22
「……死ぬかと思った」
レイトは生きていた。レイトはかなりの高さを落ちた。しかし、地面に衝突する寸前にピタリとその勢いは止まった。
「……レイト」
レイトの胸に抱かれていたネイナが弱々しく言った。
「よか……た」
どうやら、ぎりぎりで意識が覚醒したネイナがカタハネで止めてくれたようだった。
「ネイナ! 大丈夫!?」
「……大丈夫。すいみん……やく、みたい」
ネイナのまぶたは半開きでかなり眠そうだった。
「ネイナ無理しないで」
「うん……ごめん……まだねむ……い」
ネイナはまどろみの中に戻っていった。相当強い薬のようだ。ネイナは規則正しい寝息を立て始めたが、本当に大丈夫なのかレイトは心配になる。
レイトはふと自分の手から血が出ているのに気づいた。
「そういえば切れてたな」
レイトは服の裾を破って適当に止血しておいた。
レイトは周りを確認する。レイトの周りには一緒に落ちてきた瓦礫だけが転がっている。どうやら他に崩落に巻き込まれた者はいないようだった。レイトは少し安心する。
レイトは上を見上げる。遙か先に明かりが小さく見える。相当な高さだ。レイトは考える。ここはどこだ。下の階層? いや、扉は大樹の中に続いていた。それならここも大樹の中のはずだろう。上に戻るなら、ここでネイナが起きるのを待ったほうがいい。
レイトは前を見据える。その先には通路が続いていた。――いったいこの先にはなにがあるのだろう。
レイトは隊長の言葉を思い出す。
『君たちは大樹の巫女のことを何もわかっていない』
レイトは何も知らなかった。
『君たちはこの子を助けて、その後どうするつもりだい? 大樹の塔をずっとにげまわるのか? この狭い世界で?』
逃げ続けるのはたしかに無理がある。
「知っておかなきゃ……いけないよね」
レイトはそう呟いた。
レイトはネイナ抱き上げて、先に進みだした。真実の解明のために。
通路は暗かった。しかし、完全な真っ暗闇ではなかった。通路には太い蔦が絡み合っているのだが、それが少しだけ発光していたからだ。
「なんだろう。不思議な蔦だな」
レイトはその蔦になんだか優しい気持ちを感じた。
レイトは更に奥へと歩みをすすめる。しばらくすると少し開けた場所へとたどり着いた。
そこには大きな石碑があった。レイトはその石碑に刻まれている文字を読もうとした。
「なんだこれ。見たことない文字だ」
レイトが普段使っている文字とは違うようだった。
「……レイト?」
ネイナが思っていたより早く目を覚ました
「あれ? どこ、ここ?」
レイトはネイナに一通り説明をした。
「大樹の中かあ。不思議な場所だね」
ネイナはレイトから降りて自分の足で立ち上がった。もう大丈夫なようだ。
「ネイナこの文字読める?」
「古代語だね。少しなら読めるよ」
ネイナは一通り文字を眺める。
「大樹の塔の創世物語みたい。でも始めが違う」
ネイナはそれを読みあげる。
――それは世界が大洪水にのまれる前。まだ世界中に大地があった時の話だ。世界は戦争の渦中にあった。世界のいたるところで紛争が起こっていたのだ。そして人類は自ら破滅の一途を辿る。最終戦争が勃発したのだ。最終戦争と呼ばれたそれは核戦争だった。世界中で核が発射された。核はあっと言う間に世界を飲み込み、大地を不浄の地へと変化させた。そうして世界は滅びを迎えようとしていた。それを悲しんだ神は地上へと涙を流した。それは大洪水となってすべてを浄化するために世界を飲み込んでいった。
そこから先はレイトたちの知る創世物語とほぼ一緒だった。
「なんなのこれ……」
「ネイナ。『かく』っていったい」
レイトは核を知らなかった。
ネイナはそれに答えなかった。
「レイト……先に進もう」
レイトたちはネイナの言う通り先に進んだ。
レイトたちがしばらく進むと、なにか前方に一際明るい場所がみえた。レイトたちはそこに向かっていく。
そこには大量の蔦が集まっていた。だから一際明るかったのだろう。そして、その蔦の集まる先にその人物はいた。
「かあ……さん?」
それはルシカだった。ルシカは磔にされるような体勢で蔦の壁に埋もれていた。その体中に蔦が絡んでいる。
「母さん! 母さん大丈夫!?」
レイトはすぐにルシカの元まで駆け寄って、蔦を外しにかかる。しかしレイトの腕力でもっても蔦はぴくりともしない。
「くそ! なんだこの蔦は」
「レイト、どいてて」
ネイナが言う。ネイナはレイトがどくとカタハネを使って蔦を外しにかかる。しかしそれでも蔦はぴくりとも動かない。
「無駄だよ」
突然その声は響いた。その声のしたほうを見ると一人の女の子がそこには立っていた。その顔立ちはどこかルシカに似ていた。そして、その背中にはカタハネのものとは少し違う、本物の翼が左側に生えていた。
「君はいったい……」
「僕かい? さてなんだろうね」
レイトはその言葉に既視感を覚えた。それはレイトが見る夢の影と同じ言葉だった。
「冗談だよ。僕の名前はゴフェル。この大樹の主、いや、大樹の塔そのものといったほうがいいかな」
「大樹の塔そのもの?」
ネイナはその言葉を繰り返す。
「ようこそ大樹の塔の心臓へ。さてどこから話したものかね」
そう言うとゴフェルは笑った。
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