第3話 結婚式などはありません
『魔法の国』はこの大陸の西の真ん中あたりに位置しています。北の国境を接している『芸術の国』の更に北に、『武の国』があります。
『武の国』は鉱山が豊富で、多くの金属や宝石を産出していますが、反面農業などには土地が向いておりません。いかつい鉱山夫と鍛冶師が武器や防具を作り、それを求める腕に覚えがある人達が集まって、武力重視の国になっています。
『武の国』は南の国境が『スローライフの国』『芸術の国』『帝国』と接しているのですが、彼らはつい優れた武器や防具が使いたくなるのか、時々『スローライフの国』に攻め込みます。
『スローライフの国』は我が国とも西の国境を接する縦に長い国ですが、スローライフがしたいと言いながら国王になった、勤勉な転生者が興した国です。
その影響か、スローライフとは言い難い勤勉な方たちが多く住み、土壌改善に品種改良などの農業改革を起こし、この付近の食糧庫となっております。
我が国は様々な面で『スローライフの国』と協力体制を結んでおり、時々攻め込んでくる『武の国』を追い払うのにも協力しています。
『武の国』としては、豊富な農業資源が目当てなのだと思います。『帝国』は軍事力がある強大な国で、攻め込めば返り討ち間違いなしですし、特に資源もなく領土も狭い『芸術の国』には興味が無いようです。
『芸術の国』も基本的には周囲に興味が無いようで、自国の防衛にのみ力を入れています。
さて、長々と状況説明を致しましたが、我が国は『帝国』とは不可侵条約を結んでおりますが、『武の国』とは結んでおりません。
なので、この機に乗じて『武の国』が『芸術の国』を滅ぼしては困るのです。
興味は無くても、機会があれば攻め込もうとするくらいには好戦的な国です。実際に、その検討に入ったと言う情報も入手しているそうです。
我が国と直接国境を接することになれば、『武の国』に対して本格的な防衛をしなければならなくなります。
大陸で魔力を持っている人の九割が我が国に在籍していますが、基本研究者気質で争いなどを好まない国民柄です。
けれど、攻撃魔法の研究が大好きな人間も勿論いますし、何より研究の邪魔をされれば、研究者たちは黙ってはおりません。
そうなると、研究がてらあらゆる魔法を『武の国』になった『芸術の国』へ放つ未来が父には見えたようです。
正直、『武の国』は我が国の敵ではありませんが、父は国土が拡大してこれ以上仕事が増えることを嫌がっていますし、国民も他国の領土に興味などございません。今の状況に充分満足しているのです。希望は現状維持なのです。
私がやらかした王子と結婚することで、『魔法の国』が『芸術の国』を支援しているとちらつかせ、国として立ち直るまでの時間を稼ぐのが目的でした。
実際、私が結婚することでいざという時に『魔法の国』から人材を送り込みやすくなります。我が国には『スローライフの国』での実績があるので、彼らも慎重になるはずです。
『芸術の国』の新たな国王になった王弟アウグスティン様は、王位継承権争いで暗殺されそうになっていた所を助けた魔法使いとの縁で、お兄様である前国王が即位されるまで、『魔法の国』へ留学されておりました。
その関係で父と親交もあり、直ぐに私の輿入れが決まりました。
父が話をした所、母国が”焦土”になる未来がアウグスティン様にも容易に想像出来てしまったそうです。
アウグスティン様は長く我が国にいた為に、母国の身内での争いや身分制度に嫌気がさし、国に呼び戻された後すぐに、母国と国交のない国へ外交だと言い張って移り住んでおりました。
今回の失態で急遽呼び戻され、周囲に味方がいない状態のアウグスティン様が、一番母国の置かれている状況を理解したことでしょう。
王太子ハイトブルク様の正妃は国を救った侯爵令嬢ローザリンデ様で、こちらの思惑もあって私は側妃になることになりました。
男爵令嬢が現れるまでは元々仲の良かったお二人らしいので、今は甘々の蜜月状態だということです。
『武の国』へ素早く牽制を行う為に、私は早急に輿入れせねばなりません。
輿入れ後に家庭教師から『芸術の国』について本格的に勉強し、『芸術の国』の法律に則って女性が成人と見なされる十五歳になってから公務にも参加することになりました。
他にも様々な配慮で、まずは王宮から普通の馬車で一時間程の離宮に住むことになりました。
それでも敷地内らしいので、王宮の広さが伺われます。えぐい身分制度による貧富の差を感じてしまいますね。
準備もそこそこに輿入れを致しました。輿入れの際には陛下、王太子、王太子妃、使用人による出迎えはありましたが、陛下以外にはあまり歓迎されていないのがすぐにわかりました。
私の輿入れに、どの様な意味があるのかわかっていないのでしょうか。それとも、わかっていても心情的に受け入れられないのでしょうか。
経済的な打撃から王太子と王太子妃の結婚式が延期になっていますので、側妃である私とも書類上だけ先に結婚することになりました。
ちなみにこちらでは、成人前の女性に手を出すのはご法度なので、初夜もございません。
書類の記入を終えると旅の疲れを癒すように言われ、直ぐに離宮へ案内されました。
正直、魔法を駆使した移動ですので、疲れなどないのですけれどね。そこは有難がっていた方が良いと判断しました。
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