第2話 4月15日

結局この間の騒動の結果、駿介と鶴見さんが付き合ってるのはばっちり学年中に知れ渡ることとなった。


大方の予想通りネズミーパークに行った帰り道に駿介から告白したらしい。

プレゼントのネックレスまで渡して真剣な告白だったそうだけどそれに対しての鶴見さんの返事が

「私たちもう付き合ってると思ってた」

だったって聞いて僕と結華は爆笑しちゃって駿介にどやされてしまった。

いやでもこれ聞いて笑わない方がおかしいと思うんだよね。


ちなみに僕と結華の予想はどちらかと言えば鶴見さんと同じでなし崩し的に付き合った、だったしやっぱり面白い。




そんなこんなであれから10日経ち今日は新学期恒例の体力テストの日。


僕は運動は苦手ではないけど得意でもないって感じで結華もそれほど運動は得意ではないからとりあえず怪我なく過ごそうって思ってる。

うちの学校は午後のシャトルラン以外は好きなやつとペアで回れるから結華と半日は2人でいられるからちょっとだけ嬉しい。


逆に駿介と鶴見さんは2人とも運動部で運動が得意だから今日は全力で行くって言ってた。

どうも2人で得点勝負をするみたいでいまも2人で

「絶対負けないんだからねっ!」

「おうよ、望むところだ」

なんて言い合ってる。



「ねー結華、あの2人どっちが勝つと思う?」


「私は舞ちんかな。多分運動自体は高畑くんの方が出来ると思うんだけど採点基準が女子のが甘いし、いつもAランクも女子のが人数多いからさ」


「確かに男だし駿介のが多少はできるだろうね。でも僕も鶴見さんが勝つと思うかな。バレー部の駿介は立ち幅跳びくらいしか活かせるところがないけどハンド部の鶴見さんははシャトルランに短距離、握力とハンドボール投げと活かせる。さすがにこのアドは覆せないんじゃないかな」



そう考えたらハンド部って体力テストに強すぎる。

男子でも僕みたいな人なら鶴見さんみたいな本気でやってる人達には点数どころか普通に記録でも負けるやつあると思うし。



「涼くん、どこから回る?」


「結華はどこから回りたい?」



個人的にいえば嫌なところ、ハンドボール投げとか上体起こしとかからやりたいんだけど、やっぱり彼氏たるもの彼女の意見は尊重すべきだと思うんですよ。



「うーん、徐々に上げてきたいからハンドボール投げか握力かな」


「なるほど、なら今は外にいる人の方が多そうだから先に握力行こうか」



握力は体育館で計測するので2人で体育館シューズに履き替えて移動する。



「握力っていつもあんまり結果良くないんだよね。涼くんはどう?」


「僕も普通に35キロくらいが限界かな。みんな40とか50とかすごいと思う」


「何か必殺技的なのないのかな。結果がちょっとよく出るみたいなやつ」



聞いたことある。去年誰かが言ってたような……。



「あ、思い出した。力入れてる時ににゃーって叫ぶと余分な力が抜けてちょっとだけど記録が伸びるって言ってた」



僕がそう言うと結華は何故か顔を赤らめて控えめに



「にゃ、にゃあ?///、これっ恥ずかしいっ!///」



僕が思ってたのとは違ったけど、これはこれで……破壊力が高すぎるっ……!!

そんな可愛すぎる結華に僕なんかが勝てるはずはなく、



「もう1回!手もつけて、お願い?」


「こ、こうかな?じゃあ行くよ?にゃあ♡」


「可愛すぎるにゃあ」


「にゃにゃっ!?あっ、ちょっと!涼くん!鼻血出てる!」



あまりの可愛さに鼻血が出てしまった。

普通に結華が言っただけでこれってことはコスプレなんかした暁には……?



