最終章 大樹の塔

25

 突如、レイトを縛り付けていた蔦とネイナを覆い尽くそうとしていた蔦が全て切れた。


 ネイナには最初何が起こったのかわからなかった。そしてネイナはレイトを見て驚愕する。レイトの背中には黒い翼があった。


「暴走? そんな、力が使えないはずなのに」


 しかし、それはただの暴走とも違っていた。レイトの背中には右と左、両翼があった。それを見てネイナの体に悪寒が走った。


 あまりにも禍々しかった。それは見たものにすべてに畏怖の念を抱かせる、邪悪な翼だった。


 そしてレイトは笑みを浮かべていた。レイトのものとは思えない黒い笑みを。


「やっとこの時がやってきたよ」


 レイトがそういった。最初ネイナは別の人が喋ったのではないかと思った。


「ようやく全てを壊せる」


「レイト? 何を言ってるの」


「ネイナ。あれは違う」


 ゴフェルがそういう。


「あれは――悪魔だ」


「あく……ま?」


「やあ、はじめましてかな。ゴフェル」


 レイトは言った。


「何のようだ悪魔め」


「何のよう? さっきいっただろ。僕はすべてを破壊しにきた」


「なぜそんなことをする」


「なぜ? 悪魔ってのはそういうものだろう? 世界を混沌に陥れて破滅させる、すべてにあだなす最悪の敵。それが悪魔だ」


「話をするだけ無駄だったみたいだね」


「ああそうだよ。それにどうせいまから君は消える」


 レイトはそう言ってルシカの体めがけて突き進んだ。


「レイトやめて!」


 ネイナはレイトの前に立ちふさがった。


「ルシカさんの体なんだよ! 傷つけたらだめ!」


「……ネイナ?」


 レイトはピタリと止まってそう言った。


「レイト!? レイト返事をして!」


 ネイナが呼びかけるとレイトは苦しみだした。


「レイト! 悪魔なんかに負けないで!」


 そうネイナが言うとレイトは叫んだ。そしてどこかへ飛び去っていった。


「レイト!」


 ネイナはその後を追った。


「待つんだネイナ!」


 ゴフェルが呼び止めたがネイナはいってしまった。




 レイトは大樹の中を出て行った。ネイナもその後を追う。


「ネイナ!」


 その途中にラゴリがいた。


「よかった無事だったんだな。あれはレイトだよな。一体何が」


 ラゴリは先に出てきたレイトの姿を目にしていた。


「ごめんラゴリ。今はレイトを追わなきゃ。後で全部話すね」


「ああ……わかった」


 そう言ってネイナは飛び去った。


 ラゴリたちはレイトたちが落ちた後、すぐさま長老を問い詰めた。レイトたちの救出のために扉を開けさせようとしようとしたのだ。長老は長い間渋って扉を開けようとはしなかった。しかし、ようやく長老は観念し扉を開けた。そしてその瞬間、二人が飛び出してきた。


 ラゴリは二人が去った後を見ていた。


「大丈夫だよな」


 ラゴリは自分に言い聞かすようにいった。


「二人で……帰ってくるよな」




 レイトが向かった先は神殿階層の更に上、大樹の塔の頂上だった。そこには大樹の上端部分が見えるだけで他には何もなかった。


 レイトはそこでようやく、地面に降り立って止まった。


「……レイト!」


 すぐにネイナは現れた。


「帰ろうレイト。みんなまってるよ」


 ネイナはレイトに一歩近寄る。


「……きちゃだめだ!」


 レイトはネイナから離れる。


「お願いだネイナ……」


「でも」


 レイトは絶叫する。黒い両翼が揺れた。そしてネイナに向かってカタハネが放たれた。


 ネイナはそれをかき消そうとする。しかし、その膨大な力を完全にかき消すことができず、ネイナの体は吹き飛ばされた。


「ネイナ! ネイナ大丈夫!?」


 ネイナは何とか立ち上がった。しかし、レイトの翼がまた揺れた。


「やめろ!」


 レイトはカタハネを何とか逸らした。直後ネイナの横で空気が破裂する。ネイナはまた吹き飛ばされて転がった。


「やめて……傷つけないで」


 レイトは必至にカタハネを抑えこもうとする。しかしカタハネはまた放たれようとしていた。


「ネイナ逃げて! 俺に君を傷つけさせないで!」


 レイトはまた絶叫して苦しんだ。カタハネは空に向かって放たれた。


 ネイナは今のままじゃどうにもならないことを悟った。このままじゃレイトを失うだけだ。そう考えたネイナは一旦その場を離れた。


 ネイナは考える。今のままじゃ悪魔にはかなわない。そう今のままじゃ。なら力を手に入れる。


「レイトごめん……がんばって。すぐに戻るから」


 そして、ネイナは神殿階層に向かった。




ネイナは神殿まで戻ってきた。それをラゴリたちが出迎えた。


「ネイナ! レイトはどうなった」


「ごめん……何もできなかった」


「そうか……」


 ラゴリは山程聞きたいことがあったがそれを言わずにおいた。


「それでラゴリ。お願いがあるんだ」


 ネイナの目はまだまっすぐと前を見つめていた。


「おう! 俺にできることならなんでもするぜ!」


 ネイナがまだ諦めてはいないのを感じ取って、ラゴリはそう明るく答えた。


「大樹の塔の人々を避難させてほしい」


「……ああわかった。行くぞチビども」


 ラゴリはそれだけ言ってすぐに下の階層に向かった。


 ネイナはラゴリに心のなかでありがとうとつげた。


「それは彼だけではむずかしいだろう?」


「……隊長! なんでこんなところに!」


 隊長は意識を取り戻していた。


「私も大樹の塔の人々の避難を手伝おう」


「……ありがとうございます」


「いいよ」


 そういって隊長も下の階層に向かった。その隊長の後を二人のミギがついていった。


 ――いこう。


 ネイナは大樹の中へと進んだ。

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