現行犯

 どうしてこうなった。


 そう、俺は日直の当番で少し帰りが遅くなっただけである。

それがあだとなったのかはもう今更考えても遅いことだ。


「なんで、葵達が俺の家に当然のようにいるんだよ!」


「お邪魔してまーす!」「よろしくね!一条君」机周りに設置している椅子に座り手を上げて挨拶してくる中山やその友達。


 はあ、もうダメだ。意味が分からない。

 やっと家に帰ってゆっくり出来ると過信していたのに、全てが溝に捨てられた感覚である。


 体の疲労が癒せられないではないか。


 葵に合鍵を渡していたから入れることは分かるが葵だけではなく、皆がいるのは予想外にも程があるわ!


 全く仕方のない奴らだな……。


「炭酸の飲み物しかねーけどいいか?」


「おっ、気が利くねー。そういう気遣い好感度アップしちゃうなー」


「なんだよ、そのギャルゲー設定」


 苦笑しているのを横目に見て、冷蔵庫から炭酸オレンジを取り出し人数分のコップに移して配る。


「で。なんの用で来たんだ?」


「知っての通り私達全く勉強できないじゃん。

 だから、勉強好きの一条に教えてもらおうと思って」


 大体察しはついていたが……はぁ、本当に仕方のない奴らだな。


 葵の方に視線をやると『……えへへ……』とでも言いたげな照れた表情をしている。


 別に今、照れる要素なかったよね。


「で、どこだ?」


「ここの物理基礎の問題なんだけど……」


 あー、この問題か。俺も授業聞かない予習状態だとかなりの難問だったな。


 苦戦に苦戦を重ねてようやく理解出来た問題か、教えるの面倒くさいし、難しすぎだろ。


 中山が理解できるか心配だが……。


「これは落下直前の角度であるθが必要になるからそれを求めなければならないんだよ」


「へぇ~、で、θってどうやって求めるの?」


 おい、こいつちゃんと授業聞いてんのか。


 俺、中山の今後がやっぱり心配になりそうだ。こりゃ教える側の教師も大変だな。


「cosθ分のsinθだ、それぐらい覚えとけ」


「おぉ!解けた!」


「それは良かった」


「ありがとね!一条!」


 こいつも俺の前でこんな表情するんだな……可愛いな。


 なんか葵の妬いている視線を感じるのだが……まあ、夜どうせ話してくるだろうし、今は大丈夫と思いたい。


「一条君。私も」


「はい、はい」


 人に教えるのは理解を深めれると確か誰かが言っていたような記憶がある、いい機会として頂戴しよう。


 葵は質問せずにずっと一人で問題を解いているようだが、もしかして拗ねているのか……この歳になっても昔のままだな。


「どれだ?」


「……かずくんのバカ、もっと早く来てよ……」


「何か言ったか?」


「いやいや!!何にも!この問題なんだけど……」


 葵は数学をやっていたのか。

 メネラウスの定理か。難関私立高校の入試にはこの定理は必須だから全力でやってたっけな。


 懐かしい……。


「これはメネラウスの定理を使えば一発で解けるぞ」


「わぁぁ!ほんとだ凄い!ありがとね……かずくん……えへへ」


 それからも質問責めをされ続けて神経がすり削られて、時刻は既に七時を回っていた。


「私達、そろそろ帰るね!一条今日はありがと!」


「お、おう」


 体力の限界を迎えて声を出すのもやっとだ。


 今からはゆったりできるはずなのだが……葵はこのまま残るのかよ。


 葵の作るご飯は美味しいからそれで少しでも体力回復をするか……その後の甘々モードを乗り切るために。




 ◆




「一条と葵って絶対付き合ってるよね?真奈」


「私もかなり怪しいと思ってるんだよね」


 西条さいじょう真奈まな。私の幼稚園からの友達であり、高校までずっと着いてきてくれた親友の一人である。


 葵とは中学からの知り合いだったが、真奈はもっと昔からの古参の友達だ。


 挫折した時も真奈が励ましてくれなければ立ち直れていたか分からないし、本当に感謝している。


「覗いて見る?」


「でも、一条君に悪いよ」


 真奈は見た目通りの優しさがあり、大抵のことは遠慮するタイプなのである。


 少しは大胆になってきたと思ったけど……まだまだ私みたいにはならないなぁ。


「今しかないよ、葵が一条の家に残ってたし」


「確かに……行こうかな」


 七時三十分だが、七月ということだけあってまだ少し明るさは残っているが、一条の家からは既に光が点っている。


 一条の家に逆戻りして、敷地にある庭の方へ周りそーと窓から家の中身を盗み見見る。


 そして、言葉を失い愕然とした。


 あの葵が一条の膝に抱きついているのだ。

 真奈も同じような反応をしていて愕然としている様子であり、ロボットのような動作で私の方を見てくる。


 二人で顔を見合わせばっちり目が合う。


 こんな風景を見せられたらそうなるのは当たり前だ。


 男子恐怖症と言って学校中の男子を拒んできた葵が自ら一条の膝に飛びついているのだから。


「えっ、えっ!二人はやっぱり」


「確信したわ」


「「付き合ってるね」」


 これは間違いない。証拠をばっちり押さえてしまった。

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