うん、やばい。

語彙力が無くなるくらいにやばい。

世界一可愛い結華が猫になったら世界が滅んでしまう、ぜひ着てもらわなきゃ、じゃなくて……



「涼くん!何ぼーっとしてるの?顔赤いしなんかえっちなことでも考えてたんでしょ」



結華がジト目で見てくるが図星なので何も言えない。そんな僕に結華は追求の手を緩めない。



「なになに、何考えてたの?結華ちゃんに教えてくれたらできる限り願いを叶えてしんぜよう」


「まじ?いや結華が猫の着ぐるみとかコスプレしたら可愛いだろうなぁって想像したら世界が滅びるくらい可愛すぎて顔に出ちゃったみたい。それにしても結華は太っ腹だなぁ。でも見せるなら僕だけにしてよ?」



まさかそんなストレートに言われると思ってなかったのか結華は慌てて



「にゃにゃっ!ま、まだだめっ!もうちょっと大人になってから!」


「もう結華は十分大人だと思うけどなぁ」


「も、もう少し待っててにゃあ」



はいかわいい。うちの彼女はこんなに可愛いんですよーって世界中の人に自慢したい。

とりあえずぎゅーって抱きしめて耳元に囁くように、



「分かったにゃあ♡今度心の準備が出来たら買いに行こうね?いっぱい愛し合お?」


「にゃ、にゃ〜ん///」



茹でタコみたいに顔を真っ赤にした結華はその場にへたりこんでしまった。

可愛い、可愛すぎる。

しばらく待ってみたものの動ける気配のない結華。

でもまだ体力テスト中。イチャイチャだけしてる訳にもいかないので子猫ちゃんを抱き抱えて上体起こしに向かう。


途中ひゅーひゅーとか揶揄う様な声も聞こえたけどもう慣れたもの、気にしない気にしない。






屋内種目もあと1種目、体力テスト界のオアシスこと長座体前屈を残すのみとなった。

他の生徒もそろそろ疲れが出てきたのか他の種目より人が多く集まっていて少し待機する時間があるようだったので少しでも記録を上げれるように結華とストレッチをすることにした。



「涼くん、体硬すぎない?私頑張って押してるのに全然動かないんだけど」


「去年はもうちょっといけたんだけどなぁ。部活もしてないし仕方ないっちゃ仕方ないけど」


「でもこのままだとほぐれないよ?そうだなぁ……。このまま私が涼くんの上に乗ったらさすがに伸びるかな」



結華が俺の上に乗るってことは……!!!



「じゃあ行くよ〜?最初はゆっくりだよ」


「うんよろし……ああああああ痛い痛い痛い痛い」



おっぱいチャンスかと思ったら痛すぎて全然感覚がわからない!!

