ゆっくり休める昼休みだったはずが……。

 今日時間が経つのが遅いな……。


 時計で時刻を確認すると始まってからまだ、二十分しか経過していない。


 嘘だろ……あと三十分もあるのか、お腹空いてきたし限界が来ているのだが。


「おぉ、和也!もしかしてお腹空いてるのか。

 このタコさんウインナー食べるか?」


 箸で器用にタコさんウインナーを摘んでこちらに向けてくる隣の席の真也。


 ダメだ。能天気の馬鹿が隣に居て勉強どころじゃない。

 しかも、授業中に早弁してるし。よくバレないよな。尊敬の器に値するわ!




「はぁ、やっと終わった」


「なんで!もう弁当の中身がない」


 さっき堂々と授業中に食べてただろ!

 てか、全部食べるとかどんな頭脳してやがるんだよ。それに気づいていないようだし……さすが真也、恐るべし。


「お前さっき普通に食べてたろ」


「そうだった、不覚」


「仕方ねーなぁ、少し分けてやるよ」


 卵焼きやら詰めている二段弁当の一段目に敷き詰めていた野菜の幾つかを真也に与える。


「さすが和也。完璧な友達を持って俺は幸せだよ」


「美味しそうだなー和也」


「おう!陸」


 龍宮たつみやりく。学校にいる数少ない友達の内の一人である。


 こいつは真面目である。……と言いたいがこいつはゲー厨で全国大会によく出場している腕の持ち主だ。


 唯一、音ゲーが出来ないらしく困っているそうだが俺には関係ない事だ知らん。


 それ以外は真面目で直向きな性格である。

 端正な顔立ちをしていて、俺らと居るのが不思議だが真也の次に話しかけてくれた友である。


 告白を何度かされているものの、どうやら全て拒否しているらしい。イケメンの特権というやつか。


「……一条君、今少しいいかな」


 背後から級長に呼ばれる声が聞こえる。


 級長から誘いに来るとは珍しい。こないだの誘いの件が絡んでいるのだろう。


「なんだ!和也、おめぇもしかして名簿から消されるのか?」


「ちっげーよ!遠回しに退学とか言わなくていいわ!」


 ったく級長に呼ばれて早々に退学になる奴が居るかって。


 あいつ気の利く言い方は出来るのになんであんなに馬鹿なんだ。


 一旦、離席して廊下に出る。


「それでどうした?」


「……うん、こないだ遊ぶって言ったんだけど、、私たち連絡取る手段ないなって」


 確かにそうだった。約束はしたものの肝心な日時を決める方法がないんだった。


「……それで一条君ってスマホ持ってるかなって」


 一応持ってはいるが、最近は親としか連絡した記憶がないな……母親を除いて。


 他の連絡先は無念なことに……葵の連絡先しか持っていない。


 中山達にも別段『欲しい』と言われたこともないし、真也は電話だしな。葵はまず隣だから連絡取ると言っても窓から話せるくらいだし。


「おうっ。持ってるぞ、ほれ」


 スマホのメッセージアプリを起動しQRコードを級長の方に提示する。


 スマホを覆うように読み取ると何故か追加ボタンを押しながら微笑んでいる。


「ありがと!またね!」


 用が済むと級長は手を振ってどこかに走り去って言った。


 凄いな、昼休みにも何か用事があるのか。急いでいるようだったし。まるで嵐のようだな。


 ポケットに入れたスマホが振動する。


 取り出して画面を確認してみると《Rin》という人物から『よろしくね!』と一言メッセージが送られていた。


 凛花のりんをローマ字にしたのか。


『こちらこそ』と返信し真也達の元へと帰る。


「なんだったんだ?」


「連絡先頂戴って」


「あーそんなことか。ってえぇ!

 和也、彼女を作る抜け駆けは許さないぞ」


「お前こないだギャルゲーで三人嫁ができたって言ってなかったか?」


「それはそうだけど……あっ俺も連絡先持ってなかったな、、というわけで貰えるか?」


 急に態度が激変しすぎだろ。


「俺のも頼む」


 真也と陸にQRコードを読み込ませて連絡先を交換する。


 真也のアイコンはヲタク感丸出しのアニメの美少女キャラクターがピースしたアイコンである。


 陸も対して変わらないが、何かのゲームのキャラクターだろう。


 ご飯を食べ終わり、これからは寝れる時間と思っていたのだが。生憎そうはいかないみたいだ。


「一条起きろ!」


「どうしたんだ?」


 俺の席に次に来たのは中山と西条。


「葵と付き合っているのか?」


 唐突な質問に食べたものが全部出るところだった。


「なんだよ、急に。付き合ってねーよ」


 なんでそんな質問が出るんだ。もしかして……葵が甘々モードのところを見られたのか。


 いやしかし、確かにいつも一緒に帰宅してるし登校してるしそういう発想にもなるか。


 葵の方に視線をやると何故か拗ねたような表情を浮かべている。


 なんだよその表情。もしかして『付き合ってる』とでも答えて欲しかったのか。


 俺の心情が読めているのか、微笑みながら首を縦に振る葵。


 なんで心情読めてんだよ!怖いな。


「ほんとに二人は付き合ってないの?」


「ああ、そうだな」


「ふーん……私が狙っちゃおうかな」


「なんか言ったか?」


「いや!!なんでもないありがと」


「……お、おう」


 いきなりなんだったんだ。直ぐに納得してくれたみたいで助かったけど。


 お陰様で睡眠時間を潰されたが……まあ、いいか。今日の昼休みは一段と用事が多く疲れたな。


 残りの授業は早く過ぎて欲しい、と天を仰ぐのであった。

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