下校時の出来事

 日直当番で遅れた為、葵たちは先に下校しているみたいだ。


 襲われないと祈るばかりであるが、何故かさっきからやはり級長の視線を感じるのだが……。


「ど、どうしたんだ?級長」


「い、いや別になんでもないんだけど」


 声を急にかけたからなのか級長の肩がビクリと跳ねる。


 いや、絶対動揺してますよねこれ。

 まあ、いいか。言いたくなったいつか言ってくるだろ。


「お疲れ、級長。俺は先に帰るからな」


 日直当番の仕事が全て終わって晴れ晴れ、家に帰れる。


「まっ、待って!」


 右手を力強く引っ張られる。


 やっぱり何かあるのか……。


「さっきは助けてくれてありがと、その足大丈夫?」


 バレてたのかよ、恥ずかしい。


 咄嗟に庇ったから、左脚の足首を軽く捻ったみたいである。これといって痛いといった歩き方はしてはいなかったのだが、さすが級長。


 皆を見ているだけあって鋭いな。


「まあ、大丈夫」


「ごめんね、私のせいで。……そのお詫びと言ってはなんだけど今度私の家でお茶していかないかな……?」


 突然の誘いに驚愕してしまい、表情にまで出てしまった。


 人とあまり遊ばないイメージがある級長の方から誘いが来るとは思ってもいなかったからである。


 断る理由もないしな……。


「有難く頂戴するよ」


「うん!」


 とは言ったものの、葵にバレたらなんて言われるか……先が思いやられる。


 自分と遊ぶのは喜ぶ癖に俺が遊びにいく約束をしていると何故か厳しくなるのだ。


 ……よく、分からんな。


 級長と別れてとぼとぼ一人で虚しく帰宅する途中だった……。


「やめてください!」


「いいじゃねーかよ、ちょっとだけだってば」


 俺と同じ学校の制服を着用した女子生徒が明らかにチャラい男子集団に囲われ、その内の一人から腕を掴まれている。


 今日は何回騒動に会わされれば気が済むんだろうな俺。


 見て見ぬふりをして逃げる手もあるが、なんせ『困っている人を助ける』のが俺のモットーでしてとか、かっこいい言葉言ってみたいけど。


 ここで見て見ぬふりをするのは俺のプライドが傷つく。


「おいっ、離せよ」


 「お前らも同じようなことしてるだろ、お互い様だ」


 掴んでいた相手の左首を強く握り締める。


 「い、いてぇぇぇええ!!」


 必死に俺の手を掴み抵抗するが、やめるはずもなく手が一時的に機能停止するくらいの時間握り締める。


 「あぁぁぁあああ!!」


 離した瞬間、握っていた左首を覆うようにして地面に膝から落ちていった。


「あんっ!なんだお前!」


「ヒキニートを目指している者だが」


「舐めてんのか?ごらぁ」


 殴りが顔面を向かって飛んでくるがしっかりと右手で受け止める。


 感情に任せた攻撃ほど止めやすい攻撃など無い。


「はっ、助けに来たところで何人居ると思ってんだ?

 お前一人で止められる訳がないだろ、馬鹿が」


「……馬鹿はどっちだよ」


 呆れたような口振りでつい口が滑ってしまった。

 心情がつい言葉にして出すところも改善点か……。


 実際、馬鹿は向こうなのだがな。集団じゃないとろくに力もないような雑魚には負けるわけが無い。


「あぁん?!お前この状況分かってんのか?

 お前の前に一人は潰されたが残り四人いるんだぞ?

 頭湧いてるんじゃないのか。まあいい、やれ」


 殴り襲って来たのは三人か。囲って真正面から殴ってくるとは自滅行為にもほどがある。


 これ回避するだけで勝手に三人自滅してくれるな。


 という訳で、軽くしゃがむ。すると、三人は互いを見合うように顔面を殴り合い、三人共に地面に倒れ込む。


「自滅とは信頼が足りないんじゃないか?」


「くそっ!!馬鹿どもめ、使えん!」


 結局、お前も殴りかかって来るのかよ自滅したこいつらと同じ無能じゃねーか。


 左手で相手の右腕の手首を持つような動作をとり、左脚を軸に脇に右手を入れ半回転し、背負い投げを決める。


 地面と強く衝突して呼吸が苦しそうになっているが、それ相応のことをしたのだ、体裁というやつだろう。


 残りは……もういないのか。


「大丈夫か?」


 今の動作に驚いたのか顔まで気持ちが溢れ出ている。


「う、うん……ありがと」


 左首をやっていたから、なかなか思い通りには動く事が出来なかったが、事は済ます事ができたから及第点としておこう。


 昔の合気道と空手をやっていた全盛期と比べると衰弱しきったな。


 一日で二人を助けるとは俺もお人好しになったものだ。……これも葵のお陰なのか。まあそんなことは今は関係ないな。


 軽い捻挫で済んでほっとしたというか本当に安心だ。大事になったら葵が看病しに来て、怪我どころでは済まなくなるからな。


 地面に落とした鞄を肩にかけて家に再び向かう。


「あっ、あのっ。」


「ん?どうした?」


「な、名前だけでも教えてくれませんか?」


「一条 和也だ」


「本当にありがとうございます」


 深い謝礼をしているのを背にして猫背で帰る俺であった。

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