思ってたより僕の体は硬いみたい……。


そんな僕を見て結華が耳元で囁いてきた。



「頑張れ頑張れっ!まだやれるまだやれる!」


「そうだよねがんば痛い痛いって!タンマ!タンマ!」


「涼くん体硬すぎ。今日からお風呂の後柔軟しないとだね」


「はい結華様、仰せのままに……」



痛すぎて悟った。この世は痛みでできている。

もしかしたらお風呂の後のちょっと柔らかい状態ならおっぱいの感覚もわかるのではとか思ってないから。



「何言ってるの涼くん」



そんなことを言った結華には僕の心はお見通しなようで。



「涼くんだったらおっぱいくらいなら帰ったら触らしてあげるから。だからさ、今はダメだよ?」



でもさすがの結華もやっぱり恥ずかしかったようできゃー言っちゃったーって言いながら自分の赤く染った頬を手で覆うようにして顔を隠してしまった。


なにこれ僕の彼女めっちゃ可愛い。



「結華、可愛いよ」


「も、もう涼くん!」








こんな感じで屋内種目も終わり(僕の長座体前屈は3点しか無かった)、外へ出ようかという所で駿介と鶴見さんに会った。



「今んのこどんな感じ?」


「私が勝ってるわ!」


「おい!1点差だろ余裕余裕」



1点差で鶴見さんが勝ってるらしい。意外にも駿介は健闘しているみたいだ。



「案外駿介頑張ってんじゃん」


「彼女には負けてらんないからな!」


「なによー!現実を見なさいな。今ですら私が勝ってるのよ?あ、そう2人とも聞いてよ」


「えっちょっ舞!」



鶴見さん曰く駿介が悪いらしいのだが要約すると駿介に見蕩れて自分のプレーに集中できなかったらしい。


付き合いたてほやほやカップルだもん仕方ないね。


いたたまれなかった駿介は逃亡しそれに気づいた鶴見さんも話し終えたあとすぐに追いかけていった。



「舞ちんの惚気を聞くようになるとはなぁ」


「ね、一生付き合わないまま腐れ縁してくのかと思ってたもんね」


「まあよかったよ。あんな可愛い舞ちんが見られるなんて生きててよかったーって感じ」



先週も思ったけど鶴見さんさ、結華と仲良くしすぎじゃない?取られそうで怖いんだけど。



「涼くん!なんでそんなムスッとした顔してるの!え?まさか舞ちんに嫉妬したの?可愛いなぁ涼くんは〜。おねーちゃんがよしよししてあげようじゃないの」



結華は時々僕を子供扱いして自分を姉と呼ぶことがある。生まれた日は2ヶ月ちょっと早いから間違ってはないんだけどなんか悔しい。

でも頭撫でられるのってめっちゃ気持ちいいよね。逆らえない感じが好き。



「涼くん機嫌直った?外行かないとあんまり時間ないよ?」


「まだ直ってないけど行く」




外種目はまあ外だし、なにか特筆したことも無く順調に終わり、残すは午後のシャトルランだけとなった。



「いつも思うけどシャトルランを午後にやるのやめて欲しくない?」


「わかる。弁当吐きそうになるし結華が作った弁当で気分悪くなるってこと自体が嫌」


「あはは、なにそれ嬉しいような悲しいような」


運動部じゃないからまだマシだけど男子って謎に圧力があって気持ち悪いからって止められないのがだるい。

それがなければいいんだけどね。



「かといって一斉にやれる時間も午後イチ以外ないんだよね。朝イチでも今とそんなに変わんないし」


「それこそ別日に授業の時間でやるとかじゃないと無理じゃない?」


「あ、それなら出来るね。でも朝ならご飯の後少し運動してからこれば行けるかも」



そう!朝ハグしてキスしたなら……



「運動、運動?」


「ほら俺らって去年から朝ハグしてて今年からキスしてるじゃん、来年からは結華するって言うかもって思って」



運動では分からなかったらしいが意味がわかった瞬間に顔が林檎のように赤くなる。でもハグもキスも結華から言ってきたやつだから有り得なくはないよねって冷静すぎかな。



「もうっ!今日の涼くんえっちなことばっか考えてるっ!次そんなこと言ったら今日帰ってもおっぱい触らせてあげないんだからねっ!」



ご褒美おっぱいタイムが無くなる!?

それは……困る!!



「ごめんなさいやりすぎました」



即土下座した。



ご飯はいつも通り美味しかった。







そんなこんなで、とまとめていいのか分からないけれど1日も終わりに近づき最後の種目であるシャトルランを残すのみとなった。


なんと駿介と鶴見さんの勝負は駿介が逆転し、先程の逆に1点差をつけているという。なのに駿介は浮かない表情をしてるし鶴見さんは逆に余裕そう。普通逆にならない?



「ね、涼くん。舞ちんってね、今までずっとシャトルラン10点以外取ったことないんだよ。凄くない?」


「そうなの!よく覚えてるね結華。不肖私鶴見舞、小学校から10点以外を取ったことがないのです!」


「なるほどね。今の点数の割に表情が逆だなって思ってた。駿介っていつも7点とか8点だったもんな」


「やれるだけはやってみるけどな。やっぱきついかもしれないと思うと」



体力テストの点数には男女差があり多少女子の方が点が取りやすいことは初めの方に言ったと思うがことシャトルランにおいては他の種目より大きくその差が取られている。

男子は125回で10点なのに対して女子は88回。

男子の方はほんとに一部しか取れないのに対して、女子の方は文化部や帰宅部の生徒ならともかくハンド部や女サカ、バスケ部などの運動部なら優に超えられるような回数である。


故に仕方ない、と言われたら仕方ないのかもしれないが当人たちはそうは思わないのだろう。



「まだ始まってもないのに辛気臭いのはやめとけ。走るしかない」



勝てるかは分からないが全力を尽くすしかない。それが勝負というものだ。



シャトルランは女子からということになっていて鶴見さんは88回きちんと走りきり10点を確保した。

結華は56回でリタイアしていたがそれでも半分は超えていたと思う。


残りは男子のみ。

まあ僕はそこそこ走ればいいんだけどね。



「涼くん、頑張って!」


「うん、まあやれるだけ、ね」



ぼくは駿介を見に行こうかなと思ったけどちょっと離れたところで鶴見さんが話しかけている様子が見える。

それなら僕はいらないかな。男からして彼女の応援ほど心強いものは無いから。


所定の位置について少し待ち、スピーカーから聞こえるドーンという開始で走り始めた。








どれほど経っただろうか……なんてことも無くスピーカーから聞こえてくる93の声と共に僕はリタイアとなった。2回ラインが踏めなかったことになるので記録としては91回だ。


倒れ込んでいる僕に結華が駆け寄ってきて



「お疲れ様。よく頑張ったねー」



なんて言って抱きしめてくれた。可愛い。好き。


駿介はまだ走っているみたいで少しペース的には苦しいながらいま100回目の往復を終えた。


鶴見さんは手を顔の前で合わせていた。

あの恋をする乙女の目をした彼女の願いはは勝ちたい、では無いだろう。

愛する彼に頑張れって言いたいんだろう。


だけど駿介は敵から応援されることを嫌う。

鶴見さんはそれを知ってるからこそこうやって言葉にせずに願う。それが彼への愛情だから。



だが113回、ちょうど9点を確保したあたりで彼は少し遅れてきて、目に見えるほどフラフラになってきていた。体力はもうない。

けれど彼なりに彼女にいいところを見せたいっていう強い気持ちがあるからこその所業だった。





しかしそれでもやはり限界というものは無情にも押し寄せてくるものであって。

117回目に1度ラインを踏めず、118回目も2度目、ラインを踏めなかった。

そのリタイアとともに鶴見さんに抱きとめられるように倒れて、今は鶴見さんにうちわで扇がれている。



「結華、どうする?行かない方がいいよね」


「うーん、まあ行かなくてもいいんじゃない?そっとしとこうよ」



多分彼らは僕らがあそこに行ったとしても悪く思わないだろうしむしろ喜ぶかもしれない。

けれど2人だけの時間というのは大切なものだと僕らは知っていたから。



「そうしよう。結華、教室戻ろうか。さっき駿介スポドリ持ってたよね?」


「うん、持ってたと思う」


「ならいいかな。ていうか結局引き分けって驚いたな」



僕ら2人は駿介は負けると思っていたし。



「舞ちん、いい彼氏見つけたんだな。良かった」



駿介がいい彼氏……だと……。



「ねえ!涼くん、なんで落ち込むの?私は涼くんが1番好きだから大丈夫だよ?いつも言ってるじゃない」


「口だけかもしれない」


「なんでそんな疑り深いの。じゃあキスしてあげるからそれで許して」



そんなことを言って結僕にちょっと屈むように促してキスしてきた。

あ、やっぱり結華のことが好きなんだなって実感出来る瞬間。

早く2人だけの時間になりたい。



「結華、早く着替えて帰ろ!」


「もう!変わり身早いんだから!」





少し遠くから爆発しろみたいなことが聞こえた気がするけどきっと気の所為。


普段学校ではイチャイチャ出来ないから今日くらいはみんな許してくれるはず。

……はず。







◇◆◇◆

お知らせ

次回は3話ではなく2.5話今回の帰宅後をお届けします。

本当はここのおまけに載せようと思ってたんですけど本編長くなっちゃったんでこのような形にしたいと思います。

できる限り早く更新しますのでよろしくですっ!

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【大幅改稿予定・更新停止中】僕と幼なじみな彼女の365日 naka @nakanakapretty

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