泊り会①

 木曜と金曜のテストも無事に終了し、いよいよ土曜に突入した。


 土曜の勝手に決定された『泊り会』の為に、お菓子やジュースの補充をし、部屋の掃除等、泊まりに必要なことは一通り終わらせた。


 準備万端……と言い切りたいが、なんせ初めてだ。何があるか分からないから割と心配である。


 それに加えて男子は結局俺一人である。


『男子は呼ぶなよ』とでも言いたげな葵と中山からの圧と視線が凄まじく押し潰されそうだったからだ。


 そわそわしていたら家のチャイムが鳴る。


 家の扉を開くと西条と中山であった。


 葵は隣だから入念な準備をしてくるのだろう。


「おっす、一条!今日はよろしく!これちょっとしたものだ」


「一条君、ごめんね。よろしく」


 西条と中山から菓子折りが入った紙袋を受け取り、もう一つおそらくお菓子等が入ったビニール袋を受け取る。


 家に上がらせるのと同時に再度家のチャイムがなる。


 ……多分、葵だな。


「おじゃましまーす!和くんーよろしく」


 予想は的中し葵だった。

 チャイムを押す意味を消すように、葵はお構い無しに勝手に家の中に上がる。

 ……いつものことだからもう既に気にしてはいないのだが。


「みんな来てたんだ!」


「おーっす、葵」「こんにちは、葵ちゃん」


 葵は二人と挨拶を交わすと二人が座っていたソファの隣に座る。


 林城は『ちょっと用事あるから後になりそうです』とメッセージが来ていたから、もう少しは来ないだろう。


 父親と母親に『泊まりに来る』と言ったところ、協力的で『まあ、もうそういうお年頃なのね。仕方ないわ。貴方♪』などと言い、父親とホテルに泊まるようだ。


 四人の寝床は俺の部屋で足りるはずだ……俺はさすがに別屋で寝させてもらうぞ。


 泊り会と言うわがままを受け入れて休日を潰されてこれ以上わがままは聞いておけん!


 葵達はガールズトークというやつだろうか。

 話が弾んで楽しそうに笑っている。


 ……この状況で俺は一体何をすればいいんだ。


「とりあえず明日勉強するとして、今日は遊ぼー!!」


「そうだね」「私も同感かな」中山の提案に葵と西条は同調する。


「一条もそれでいいよね?」


 急に質問を振られて、ビクついたがコクリと頷く。


 早速、葵たちは遊ぶための用意を始めたようだ。


 俺はとりあえず部屋に戻り、四人分の敷布団と掛け布団を敷く。


「ふぅ。終わったな。」


 と、家のチャイムが鳴る。


「……林城だな」


 一階に降りると葵が林城を家に上げていたようだ。とうとう全員揃ったな……。


「紗夜も来たし!遊ぼー!!」


 中山の提案にみんなが同意して机を中心に囲うように座る。


 机の上に用意されたのは五本の割り箸である。

 一つ一つに番号がうってあり、最後の一本には王冠のマークが付けられている。


 「……ま、まさか王様ゲームじゃないよな?」


 葵は疑問を浮かべたような表情を作ると「え?そうだけど?」と当たり前な事のように真顔になる。


 「おいっ、まじかよ」


 ぼそっと心の中で呟く。


 林城が番号とマークを隠すように片手で持ち、じゃんけんをする。


 一番手は西条、その次に、俺、葵、林城、中山の順番になった。


 「なんで私が最後なの……」


 悲しそうな表情を浮かべているが無視しておこう……。


 王様ゲームなんていつぶりか分からない。


 昔は葵のわがままに付き合ってやったことはあるが、イマイチわからん。


 割り箸を引き終わり、せーのっ、の合図に合わせて番号を確認する。


 一番か……。


 みんなの方に視線を向けると中山のニヤつきが凄かった。


 ……絶対王様だな。


 「私が王様ー!!」


 「じゃあ、二番と王様がハグ」


 いやいや!まてまて!難易度高すぎないか!


 最初の命令からハグとかあるの?てか、王様自分指定してるし……それはありなのか?


 一番で良かった。


 「二番私です」


 林城が手を上げる。


 なんだその中山の悲しそうな目は……。

 命令通り二人はすぐにハグを済ませる。


 女子同士のハグなんて多分この先見ることはないだろうしよく目に焼き付けておこう。


 「じゃあ次!!」




 それから三度したが、結局俺は当たることなく平和で優雅な時間を過ごした。


 中山は毎回のように誰かとハグを続けて疲れた様子である。


 「あーなんで私ばっかり!」


 「雫運がいいね!」


 「まあまあそんなこともあるよ」


 葵や西条がフォローに入る。


 これからもこんなテンションが続くのか……夜が心配である。

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