第7話 商会の立ち上げ
後は交代制で通ってくる護衛が四人います。主に私の街歩きに付き合って頂いておりますが、ここには陛下しか訪ねてきませんし、わたくしの魔法で警備も万全です。
昇格を果たしてしまえば、正直に言って手持無沙汰です。
一人は元々料理が好きだったそうで、料理人二人と一緒にお菓子作りにせいを出しています。
失礼ながら顔と太い指に似合わず、可愛らしくて繊細なお菓子を作るものですから、護衛より向いているのかもしれません。
残りの護衛とは、一緒にそこそこ値がはる材料を使って石鹸や化粧品を作るのを手伝って頂いたりしております。
絞ったり煮たり混ぜたり、力仕事をお任せしていたのですが、一人の護衛は自分の肌が弱いことに悩んでおりました。
敏感肌でも使える化粧品の研究開発に、今では夢中になっております。良い傾向ですので、研究開発のコツを教えました。
私の役目は、一応監督と指導でしょうか。魔法でここにはない器具の再現をしたりもします。
一通り興味があって職業訓練を受けていたことが役立ちました。
本格的に指導を受けていないものに関しては、母国より本を取り寄せました。
母国では実用的でない雑貨は敬遠されます。
どれだけ可愛かったり美しくても、使い勝手の悪い物は研究者気質が多い母国では受け入れがたいのです。
カレンと一緒に職人と打ち合わせを重ね、実用的でありながらデザインにも拘った雑貨を発注しました。
ロゴも入れて貰い、ロゴ入りの包装紙も発注しました。それらは独占販売契約も結びました。
カーマインは私が見守る中、初めての契約をしました。これらの雑貨は母国での販売にも期待できそうです。
商品がある程度揃いましたので、私の友人に名を借りて商会を立ち上げる準備を始めます。
店員も職人と花屋の従業員から一人ずつ紹介していただけました。
可愛い雑貨や花、お菓子などを売る店ですが、売り上げの大半は化粧品になるのではないかと予想しております。
素晴らしい商品が出来たので、私も愛用しております。
お店のテーマは”自分へのご褒美”です。外観も内装も、少し高級感のある物で揃えました。
表には人目を惹く美しい花々を花瓶や籐かごなどに入れて陳列し、内部には化粧品、小物、レジ前にお菓子を陳列しました。
室内に匂いが籠らない様に魔法で空気を循環させ、花には母国で開発された見頃の状態を長持ちさせる薬を使用しております。
小腹が空く時間帯には甘いお菓子の匂いを振りまいたりもしてみました。そのお陰か、順調な滑り出しです。
空いた時間に周囲に宣伝し、商品をせっせと作っておいて良かったです。
陳列方法に気を配ったり、可愛いラッピングをしたりして、お給料日にちょっと自分へのご褒美として買いたくなるような、そんなお店になったと思います。
当初の予想通り、化粧品の売上げが好調です。これには紹介して頂いた従業員が活躍して下さいました。
先行して化粧品を試して頂いた所、水仕事などで肌荒れに悩んでいる方に口コミで商品の噂を広げて下さっていたのです。
狙っていた訳ではありませんが、職人も商店で働く方も手荒れで悩んでおられた方が多くおられたそうです。嬉しい誤算でした。
貴族と会うこともないので、ドレスを仕立てる必要もございませんし、持ってきたドレスも母国で伝統的だった物以外は、型落ちする前に売り払いました。
陛下には母国の服装の方が楽なのでと言っております。事実であったこともあり、深くは追及されませんでした。
お庭にも興味がないのか、ハーブや薬草でも花が咲くものがあるので私の趣味だと思われているのか、そちらにも特に言及はありません。
野菜は奥で作っておりますので、気付かれなくて良かったです。本当に自由に商売に必要な物を購入し、栽培させて頂いております。
この国では奉仕することが美徳とされており、特に貴族の間ではお礼を言われることも少ないそうです。
それを知っていたので、お客様の喜ぶ様子を見せた所、それぞれが新しい喜びに目覚めたようです。どうせ努力するなら喜ばれた方が嬉しいに決まっております。
余った予算でそれぞれが研究や新商品開発に励み、足りないものはわたくしの母国の伝手で仕入れをしております。
全員で新しい商品の研究をし、いつの間にかここは側妃が殿下のお通りを待つ場所ではなく、商会のようになってきておりますが、居心地は良いのでいいことです。
次第にきちんと利益が出るようになり、儲けの一部を給料として還元できるようになりました。
「皆さん、何があるかわかりませんから、きちんと貯金しておくのですよ」
「「はいっ!!」」
実際この国なら何かあると思いますしね……。
最初は庶民向けに少し良い品程度で揃えていたのですが、口コミで肌の弱い騎士がお店に来るようになり、奥様や同僚へのお土産に買ったお菓子が可愛くて美味しいと噂になり……。他の商品も更に売れ始めました。
私たちだけでは商品供給が追い付かなくなってしまい、品薄の為に余計に話題になっている状態です。
特に化粧品、中でも騎士愛用のクリームが売れ過ぎております。過剰供給は良くありませんが、あまりにも品薄は商機を失います。
父にお願いして、いくつか母国でも生産して頂くことにしました。魔法でするので、大量生産に向いています。
一方で手間のかかる小物類は魔法には向いておりません。『スローライフの国』にいる知り合いの職人にも、一部を発注しました。新商品の開発は相変わらず離宮で行われています。
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