拗ね拗ねモード
「今週から定期考査が始まる。しっかりと授業の復習をして体調管理をしろよー。あとは、授業の大半が自習になると思うが有効活用するように。以上」
『もう始まっちまうよー』『やべぇ、まじ勉強してねぇ』などまたしてもクラスメートの悲嘆する声が教室に響く。
『勉強してねぇ』とか言っているやつほど本当はしていて頭良いんだよな。真也みたいに例外もいるけど。
そいや水曜からだったな。あと二日しかないのか。
俺も最後の追い込みで一応復習と重要なポイントを教えておかなければならないな。
一限の授業が始まり、早十分が経過したが、何故かちらちらと視線を感じる。
中山からの視線である。
目線を向けるとうるうると目元を濡らしたお願いを乞うような表情をした視線を向けている。
『どうせ勉強の何をやっていいのか分からないんだろ?』とでも言いたげな表情を浮かべると、こくこくと激しく中山は頷いた。
なんで、俺の周りのやつらは心情が読めるんだよ。
心霊映像より余程怖いわ!
分からないと言われても今教える方法ないしな。授業監督官も居るし……教壇の前で寝てるじゃねーか。
おいっ、中山も普通に歩いて俺の席に寄ってくるなよ。って周囲の奴らもみんな喋っているのか。
集中し過ぎて何も聞こえなかったのか。
「この問題なんだけど
なんで、ここがhad lostになるのかなーって」
授業で「テストに出すからちゃんと勉強しとけよ」って先生に念押された場所か、そういう重要なポイントは覚えているのか。
「これは大過去と言ってな。時系列で前にある事はhadを付けることがあるんだ」
「へぇ~」
「一本直線を時系列を順に書いていけば分かりやすいと思うぞ」
「ほんとだ!やっぱり一条頼りになるね~。……そういうとこだよ」
「最後なんか言ったか?」
「いや~なんでもないっ!」
葵といい中山といいなんであんな小声で最後ぼそって言うんだ。まあ、いい……っと勉強せんとな。
結局、今日の授業全部自習だったな。
確かに定期考査までの授業はペースが早かったからな。やるべき範囲が終了したのだろう。
「かずくーん。行こ」
いつも通り葵に声を掛けられ学校を出る。
「そいえば、一条の連絡先私持ってなかったな~」
急に中山が思い出したかのように呟く。
もしかして、昨日の昼休みあった真也達とのやり取りを見ていたのか。
俺がスマホを中山達の前で出したこと無かったし、多分そうなのだろう。
俺と連絡先を交換するメリットは勉強の他にはないよな。まあ、持ってて困ることないし……女子のだし、有難く貰っておこう。
同じ手順でQRコードを提示すると、西条も便乗するかのように口を開く。
「……じゃあ、私も一条君の貰っていいかな?」
「もちろんだ」
西条と中山の連絡先を交換したが、何故か葵の方から黒いもやもやしたオーラが漂っているのだが。
……しかも視線が痛い。なんでそんな鋭い目で俺を見るんだ。
「ありがとう!一条」「……ありがとう、一条君」なんでそんな笑顔なのかは知らないが、とりあえず交換できて良かった。
「お、おう」
いつも通り、西条と中山と途中で別れてそれぞれの家に戻る。
着替えを終わってリビングに戻った時には既に葵は当然のように家に上がっていた。
「もう来てたのか」
「……」
「今日のご飯なんだ?」
「……」
あー出た。葵の拗ね拗ねモード。
前に他の女子と仲良くしていたら厳しくなる、とかそのような事を言っていたがこれだ。
多分、俺が西条と中山と連絡先を交換したのが原因だろう。
最近はならないな……と治っているものかと思いついやってしまったな。
甘々モードの手の打ちようがないのとは異なり、拗ね拗ねモードはまだ治す方法が存在するから助かるのだがな。
結局、葵は無言のままご飯を食べ終わりいつもの甘々モードの時間に突入したが……まぁ、してこないだろう。
「なんで拗ねてるんだ?」
「……ぷいっ」
ぷいって言っちゃったよ。
「映画見ないのか」
「……ぷいっ」
葵は呟きながら逆方向を向く。
「ったく……なら分かった。俺も今日は話しかけない」
「……やだよ」
「なら……」
言葉を続けようとした瞬間だった。俺の胸に葵は全力で飛びついてくる。
なんだ。話したいんじゃねーかよ。
昔っから拗ね癖は直ってないし、ツンデレなところも直ってないな……。
これが唯一俺の知る拗ね拗ねモードから打開する方法だ。
「最初から素直になれよ」
「……ごめんね……」
「昔からだし気にしてねーよ」
「……えへへ……やっぱり優しいね……」
「やめろ……恥ずかしい」
俺の胸を右頬ですりすりと擦る葵。
……くすぐったいな、でも葵が機嫌を取り戻してくれて良かった。
ようやくいつもの葵の戻ったな。
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