試みる葵。
いやー、きれいに全部情報を漏洩してくれましたね。ってそんな事じゃねー!!
「ま、まさかとは思うけど。……お、俺の家じゃないよな?」
俺の言葉を聞いて葵の体がビクッと飛び跳ねる。
絶対俺の家じゃん、その反応。
多分、泊まるのは今週の土曜だろう。中山達は月曜と火曜の科目が難しいから勉強の質問の為として……葵も何となくわかる。
が、林城は何故だ……もうここまできたら悲しい。
「ち、違うんだよ。雫が『泊り会しよー!!』とか言ったわけじゃないんだよ」
もうダメだ。葵が完全にノックアウトとしてやがる。
確実にオーバーヒートしてやがるな。
原因は中山か。
男子が俺一人というのは非常に気まずいし、居心地悪いのだが。いつも帰り道一人だから多少は慣れたけども。
はぁ……決定したことはもう遅いしな。
片付けとか物品の準備しとかないとな。父親と母親に言わなければ……言う必要もなく『あらっいらっしゃい、邪魔しちゃ悪いわね』とかいってホテル借りて泊まるだろーけど。
「仕方ないな。今回だけだぞ」
「……いいの?」
「決まったものは仕方ないからな」
「……ありがと、やっぱ和くん優しいー」
「やめろ、抱きつくな」
「……えへへ……いい匂い……」
泊り会で頼むからこんな地雷踏まないでくれよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます